折角海に来たにも関わらず、泳いでません!
そして相変わらず好き勝手してます。今回は反省点が多々あります。
スルースキルを持ち合わせいる方はどうぞ……(:3 」∠)
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赤くて崩れやすい果肉に歯を立てると、口の中に甘い汁が広がった。溢れて口の端に垂れる果汁を手の甲で拭うと、隣にいるナマエが「要ちゃん、おっとこらし〜」と言って笑った。
常備しているメモ帳が手元に無い以上、どのようにしてコミュニケーションを取るか要が悩ませていると、ナマエが「ねえねえ」と言葉を続けた。どうやら要の返事は求めていなかったらしい。
「赤茄子とか、西瓜とかに塩かけたら甘くておいしーらしいけど、海水かけても美味しいと思う?」
美味しくないと思う。
内心で即答しながら、要は大袈裟に首を横に振って否定する。
「そうだよねぇ。海水なんて何が混じってるか分かんうぶっ」
「!?」
横合いから飛んできた水がナマエの顔面に直撃した。
磯の匂いがナマエを中心に濃く香る。彼女を襲った水は海水のようで、皮肉にもナマエから滴った雫は齧りかけの西瓜が受け止めていた。
「いえーい、命中ぅ〜」
歌うように節をつけて言うのはランだった。
彼女の両手には黄緑と青のチープな水鉄砲が握られていた。ランの様相を見るに、犯人は彼女だ。
「ん」
と、一言発したナマエは要に西瓜を持たせた。自分のものを含めて両手に二つの西瓜を持つ羽目になった要は落とさないように気をつけながら彼女の様子を伺った。しかしナマエの猫目からは感情の機微は読み取れない。
それっきり黙っていたナマエは、水浸しの顔をパーカーの袖で荒々しく吹いた。右の袖が濡れて色が濃くなる。
「いーおー?」
ナマエの派手な反応を予想していたランはといえば、静かな彼女の様子に少し戸惑う。けれどもナマエはランの呼び掛けに答えず、前進してランとの距離を詰めた。
「受けて立とう」
にこ、とナマエが笑むのとランの顔が濡れるのはほぼ同時だった。
ナマエ相手に油断しきっていたランは(玩具ではあるものの)得物を取られてしまったのだ。ゼロ距離で海水を受け止めた彼女は、数度瞬きを繰り返して固まっている。丸くなったランの碧眼は驚きの色を示していた。
しかしそれも次第に落ち着き、ランはいつもの調子でニッと口角を上げて不敵に笑った。
「うっし! このラン・ヴェストル、容赦せん!」
声高に宣言すると、ランが浅瀬に向かって走り出した。
「あんたはこのミョウジナマエが直々にブチのめす!」
ランを追ってナマエも砂を蹴って走り出す。
舞い落ちる砂と走るナマエの背中を見送った要は置いて行かれた形になる。
「……」
どうしよう、と言いたげに眉を潜めた要は己の両手にある西瓜に目を配る。次に浅瀬で銃撃戦を繰り広げるランとナマエ(いつの間にかパーカーを脱ぎ捨てている。恐らくこれもランの仕業だろう)を見て、思案げに溜息を吐いた。
「……」
結果。
要はどちらの物か分からない西瓜を頬張り、宿借を探す綯子の元へ向かった。
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指先でビーチボールが器用に回転する。
「おっと」
バランスを崩して落下しそうになるボールを受け止めて小脇に挟んだノエルは、タッツィーナと碧、ビーの顔を見てにっこりと笑った。
「バレーしない?」
彼女の提案に断る理由などどこにも無い。
口々に了承の意を伝えるとノエルが歯を見せて笑った。
「そうこなくっちゃ。折角スピードワゴン氏がベアトリス嬢の為に色々設置してくれたしね」
