ある一つの考察(うちよそ小説)
2023/04/11 18:12
(ファルグス・アンブローズ/No.487・男性寄り、クスミ/No.★0376・女性寄り)
ある少年に対する青年の考察と、青年のこれまでと、そして青年と少女の二人のこれからの話。
彩色星人さん宅のクスミちゃんとナギさんとナミさん・名前のみでコクヨウさんとカルメンさんとイグジスちゃんと夏葵ちゃんを、名前が出ていない形での言及ですが桜田ゆたさん宅のテネチズさんをお借りしました。
本文は下からです。
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ある神社の境内の中。
ふと何かを思い出すかのように、黒髪の青年は銀髪の少女に己の疑問を尋ねる。
「クスミ。 一つ聞きたい事があるが、彼ーーコクヨウとはこのハコニワ世界で会ったのが初めてなんだな?」
「ええそうよファルグスさん、それがどうかしたのかしら?」
「いや。 彼がお前を見た時、何かを思い出すかのように『クスミ、様……?』と驚きながら呟いていたのが少し気になってな。 本当にあれが初対面なら別に良いんだ」
「そう……ただ、何だか胡散臭そうよねあの人。 私にしてもそうだけどナギとナミを見ては崇める位だし、しまいにはファルグスさんにも跪く位だし」
「そうだな。 ……まあ、今の彼にはハコニワ復興委員会【仲間でありブレーキ役】がいるからそこまでの心配は無用かもしれないがな」
紫髪の少年の己や少女・そして少女と暮らしている二人の幼子に対するその様子を思い出し、少女は悩ましくなり青年は苦笑する。
「ただ、パラドックス警察の彼女ーーカルメンが言うに彼は魔王のようだが……どこで彼がお前を知ったのかが少し気になる所だな。 イザナミのバックアップは他の世界にもいたらしいから彼の元いた世界でそのバックアップと会った可能性があるか、あるいはーー」
「あるいは?」
「……いや何でもない、今の事は聞かなかった事にしてくれ。 それにそろそろ昼御飯の準備に入りたいし、ナギとナミもお前と遊びたがっているからな」
「くすみーん! 遊んで遊んで!」
「遊んでー!」
「はいはいナギにナミ、今遊んであげるから待っててちょうだい。 ……それじゃあファルグスさん、お昼の準備お願いね」
「ああ、任せた」
「ファルグスさんのご飯、楽しみにしてるねー!!」
そして少女は二人の幼子の所に向かい、青年もまた少女と二人の幼子の三人の昼食の準備に取り掛かった。
(彼がーーコクヨウがクスミの事を知っていた理由。 まず一つは『彼の元いた世界でイザナミのバックアップと会い、それによりクスミの事を知った』というもの。 次に考え得るもう一つの可能性は『彼の元いた世界に「その世界のクスミ」ーーいわゆる「私の知るクスミ」の並行同位体がいて、彼はその世界の彼女と会っていたが故にクスミの事を知っていた』というもの。 その世界のクスミがどうなったかはーーその世界の彼女にも『今ここにいる、私の知る彼女』にも些か気の毒だが、それは今考えるべき事ではないだろう)
昼食の準備の際、青年は少女に対し言いかけた疑問を脳内で思い出しそれについて思索していた。
しかし、そこである不安が過ってしまう。
(あの時のは並行同位体というより並行世界のそっくりさんと見なした方が正しいが、そういえばあの島巡りから3〜4ヶ月位後にハウメアから仙郷での会議にソウウンと一緒に招待され仙郷を訪れた際、揺光と言ったか? ソウウンと顔の似ている彼に剣を突き付けられる羽目になったな……あの時はハウメアが説得したから幸い事なきを得たが)
そして不安を打ち消すかのように、このハコニワとは別の世界ーー名も知らぬ世界での島巡りの後にあった会議の出来事を思い出し、少し苦笑いしながら青年はその会議の時の事を振り返る。
(それから半年位後にハウメアの依頼でソウウンとグライドをラウレアに派遣する事になり、そこで起きたUBと次元絡みの騒ぎが落ち着くまでの間、暫く他の世界に行かないようにしていたな……。 ……あの騒ぎが落ち着いてから数ヶ月ぐらい後だろうか? 何故かあの世界に行けなくなってしまったのは)
次々と名も知らぬ世界の出来事について思い出していき、そして青年は『世界収縮現象によりあの世界が消滅した』事により銀髪の少女の出身世界だった世界に行けなくなってしまったーー銀髪の少女に会えなくなってしまった時の事を思い出す。
『もしかしたら二度と彼女に会えなくなるのでは?』と不安が過っていた事も、その不安を払おうと暫く必死に執務に打ち込んでいた事も。 更に別の世界にいる友人とお茶会をしていた際ふとその事を思い出してしまい、自分の不安そうな様子から友人に心配されていた事も。
(ーーと、もうすぐ出来そうだ。 今日は思い切って私の好物にしてみたが、三人が喜んでくれると良いな)
そして昼食のメインディッシュが出来上がるのを見て、青年は四人分の昼食の盛り付けに入った。
昼食の最中、少女は青年の神妙そうな様子に気づき思わず声を掛けた。
「さっき言いかけてた時もそうだったけど今のファルグスさん、何だか神妙そうね。 どうしたのかしら?」
「いや。 昼御飯の準備の途中、何の前触れもなくあの世界に何故か行けなくなっていた時の事を思い出してな。 『もしかしたら二度とお前に会えなくなるのでは?』と不安さえも過っていた……それこそ、その不安を払おうと必死に執務に打ち込む位に。 だから偶然この世界をーーそしてあの店でお前を見つけた時は本当に嬉しかった」
「本当に驚いたわよあの時は。 ファルグスさんたらいきなり店の中で『クスミ!! クスミなのか!?』と柄にもなく大声で呼ぶし、抱きつくし」
少女との思い掛けない再会により自分の抱えていた気持ちが一気に溢れ出したが故のあの行動と、それを思い出した少女のその言葉に青年は思わず苦笑する。
「重ね重ねそれは申し訳なかった。 だが、死の気配がなくなった事や力の強弱という違いこそあれ、魂の霊力からお前だとすぐに分かった」
「そうだったのね。 ……私、あの時貴方の姿を見るまで貴方の事を本当に忘れていたの。 だけど、自分には『今はどこか遠くにいるけれど、その人に会う事が出来れば自分の中の何かを思い出せそうな、自分にとってとても大切な誰か』がいる。 そんな予感をずっと感じていた」
「そこまでお前に思われていたのだな私は。 ーーならイグジスと夏葵達に、益々お礼を言わなければならないな。 そして、お前を待たせてしまった事を謝る必要も」
「謝らなくて良いわよ別に。 それに私達、こうしてまた会えたんでしょう」
「そうだな。ーー今までもそうだが、これからもお前の力になりたい。 改めて今後もよろしく頼む。 クスミ」
「ええ勿論よ、ファルグスさん」
ーー冥王の青年と現人神の少女は互いに願う。
互いの千の手が導くその先に、今と同じように穏やかで幸せなーー今までより少し寂しくなるも、今までより更に賑やかな時間が続く事を信じて。
(本当に、気がついたら自分の世界以外の大切なものーーかけがえのないものが、守りたいものが増えてしまったな。 だが不思議と悪い気はしない。 むしろーー心地良い位だ)
その幸せな時間を感慨深く噛みしめ、青年はその時間が続く事を・そしてその時間を守る事を胸に誓う。