24


「……か、お前ら!? いや、絶対馬鹿だろ!?」
「バカはそっちでしょ。いやでもさ、時間は来てるし、でも君達の雰囲気は壊したくないし……」
 翔と、女の人の声が聞こえる。ああ、妹……え? 妹? しかも車、動いてる……?
「いや言えよ! 言ってよかったんだぞ」
「無理無理。あんな、向き合って恍惚としているのを、誰が止められるというのさ」
「ったく……」
「えっと、あの」
「あ、澪、気付いたか」
「……どゆこと?」
 翔と真緒の話によると、どうやら、僕達は絶頂に達した後、そこを繋げたまま、ずっと抱き締め合っていたらしい。そこに真緒と誠次が戻ってきたはいいものの、二人のラブラブな雰囲気に声を掛けづらい。だけど時間が迫っている。外は暗いし、日除けもしてるし、大丈夫だろう、そのまま発進して、いつ気付くかな、と。
 自分の下半身を見ると、ゴムは既に外され、下着も履いていた。翔はジーンズを履いて、ベルトを着けようとしているところだった。
 僕もきちんと服を着て、靴を履く。その頃には、トンネルも抜けた。翔に言われて日除けを外して片付けると、外には明かりが点々と。
 手を繋ごうとしたけれど、少し待て、と言われて、翔は携帯電話を触り始めた。少しすると、自分のジーンズに入れていたそれが震えた。見ると、メッセージが。差出人は、翔になっている。さらに、もう一通。
 翔の方を見ると、見ろ、と唇が動いた。メッセージを開封すると。
『お前のゴムは俺が預かっておく。もう俺の荷物に入れておいた』
『友達と遊びに行ったはずのカバンに、夜遊びの道具が入っていたらまずいだろ?』
 やはり、気の利く人だ。確かに、言われてみればそうだ。
 翔に、言葉で「ありがとう」と言おうとしたけれど、なんだか照れくさくて、携帯電話の画面を切って抱き寄せた。

 僕達は身体をくっつけたままで、目的地まで一言も言葉を交わさなかった。交わす必要性を感じなかった、とも言えるだろうか。
 間もなく車は高速道路を降り、僕が今日、帰らなければならないところに近づく。察した翔の方から、両腕で抱き締められて、触れるだけのキス。その目が濡れていることに、僕は気付いていたけれど、それを指摘したら、ますます辛くなると分かっていたから、何も言わなかった。
 車の速度が落ちる。僕の家の最寄り駅。車内のライトが点(つ)いて、真緒の声がする。
「着いたぞー」
「どうも。今日はありがとね」
「いえいえ。また来い、こっちはいつでも歓迎だ」
「そうだぞ、遠慮はするな」
 前の二人から声を掛けられて。
「サンキュ。またね」
 ドアを開ける。翔は、少し目を合わせた後、また携帯電話に何か打ち込んだ。僕のそれが鳴る。
『次会う時まで死ぬなよ』
 翔を見ると、笑いながらも、頬にひとすじの涙の跡。
「……その言葉、君にそのまま返すよ」
 僕も笑ってみた。そして、細目で彼を見ながら、後部座席のドアを閉めた。


[ 24/61 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -