「JOGIO子会」に参加されている方々の夢主ちゃんをお借りし、海水浴に行かせよう!
と、いうことで勝手にお借りしました……。
「買い出し編」と銘打ってるのでまだ三本くらい続きます。
今回のお話はタイトル通り、買い出し編になります。
まり子さん宅のノエルちゃん、音国心さん宅のランちゃん、幸音さん宅の碧ちゃんと拙宅のナマエが出ています。
そしていつものごとくn巡後、そして杜王町が舞台になっております。
イメージ的にはまり子さんが企画サイトに投稿してくださったおはなしと同一世界かもしれません(勝手にすみません)
以下が本文になります。暇つぶしになれば幸いです。
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八月某日。
日傘を閉じた瞬間に鋭い陽の光がノエルを襲う。眩しさに眉を潜めながら彼女はカメユーデパートの西側入口に立った。項に伝う汗を不快に感じ、ノエルはバッグから青色のタオルハンカチを取り出した。卸たてのそれにファンデーションがつかないように気を付けながら、項と額、顳かみを軽く押さえる。
「おや」
バッグの中からマリンバの音が聞こえた。メールの受信を告げる音に、ノエルは小首を傾げてバッグからスマートフォンを取り出す。
最近になって機種変更をしたものだから、イマイチ扱いに慣れない。ぎこちなくロックを解除し、受信ボックスを開いた。
『そろそろそっちに着く』
絵文字も顔文字もない、用件のみのメール。
差出人は碧だ。
内容と差出人を確認したノエルは、ロックを解除した時と同じような動きで編集画面を開く。タッチパネル式のキーボードを両の親指で叩くが文字が上手く入力できない。
夏の暑さと機械の熱さでノエルの手は汗を掻いている。そのせいでスマートフォンは滑るし前述のとおり文字も打てないしで彼女は苛つく。普段は飄々とした態度を崩さず得体の知れない雰囲気を持つノエルだが、夏の暑さも手伝って今日の彼女は些か感情の波が大きくなっていた。
「ノエルさーん!」
苛立つノエルの耳に、活気のある明るい声が届いた。
スマートフォンから視線を上げて、声がした方に顔を向ければナマエが手を振って駆け寄って来ている。そんなナマエの後ろを、ランと、先程のメールの送り主である碧がのんびりとついて歩いている。
「やあ、ナマエ」
ノエルは両手を広げてナマエを迎えた。自然とノエルの胸が空き、ナマエはそこに飛び込むようにして抱きついた。
「待ってたよ。今日も可愛いね」
「えっ? あー……」
ノエルの言葉に一瞬言葉を詰まらせてから、ナマエがほんのりと頬を染めた。
「有難う、御座います」
言いながら、ノエルの背中に回した手を解いてナマエは体を後ろに引いた。が、ノエルの腕は依然ナマエの腰にあり距離が空くのを許さない。
「えっと、」
普段と違うノエルにナマエは目を泳がせる。その合間にノエルの手がスルスルと移動し腰から腹、足に触れた。
「うっひゃ、くすぐったい! ノエルさん、くすぐったい!」
不意のセクハラに対応出来無かったナマエはケタケタと笑い声を上げながら身を捩る。
その時分になってようやく、ランと碧が二人のもとにたどり着いた。
「ちーっす」
「こんにちは」
二人がそれぞれの性格を表すような挨拶をする。その時になってからノエルはナマエを解放し、ランと碧に向かってニコリと微笑む。
「やあ、お二人さん。今日も変わらず素敵だね」
その言葉にランの顔が引きつった。
「よくもまぁ、平然と言えるな……」
「本心を言ったまでさ。私は冗談は言うが嘘は吐かない。それは知ってるだろう?」
「あー、はいはい。冗談として受け止めとくよ」
女性ながらもスケコマシのような台詞を口にするノエルに、ランが呆れたように手をヒラヒラと振った。その仕草は小蝿を追い払う時と同じような雑なものだった。自分の言葉を正面から受け取らないランに対し、ノエルは眉を八の字にさせてから「本当のことなのに」とぼやいた。そして今度は碧に視線を向けて、「本当だよ?」と言った。
「ふふ、」
碧はノエルの言葉に目を細める。
「何度も言うと、信憑性に欠けるわよ」
「ふむ」
口をへの字にさせてから、ノエルが小さく肩を竦めた。そして気を取り直すようにふっと息を吐き、傍らに立つナマエの腰に手を回す。
「可愛い顔をしてくれるのはナマエだけだな」
「ちょ、ちょっと……あぁ、もう」
ナマエは物言いたげに口を開くが、諦めた。ノエルをそのままにしてから、彼女はランと碧を見る。
「ケーキバイキング、行くんだよね?」