そう言って彼女は、砂浜に張られたネットを示した。ネットを支えるために地中に埋められたポールには黒の印字ででかでかと「SPW」と書かれている。平素から仕事に熱心に取り組み、上司を支える彼女を慮ったスピードワゴンなりの気持ちなのだろう。……少々行き過ぎな感じも否めないが、そうでもしないとビーが休日を満喫しないと分かりきっているのだろう。
「丁度二対二で分けられますね」
タッツィーナが淡く桃色に光る唇を指先でなぞりながら言った。それにノエルが頷き、意味ありげにビーへと視線を送った。彼女の考えが読めないビーは訝しげに眉を顰めたが、何も言わないことにした。
「なら、ハンデというか――……ルールを設けよう」
言いながら、ノエルが人差し指を立てる。
その提案に意義を唱える者は無く、陽光を浴びた彼女の指先が白く照った。
「一つ。波紋とスタンド能力は使わない」
当然である。
もし個々の能力を使えばビーチが台無しになるどころかここにいる全員が無傷で済まないことは分かりきっている。ノエルは「能力ありだと間違いなく私が一番に潰れるからね」とおどけて見せた。
「二つ」
今度は中指が立てられる。
「碧は一回のサーブにつき三回までやり直し可能」
不意の名指しに碧が目を見開いた。あまりの驚きに言葉が出なかったのか、彼女は無言で小首を傾げて人差し指の先にある桜色の爪先で自身を差した。碧の言葉の無い問いに、ノエルがやけにはっきりとした発音で笑い声を上げた。そんなノエルの代わりに、タッツィーナが口を開く。
「元サーカス団員、現役用心棒、元刑事が相手だとフェアじゃないでしょう」
彼女の応えに合点がいった碧は、右手で作った拳でポン、と左の掌を打った。一方のタッツィーナといえば、応えたもののビーの職業を「用心棒」と称して良かったのかしらん、と少し不安げにビーに視線を送る。……が、視線の先にいるビーは特に気にしていないようで、ポニーテールの毛先を指先でくるくると弄っていた。
「これくらいかな」
笑いを収めたノエルがVサインの第一関節を数回折り曲げた。そして未だに毛先を弄っているビーに顔を向けた。
「問題無いかな」
ノエルが確かめるような口調で彼女に声をかけた。それに反応したビーは髪の毛に向けていた視線を上げて、彼女の青の相貌を真っ直ぐに見た。
「良いと思いますよ」
のんびりとした口調だった。
ビーの応えにノエルが微笑み、また彼女の口調につられたように鷹揚に頷いてみせた。
「じゃあ、決まりだね。審判は、そうだなァ」
うーん、と唸りながら腕を組んだノエルに、碧がそろそろと小さく挙手をした。薄い掌に六つの瞳が注目し、彼女の言葉の続きを待つ。
「あそこにいる綯子と要にお願いしてみるのはどうかしら」
あそこ、と碧が示す場所は浅瀬にほど近い砂浜である。そこで綯子と要が仲良く並んでしゃがんでいる。二人の丸っこい背中を見て四人は和む。因みに、浅瀬の方で水鉄砲を片手にタイマンを張るランとナマエの姿は彼女たちには見えていないようだった(ただ単に見ようとしていなかっただけかもしれないが)。
「うん、そうしよう」
タッツィーナが碧の提案に乗り、他の二人も頷いて賛成した。それを受けて、発案者でもある碧が綯子と要に依頼すると名乗りを上げる。彼女の申し出を断る理由もなく、三人は碧に任せることにした。
行ってきますね、と一言断ってから小走りで綯子と要に駆け寄る碧の背中を見送り、残されたノエルとタッツィーナ、ビーはチーム分けに頭を捻ったりビーチボールを膨らませたりと各々準備に取り掛かった。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「んふふ」
綯子の悦に浸った笑いが聞こえた。
彼女は浅瀬で捕獲した海鼠を両手でやわやわと握り、遊んでいた。
