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factors of Lovers and Death(うちよそ小説)
2023/08/16 16:43

(ファルグス・アンブローズ/No.487・男性寄り、クスミ/No.★0376・女性寄り、イグジス/No.0330・女性、夏葵/No.192・女性、ナギ/No.0442・女性寄り、ナミ/No.0442・女性寄り)

クスミちゃんがハコニワで記憶を取り戻していく間に起きた、アパレルショップでのある騒ぎの話。
色星さん宅のクスミちゃんとイグジスちゃんと夏葵ちゃんをお借りしました(そして台詞面の監修ありがとうございます)。
本編は下からどうぞ。

(2023.08.16 色星さん宅の本編・ハコニワ物語準拠版として、追記・修正&その際ナギさんとナミさんもお借りしました)

**


 神の御子二人ーー銀髪の少女と黒髪の青年が再会を果たした後、黒髪の青年は黄泉神のバックアップの双子と出会い、双子と共に銀髪の少女の記憶を取り戻す手伝いを行っていた。
 双子と会った当初、黄泉神と銀髪の少女の関係を知っていた青年は少し複雑そうな表情を浮かべていたが、双子の事情と思いを知り双子の手伝いをしている際次第に少しずつ打ち解けていくようになった。
 まるで父と娘のように、兄と妹のように。


 そして、黒髪の青年は銀髪の少女自身や少女の周囲の人々について青年が知る範囲で少女に話せるだけ話した。
 ただし青年が話してもなお、一人だけ思い出す事が出来ない人物がいた。
 その人物とは現人神として奉られていた少女が幼い頃から少女に仕えていた巫女の事であり、青年が少女に対しその巫女について話しても「ふうん」「そうだったの」と他人事のように言うばかりで、その様子に青年は僅かではあるものの拍子抜けしていた。
 その事について青年は「クスミの事だから『どうして行方不明になってしまったのよ、このバカ巫女!』と言うと思っていたがな……いやあの巫女ーーヒラノはああいう性格だから、思い出したら思い出したでクスミの気苦労が増えてしまうだろうから、それはそれである意味良かったのかもしれないが……」と双子に対し少し寂しげに零していた。


 その過程の最中、少女は思い出した。 ーー否、思い出してしまった。
 自分が黄泉神を宿すための器として生み出された存在だった事を、そして『ある一族の数多の犠牲によって誕生した、黄泉神の地上での器』たる『人工の神』である事をーー血塗られていながらも同時に無垢でもある、造られし生命である事を。


「うーー」
「おいクスミ、どうした!?」
「クスミちゃん、どないしたん? 調子が悪いのかなーーー」
「ーー! イグジス、夏葵、ナギ、ナミ! すぐに彼女から離れて、私の後ろに回ってくれ!」
「だそうです! お二人とも、クスミ様から離れて!」

 それは銀髪の少女の記憶を取り戻す手伝いをしに、少女が世話になっているアパレルショップを黒髪の青年が訪れていた際に起きた出来事だった。
 銀髪の少女の身に起きた異変を察知した黒髪の青年と双子の呼び掛けに緑髪の少女はすかさず青年の後ろに回ったものの、心配していたのか金髪の少女は銀髪の少女の肩にポンと手を置いてしまう。

「ううぅーー」
「クスミちゃん?」
「夏葵? 待て夏葵! だから早く離れーー」
「そうです夏葵さん! だから早くーー」

 己の出生の記憶を取り戻してしまった事から少女の心にある黄泉神への愛憎混じりの感情が蘇り、その感情と己の霊力によって激しいデストルドーが沸き起こる。
 それに呼応し、銀髪の少女は無意識的に霊を降ろし始めた。
 そして。

「うあああぁぁぁぁぁーー!」
「クスミちゃん大丈夫ーーって、な、何なんやこのおばけの手は!?」

 銀髪の少女のその絶叫に青年は身構え、双子も青年にしがみつき、緑髪の少女もまた青年の後ろで「ああ、またかよ夏葵……」と金髪の少女の行動に頭を抱えていた。
 絶叫と共にその霊力とデストルドーが臨界まで発露され、少女はその長い銀髪を蠢かせていく。
 少女の絶叫と足元から半透明の腕が次々と生えていく様子に驚愕し、金髪の少女は漸く銀髪の少女から離れた。