確かめるような口調に碧が上品に笑った。
「行くわよ、勿論」
碧は形の良い唇を開き、「でもね」と言葉を続ける。
「明後日の海水浴の買い出しが終わってからね」
「へっ?」
間の抜けた声を上げて、ナマエが猫目をぱちくりとさせた。明後日、ここにいるメンバーも併せてタッツィーナやビー、綯子、要と海水浴に行くのは分かってはいるが、ケーキバイキングに行く今日にその買出しへ行くとは知らされていなかった。
「色々必要なもんがあるからねェ、たっくさん買うよ」
妙な声色を出してランが会話に入ってきた。ニィ、と口角を釣り上げ得体の知れない笑みを浮かべながら、彼女はナマエの傍らに立つ。そしてポン、とナマエの肩に手を置いて「行こうか」と言った。
「……、……!」
――……嫌な予感がする。
ナマエの脳裏にその一文が浮かんだ。
「えぇーっと、」
ひくり、と顔を引きつらせてナマエは硬直する。そして「申し訳ないんだけど」と続けた。
「も、持ち合わせがあんまり無いから、お高い買い物は無理かなァ〜……なんて……」
語尾に近付くに連れて小声になっていくナマエに対し、ランが無言で薄いプラスチックのカードを取り出して見せた。
「SPW財団から支給された限度額無しのクレジットカード」
フフン、と鼻を鳴らして得意気な顔をしてみせる彼女にナマエはポカンと口を開けた。そして餌を求める鯉のようにパクパクと口を開閉し、震える指先でクレジットカードを指した。
「バカじゃねーの……」
驚愕のあまり言葉遣いが乱れたナマエを見て、ノエルが声を上げて笑った。普段では見られない彼女の振る舞いにナマエだけでなく碧も、ランも少し驚く。そんな彼女らを知ってか知らずか、ノエルは目尻にうっすらと浮かんだ涙を指先で拭う。そして息も絶え絶えな様子で「あぁ、面白い」と呟いた。
「まあ、そういうわけだから。買い出しが終わったらケーキだよ」
「う」
ケーキ、という一言にナマエが反応した。分かりやすい感情の機微を見せた彼女の右手を碧が握った。
「食べたいわよね、ケーキ」
「うう、」
ナマエが唸る。
「食、べ、た、い、わよね?」
碧は強調するように同じ言葉を区切りながら、ゆっくりと彼女に迫る。それを隣で見ながら、ランとノエルは「女王様だ……」と心中で呟いた。
「た、食べたいッ、ですゥ……!」
ナマエは身の安全よりも食い気を選んだ。
「じゃ、決定ね!」
今日一番の明るい声で碧が言った。そして合わせたようにランが、
「そうとなったらさっさと行くに限る!」
とナマエの腕に手を絡ませた。ノエルも彼女に倣い、ずっとナマエの腰にあった手を腕の方へと絡ませた。二人共背が高いのでその絵面は曲者を捉えたようにも見える。
「そもそも君は最初から逃げられないんだよ」
ノエルがナマエの耳元に唇を寄せて囁きながら、パチンと器用にウィンクする。彼女の一言によって全てが仕組まれたものだとナマエが気付いた時には、既に講じる策は無かった。
ナマエはそのままサイドと前方を彼女たちに固めらて、カメユーデパートに足を踏み入れたのだった。
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「海水浴に必要なもの」と一口に言ってしまうのは簡単である。
しかし実際に買い出しに行ってみれば、要りそうなものが無数に思い浮かんでしまって何を買えば良いのか分からない――……その例に漏れず、ノエルと碧は陳列棚の前で首を傾げていた。
そんな二人に対し、ナマエが躊躇なく日焼け止めを掴んでカートに放り込んでいた。ガシャン、とプラスチック同士がぶつかり合う音に続いてまたガシャン、ドポンと音がした。日焼け止めの次は化粧水らしい。彼女の様子を見てカートを引いているランが珍しく苦笑する。
「限度が無いと知ったら遠慮無いなぁ」
言いながら、ナマエが放り込んだ化粧水のパッケージを一瞥する。そして棚に設置された値札と照らし合わせた。……ワンブロック先にあったやつの値段よりも、こっちの方がゼロの数が多い。それを碧も確認したのか背後で小さく息を呑んだ。
「大丈夫なのかしら、これ」
「大丈夫じゃないの」
碧の懸念にノエルが軽い調子で応えた。根拠も何も無いそれに碧の心が晴れることも無く、彼女は変わらない表情でナマエの様子を伺い続ける。
結局、ナマエの猛攻は日焼け止めを二つ、化粧水を三つ、ボディーソープとシャンプーを一つずつカートに突っ込んでようやく静まった。言わずもがな、化粧水のみならず日焼け止めもボディーソープもシャンプーも、普通のものよりゼロの数が多い。本当にナマエは遠慮というものをしなかった。