綯子の足元には海鼠が三匹、宿借が二匹いる。どれも彼女自らがざぶざぶと浅瀬に足を踏み入れて捕獲したものである。宿借は当然のことながら、海鼠も素手で捕獲したものだ。
「……」
そんな綯子の隣にしゃがんでいる要は、悦に浸る彼女に対して何か言いたげな表情を見せたが意思を伝える事はせず、ただぼうっとしながらランとナマエの決闘を眺めていた。
訪れた当初はむくれていたくせに、ナマエは何だかんだで楽しんでいる様子である。ランにかれたパーカーは海水でぐっしょりと濡れ、砂まみれの状態で浜に放置されている。要は後で回収してあげよう、と心の中にメモを取り、水飛沫でキラキラと輝く世界ではしゃぐランとナマエを見つめ続けた。
同じ場所で同じ時を過ごしているというのに、差がある光景である。
前方は夏らしいというのに、右隣は――……。
「んふふ」
海鼠と戯れている。
要が溜息を吐いて綯子の足元に再度目を落とすと、彼女が黒光りのお友達と宜しくやっている合間に宿借はこれ幸いと逃げ出していた。大きな巻貝を背負ってえっちらおっちらと移動する生き物に、要は「もう掴まらないと良いね」と他人事のように心中で投げかけた。
「あ」
不意に綯子が正気に戻った。
宿借の逃走に気付いたかと思ったが、そうでは無いらしい。
彼女の不可思議な形をした瞳は、雑巾を絞るような手つきをした自身の両手や畝ねる海鼠ではなく、その真下の砂――……にある薄黄色い物体に向けられていた。
「ッ!!?」
見たこともない物体に要が肩を大きく跳ねさせて声のない悲鳴を上げた。ついでに腰を少しばかり浮かせて綯子から距離を取る。
対する綯子は、別段驚いた様子を見せずに捕獲直後と比べて極端に縮んでしまったお友達を見て「あーあ、」と残念そうな声を上げた。
「中身出ちゃった」
可愛らしく言うが、はっきり言っておぞましい。
生理的嫌悪感でぶつぶつと鳥肌を立てる要を見て何を勘違いしたのか、綯子は「これね、海鼠の内臓」と笑みながら粘着くそれを指さした。
「敵の攻撃を受けるとこーやって出すの。大丈夫、出した内臓は三ヶ月くらいで元通りになるよ!」
何が大丈夫なのだろう。
ぎゅっ、と海鼠を握り潰して(恐らく無意識下での行動である)熱弁を奮う綯子を見て、要は引いた。思いっきり引いた。
「ぎょええええ!!!!!!」
――……のは、要だけでは無かったようである。
悲鳴とも鳴き声ともつかない声に、また違った意味で驚いた要はその声がする背後を振り返った。
「あ、碧ちゃん」
悲鳴の主の名前を、綯子がのんびりとした口調で呼んだ。
呼ばれた本人はと言えば、顔面蒼白にて硬直し、恐怖で見開かれた目を揺らして突っ立っていた。眼前に広がる気色の悪い光景が彼女に相当のダメージを与えたようで、碧はぶるぶる、ぶるぶるとただただ身を震わせている。
「な、何事!?」
「どうしたの!」
「奇襲ですかッ」
普段の彼女の様子からは予想もつかなかった凄まじい悲鳴は、ビーチバレーの準備をしていた三人や浅瀬でじゃれていた二人の耳にバッチリ届いていたようだ。各々の性格を表すような言葉と共に、皆が碧たちの元へと駆け寄ってくる。
「なな、ななな」
震えて上手く言葉を紡げない。
長く正視するに堪えないものだというのに、碧は依然、綯子の黒光りのお友達とそれが分泌したブツを凝視している。体の硬直が解けないのだろう。状況を全て把握した訳ではないが、震える碧が酷く哀れに見えたノエルが彼女の肩を掴んで自身の胸に引いた。
碧の上体は案外すんなりとノエルの胸に収まり、それでようやく彼女の体が動くようになった。が、やはりまだ上手く力が入らないようで、今度は腰を抜かして砂浜にへたり込んだ。
途端。
「うっ」
不吉な呻き声が漏れる。
そして――…………以降は碧の人権を尊重して省略する。