「にしても何なんだアレ!? ……あーもう店内が滅茶苦茶に」
「流石にうちもおばけ関係はわからへんな……」
「あの腕は恐らく、彼女が無意識的に行使している降霊術によって喚び出された霊だろう。 だが、このままでは彼女の身が長くはもたないのは確かだ。 急いで手を打たなければーー」
「うーん、あのおばけ? 何とかなるんやったら……」
「俺も分かんねーし、ファルグスさんにしかできなさそうだしな」
「理解が早くて助かる。 まず魂鎮めで彼女に呼び掛け、彼女の霊力を安定させ鎮めさせる。 彼女が喚び出した霊を在るべき所に還してからという手もあるが、今の状況の場合でそれは間に合わない」
「なら余計頼む! クスミを戻せるの、多分あんたしかいないと思うし」
「私達からもお願いします、ファルグスさん。 私達もイザナミ様のバックアップだからクスミ様の力を鎮める事は出来るかもしれないけど……」
「今のクスミ様では、私達の呼び掛けでは神経を逆撫でするばかりで私達の声は届かないと思いますから」
「そのつもりだ。 それに、安心してくれナギにナミ。 お前達二人の大切な人は、私にとっても大切な人でもあるから。 ーーひふみよいむなや こともちろらねーー」

 青年は魂鎮めの祝詞を唱え始めた。
 銀髪の少女の霊力の暴走を鎮め、安定させるために。
 そして銀髪の少女にーー自らの愛する人に呼び掛けるために。

(ーークスミ。 聞こえるか、クスミ?)
(……ファルグス、さん……?)
(辛かったな、苦しかったな。 その記憶をーー人が背負うにはあまりに重過ぎるその生い立ちを思い出した時は。 だが、同時に思い出して欲しい。 そのような状況にあってもお前は自由を、生きたいと、自分自身でありたいと願い続けていた事を。 形はどうあれイザナミはお前を愛し守ろうとしていた事を。 そしてーー決して忘れないでくれ。 お前がそのような存在だったからこそ、私達はあの時出会えた事をーー)
(ーーああ、思い出した。確か、貴方が見えたの。一人で何をしているのか気になって、話しかけて……)
(ああ。 あと、あの大掃除の時にお前の出生についての手紙をうっかり見てしまい、暫く気まずくなっていた事もあったな)

 かの者達は千本の手を持ちたる『神なる者』にして、狭間に在りし者。
 かたや神と人の狭間に在りし現人神であり、かたや生と死の狭間に在りし冥王。 そして、誕生の経緯やその肉体の在り方は異なれども高位の神の御子同士。

(そんな事もあったわね。あれも、明確にしなければならない記憶なのよね)
(ああ。 それについても、これから少しずつ明確にしていこう。 ーーお前は今までもこれからも、私にとってかけがえのない大切な存在だ。 これからもお前には穏やかに、健やかに、自由に。 そして……幸せでいて欲しい)
(幸せになれる権利、私にもあるのかしら……?)
(ああ、勿論だ。 これからもお前のその命が続く限り、私の出来る限りお前の傍にい続けようーー)
(……ありがとう、ファルグスさんーー)
(では行こうかーー)
(ええーー)

 少女に対する魂と生命の安定の祈りを込め、歌うような響きを持った始源の祝詞により少女の荒れ狂う霊力は鎮まっていく。
 少女のその長い銀髪の蠢きも止み、足元に生えていた半透明の腕もまた地面にしゅるしゅると吸い込まれるかのように消えていく。

「うおえにさりへて のますあせゑ ほれけーー」

 祝詞を三度唱え終えた時、銀髪の少女は青年の腕の中ですやすやと眠っていた。
 騒ぎが静まり、安堵したのか緑髪の少女はへなへなと腰を抜かした。

「終わったんだな……良かったぁ〜」
「良かったです、ホント〜」
「ね〜、ナミ〜」
「ほんまになぁ、てんちゃんにナギちゃんにナミちゃん。 ……ファルグスさん、ほんまにおおきに」
「ああ。 それに、お前達の方こそこちらから礼を言わなければならないな。 彼女を見つけ保護した事を、彼女の面倒を見ていた事を」
「いえいえ、困った時はお互い様やで」
「……う……」

 青年の腕の中で銀髪の少女は目を覚まし、それを見て緑髪の少女と金髪の少女は青年と銀髪の少女の方へと駆け寄る。

「あっ、クスミ!」
「気がついたんやな、今ファルグスさんがクスミちゃんの力を鎮めて落ち着かせてくれたんやと」
「知ってるわよ夏葵、あの時ファルグスさんが呼び掛けてくれてたから。 そうよね?」
「ああ。 本当に良かった、クスミーー」
「ええ。 本当に、貴方には助けられてばかりね。 ーーにしても、お店の中が滅茶苦茶になってしまったわね……」