「こんなもんで大丈夫かな、次はビーチボールとか水鉄砲とか買おう!」
レジで精算したものは全てランのスタンド能力によって縮小されて、彼女のポーチに収まっていく。その縮小される過程にすら見向きもせず、ナマエは子供の歓声のような明るい声を出した。そんな様子のナマエに何か思うところがあるのか、ノエルが物言いたげな顔をして唇を尖らせた。が、結局は心中で「楽しみなだけなんだろう」と自己完結した。
一行はエスカレーターに乗って一階の化粧品売り場から、三階のおもちゃ売り場に足を運ぶ。道中、子供がランとノエルの銀髪や碧の碧眼を物珍しそうに見たが彼女らは慣れた様に振舞った。三人と比べてカラーリングが地味で身長も無いナマエは、「美人って目立つなァ」と他人事のようにぼんやりと考えていた。
そんなこんなで四人はおもちゃ売り場に到着した。夏休み真っ盛りということもあり、売り場には子供とその保護者でごった返している。四方八方至るところから子供の嬌声、泣き声、親の怒声、あやす声が飛んでくる。
「うわぁ……」
ノエルが嫌そうな声を出して、碧を見た。ノエルの視線を受け止めた碧は無言で肩を竦めて、ランを見た。彼女の視線につられるようにしてノエルもランを見た。碧がランに視線を送ったのは特に何の意図も意味も無いが、なんとなくランならこの現状について物申しそうな気がしたのだ。
「うん、凄まじいな!」
ランが爽やかな笑顔でこの場の雰囲気を形容した。
ノエルと碧は異論を唱えるでも無く無言でこっくりと頷いた。と、いうより頷くしか出来なかった、が正しい。
「ねぇ、ノエル。得意だろ、あーゆー手合い」
ランが地獄絵図を指差してノエルに言う。が、
「嫌だね!」
彼女は明瞭な発音でスパッと断った。注目すべきは「無理」ではなく「嫌」という単語である。
「休みの日にタダで働きたくはないかな!」
というか今はそれが生業じゃないしね、とノエルは続けた。
「こういうのは親御さんと店員さんに任せるのが一番だよ。ねぇ、碧?」
「えっ?」
不意に話を振られて碧が目を瞬かせた。一瞬間遅れたものの、碧も「そうね」とノエルに同調した。そして「そんなことより、」と無理やりランとノエルの話を終わらせて言葉を続ける。
「ナマエがいないんだけど――……」
「いーまーす、よッ!」
ひょっこり、という擬音が相応しい勢いでナマエが三人の前に現れた。彼女の右手にはビーチボール、腕には浮き輪がぶら下がっている。左手には安っぽいカラーリングのどデカい水鉄砲を抱えている。
ナマエの様子を見るに、あの地獄をものともせず突っ込んだらしかった。
「さっさと精算しよ!」
両腕がふさがったナマエは体全体を使ってランをグイグイと押してレジの方へと追いやる。
それに「待てってば!」と言いながら連れられるランを見ながら、碧はほうっと息を吐いた。
その溜息の半分はナマエが迷子でなかった事への安堵だ。もう半分は、「何がナマエを突き動かしてるのかしら」という疑問だ。一方のノエルは碧の心中を知ってか知らずか、「よっぽどケーキが食べたいんだなァ」とのんびりと考えていた。
――……合間に、精算は済んだようだ。
先ほどとは打って変わって両腕が空いたナマエとランが二人の元に戻ってきた。売り場の惨状と比べてレジの方は平和だったらしい。
「これでもう買い出し終わったね!」
ナマエがニッコリと笑った。
蒸気した頬が、先に待つケーキを思い浮かべていることをありありと語っている。
「ちょい待ち」
がし、とランがナマエの首根っこを掴んだ。
「まーだ終わってないよォ?」
「ええええ? 終わってマスヨォ」
ねぇ? と裏返った声でナマエが碧を見た。碧はゆっくりと目を伏せて、「そうね」と頷いた。
「まだ買い出しは終わってないのよ、ナマエ」
「そうさ、終わってない」
ノエルが妖しく微笑んだ。その笑顔にナマエの顔が引きつる。
「さぁ、今日のメイン……」
ランが低い声を漏らす。と、同時に碧がナマエの右腕を、ノエルが左腕を掴んだ。
小一時間前と似たようなフォーメーションがあっという間に出来上がる。
「水着買いに行くよ!」
「うえええええやっぱりかあああ!」
三階のおもちゃ売り場にて、子供の声に混じってナマエの悲鳴が響き渡る。
そのままナマエは、売られていく仔牛のように二階のファッションフロアに引きずられていった。
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買い出し編、あと一本続きます┗( ˘ω˘ )┓三