ただ、敢えてその後を記すならば「磯の香りとは違う酸っぱい匂いが香った」という一文で全てを察して頂きたい。
そういうわけで――……碧の災難から小一時間経ったところから続けよう。
「大丈夫?」
綯子が心配に色付いた声音で碧に呼びかけた。
碧は顔色が回復しないままパラソルの影とレジャーシートに横たわっていたが、綯子からスポーツドリンクが入った紙コップを受け取るためにゆっくりと半身を起こした。しゃがれた声で礼を言った碧は受け取ったスポーツドリンクで喉を潤す。流し込んだそばから体の全身に水分が染みわたり、碧はそっと息を吐く。そして、
「ごめんなさいね」
と小さく呟いた。
先ほどの醜態を恥じているのだ。
謝罪された綯子と言えば、自身が元凶であることも含めて「ううん!」と力強く首を横に振った。
「私の方こそ、ごめんね! びっくりさせちゃったよね……」
語尾に近付くにつれて綯子の声が小さくなる。碧の「精神的衝撃を受けると嘔吐する」という厄介な癖と、彼女が芋虫を筆頭にしたうねうねした生物に嫌悪感を抱いているのをすっかり忘れていた事もあるが、自分本位の行動によって碧が伏せる事になって罪悪感を感じているのだ。綯子は頭を垂れ肩を落としてしょぼくれて、もう一度「ごめんなさい」と謝罪を口にした。
「気にしてないから――……」
空になったコップを傍に置いて碧が言う。しかし綯子の気は済まないようで、また謝罪の言葉を紡ごうと口を開く。が、声になる前に碧が「見て」と言った。
「なあに、」
中途半端に開いてしまった口を動かして、綯子は碧が示したもの――……ビーチバレーに興じる六人に目を向けた。
ビーとタッツィーナのタッグにランとナマエのコンビが闘志を燃やす光景に、綯子の口角が自然と上がった。それは審判を務めるノエルと要も同じなようで、随分と距離が開いているというのにノエルのやけにはっきりした笑い声が二人の耳に届く。
「なんだか、すごく夏って感じじゃない?」
アバウトな問いかけだった。
しかし彼女が言わんとしていることはニュアンスで伝わる。
「そうだね」
綯子が目を細めて頷いた。
「来年の夏もこうやって、皆と遊べたら素敵だなぁ」
「あら」
綯子の言葉を受けて碧が「心外ね」とでも言いだけに瞬きをした。
「夏だけで綯子は満足なのかしら」
彼女の言葉に綯子もぱちくりと瞬きをし――……言外に含まれた意図を汲み取り、にっこりと笑ってみせた。
「春夏秋冬、皆と遊べたらとっても素敵だと思う!」
弾んだ声音で言う綯子につられて碧もにっこりと笑った。青白かった彼女の頬は既に色づき始めている。
「なら早速、遊びましょ」
不意に碧が立ち上がって駆け出した。それに虚をつかれた綯子は一拍遅れて立ち上がる。
「待って!」
砂を蹴り、碧の白い背中に手を伸ばす。その背中を捕まえる事はできず、綯子は早々に諦めてしまった。
そして夏の日差しに顔を顰めながら「おおーい」とバレー組に声をかけると、返事の代わりにビーチボールが飛んできたのであった。
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長らく続いていた海水浴、これにて終了です!
なんというか、色々謝りたいところがあってウフフすみませェン……(白目
ちょっと無理やり終わらせたような感じが否めませんが、夏といわず秋、冬、春の色んなイベントできゃっきゃうふふして欲しいのは夢主勢だけでなく私の本心でもあります┗( ˘ω˘ )┓三
が、これ以上グタグタ語ると虫唾ダッシュされちゃいそうなので控えます……!
とにもかくにも、長い期間夢主ちゃんを貸出して下さったルナさん、けふこさん、TAKEさん、竜さん、まり子さん、音国さん、幸音さん!
そしてここまで読んでくださった皆様!
有難う御座いました〜〜〜!