 感情の起伏があまり出にくい銀髪の少女だが、この時ばかりは気まずそうに店内を見ていた。
 霊力の暴走からの無意識的な降霊術の行使により、アパレルショップの店内は売り物の服やアクセサリー・ディスプレイ用のマネキン等が散らかってしまい、滅茶苦茶な有り様となっている。
 幸い、売り物の破損という被害がなかったのが救いだろうか。

「そうだな。 夏葵には済まない事をしたな……なら、これから六人で店内の後片付けに取り掛かろう。 それから私がお前達の分の夕食を作っておいた方が良いか?」
「うちはOKやでー。 ファルグスさんのご飯、とても美味しいもんなあ。 クスミちゃんが気に入るのも良う分かるわ」
「私も賛成よ。 ……本当に申し訳ない事をしたわね、夏葵」
「ええんやでクスミちゃん、あとてんちゃんにナギちゃんにナミちゃんもやね?」
「勿論俺もOKだ。 じゃあ皆で後片付けに取り掛かろっか」
「はーい!!」

 そして六人は店内の後片付けに取り掛かった。
 普段は理知的であり且つ何処か神秘的な雰囲気と、常人のものとは言い難い強大な力を持つこの青年の、この時の銀髪の少女を見つめる表情は何処か穏やかであった。
 それは緑髪の少女と金髪の少女の目から分かるものだった。

(てんちゃん、やっぱりファルグスさんはーー)
(ああ、俺にも分かる。 彼女にとって、彼はーー)

 そして『この黒髪の青年が銀髪の少女を心から気に掛け、そして深く愛している事』と『この銀髪の少女にとって、この黒髪の青年は「廃棄者にとっての、記憶を取り戻す速度を早めるのに不可欠なパートナー」であり、「銀髪の少女の暴走を止める事が出来た」という点でそれ以上の存在でもある可能性がある事』も。


 そう、かの廃棄者の少女は神の器として造り出され、神に己の娘として愛されながらもその神に翻弄されし半生を送り、それでも尚「自分自身で在りたい」と願い己の自由意志を保ち続けてきた『恋人』。
 少女の傍えとなりし青年は、ある世界の冥府を治めし冥王たる正真正銘の神にして、自力で次元を移動出来るまでの強大な力と「他者を気に掛け、時に他者に恋心を抱く」までの「神でありながらも極めて人間に近い」慈悲の心を持つ『死神』。


 店内の片付けをしている際、銀髪の少女は今後の自分の記憶を取り戻す計画について思案していた。

(これから私の記憶を取り戻す際、私自身だけじゃなくあの世界の秘密と向き合うのは避けられないかもしれないわね。 あの世界の神々、結界、天界、冥界、そして地獄にあのバカ女神ーー)

 だけど自分はそれを必ず乗り越えていけるだろう。 少女はそう確信していた。

(今の私には、あのヒトがいるから。 だってあのヒトは私のーー誰よりも優しい『私の一番大好きな』神様だからーー)

 そして青年もまた、現在の銀髪の少女の状態についての推測を脳内で巡らせていた。

(あの時クスミと再会した際、肉体と魂のどちらも死の気配は全く感じられなかった上に霊力も弱まっていた。 イザナミの気配もなくなっていた事から、今のクスミは『彼女自身の中にいたイザナミが消滅し、肉体や魂とその霊力も彼女本来の状態に戻った』と見なしても良いだろう。 だが何故イザナミは消滅したのか? そこが疑問だった)

 推測を巡らせた結果、青年は一つの結論に辿り着く。

(ーーまさか、イザナミは世界収縮現象からクスミを庇い、彼女の体や魂から消滅したと言うのか? 方法はともあれイザナミは彼女を娘として愛し守ろうとしていた以上、あり得ない話ではないがーー)

 そして青年は、一つの決意を固めた。

(ーーならばイザナミ、ヒラノ。 今はここにいないお前達の分まで、私は私に出来る限りの『彼女に負担が掛からない』方法でクスミをーー私の愛する人を守るとしよう。 そしてクスミ、お前が『人としての道』を背かない限り、私はお前の自由と平穏を守る力となろうーーお前を二度と『冥府の扉を開く鍵』にさせないために)



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本編は以上です。
余談ですが執筆中、傍目から見たらハーレムっぽいよなと気づいてしまったり(汗)。
でもイグジスちゃんも夏葵ちゃんもうちよそのお相手がいる&この場で唯一の男性であるファルグスにしても(異性の部下やうちよその異性の友人もいるとはいえ)当人はクスミちゃん一筋だから『一見ハーレムに見えるけど実はハーレムではない』という構図なのが何ともまあで。
▼追記

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