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翌朝

 初めて、アナルでやったセックスは、最高、の一言に尽きる。僕は、こんなに気持ちいいセックスを、どうして今まで知らなかったのだろうか。
 僕がアナルでイった後、上下を入れ替わって、僕が自分の大きいそれを、翔のそこに挿れた。翔はそれに慣れているようだったけど、女の子みたいな声を上げて喘ぐものだから、  僕もつい興奮して、何度もイカせてしまった、らしい。らしい、と言うのは、最後の方は、ちょっと記憶が曖昧だから。
 目が覚めたのは、午前十時前。布団はちゃんと肩まで被っていて、服もきちんと着ていた。でも、ちょっと腰が痛い。久しぶりに、本気でそういうことをしたからか。
 壁側で寝ていた僕が、寝転がったまま横を見ると、まだ翔は寝息を立てていた。
 起き上がって、向こう側を向いているその寝顔を見る。
――可愛いなあ。僕にはもったいないぐらい。
 どうしようかな、と少し迷って、彼を置いてこの部屋を出るのはやっぱりためらわれたので、もう一度寝転がって、その背中に身体を密着させて、腕をその身体の前面に回す。
「んー……」
――起きない、か。
 僕の中に、嗜虐心が芽生えた。着ているのは、きっとパジャマ一枚だけ。
 まず、その耳元に、ふっ、と息を吹きかけて。
「んっ……」
 少しだけ、身体を震わせて、漏れる、甘い声。まだ、夜の熱が残っているのだろうか。でも、それ以上動くことはなくて。
――ダメだよお、もっといたずらしちゃうよ?
 左手で、その胸を撫でて、突起を探す。昨日、僕が散々触ったり舐めたりしたそれは、まだ少し余韻を残していて、弱く撫でるだけでもすぐに立ち上がった。
「んん……」
――反応、してる?
 面白くなって、その立ち上がった突起を二つの指で挟んで動かす。すると。
「あっ……っておい、朝からどこ触ってんだ」
 僕は触るのをやめた。抵抗はしてこない、本気で怒ってはいないのだろう。怒っていたとしても、その少し掠(かす)れた声では、さして威力も感じないのだけど。
「あ、おはよう。目が覚めたかい」
「とっくに覚めてる。どけ」
「はいはい」
 その身体から手を離して、一旦仰向けになってから起き上がった。翔は横向きになったまま、足だけを伸ばしたらしい。
「大丈夫? 色々と」
「……全身痛い。俺は手加減してやったのに、お前はしないとは、どういうことだ」
「しようとする理性が飛んでいたとしたら?」
「……は、それなら仕方ねえな」
 その人は、笑って僕を許した。心が広い。
 水を取ってこい、と言われたので、僕はもそもそと布団から出た。部屋を出ると、そこにちょうど、彼の妹がいた。ワイパーを持っているのを見ると、掃除中らしい。
「おはよう」
「おはよう。そうとうお楽しみだったようだね、痕付いてるよ」
「えっ」
 彼女は、自分の鎖骨の辺りを指でさした。顔に熱が集まる。
 でも、まだ、隠せるところならいいのだけど。元の家に帰っても、もう誰かと一緒にお風呂に入るようなこともないし、部屋着はタートルネックだし。
「顔洗うついでに、鏡で見ておきなよ。あ、お兄ちゃんはどうしてる」
「まだベッドにいるよ。水持って来いって」
「うちがやっとくよ」
「悪いね」
 部屋に洗面道具を取りに戻って、トイレを済ませてから、洗面台の電気を点けると、鎖骨の少し下、パジャマから見えるか見えないかのところに、それはあった。僕に妻子がいるのを忘れて、痕を残してしまうなんて、翔らしくない、きっと彼も、理性を飛ばしていたのだろう。
 他には無いか、と確認してみたけれど、マークはその一ヶ所だけだった。
 顔を洗って着替えて、洗面所を出ると、入れ替わりにそこを使おうとしていたらしい、愛しいその人がいて。
「おはようのキス、したっけ」
「いるのか?」
「いるよ。会える時間は限られてるんだし、少しでも愛を共有しないと」
「……はいはい」
 僕が少し屈んで、僕から触れるだけのキス。離した唇は、やはりまだ、わずかに余韻を残しているようだった。
 それから、リビングに入って、昨晩から充電していた携帯電話を見ると、妻からのチャットが入っていた。
『今日は楽しんでらっしゃい』
『そうそう、今日の夕食、いるかどうか、返事がほしいなあ♪』
『なかったら用意しませんよ』
 妻は料理が得意だった。彼女は、手作りした夕食を、家族全員で囲むのを理想としているので、仕事やお出かけで、僕が昼間に家を空けるときには、必ず、夕食のために家に帰るかどうか、その日の午後一時までに連絡しておかなければならなかった。
――うーん、どうしようかな。
 理想は、翔と一緒に食べる、ということ。でも、この家の事情もあるし、僕から言い出していいものなのか……。
 絨毯(じゅうたん)の上にしゃがんで考えていると、誰かが近づく気配。
「どうしたのさ」
 彼の妹だった。掃除道具は持っていない、もう済んだのだろうか。
「いや、今晩、家に帰って夕ご飯を食べるかどうか、妻から返事を求められてて……」
 携帯電話の画面を見せると、髪を後ろの低いところでまとめている彼女は、顎に手をやって、ふん、ふん、とうなずく。
「君は? 君の本心はどうなのさ」
 本心か、言って良いものなのだろうか。迷っていると、逸らすことを許さない視線が、僕に突き刺さった。
――さっきのことといい、この女は、遠慮しないな。
 それは、それが女性の性格として悪いことだ、という意味では無い。純粋な称賛だ。僕は白旗を揚げて、目を合わせないようにしながらも、本心を吐露することにする。
「そりゃあ、君のお兄さんと一緒がいいなあって」
「だと思ったよ」
「で? 君はどうするの? 僕がそう言うのを聞いて」
 今度は、彼女とさりげなく、目を合わせて。彼女は微笑んだ。
「協力するよ。元々、今日は、こっちの旦那が帰ってきたら、ドライブに行くつもりでいるんだよ。もし、今日、君が許すなら、君を連れて行こうかと、お兄ちゃんとも決めてたの」
 意外な提案に、僕は驚いた。まさか、こちらでも、そんな用意をしていたとは。
「それって、つまり」
「ダブルデート。いいでしょ?」
「……最高だね」
 僕はとても良い気分になった。その気分を隠して、戸籍上の本妻に返事をする。
『今日は夕食まで友達と一緒のつもりだよ』
 そう送って、これだけでは、『あまり遅くならないでね、いいね?』と、再度返事を求める念押しが来そうだと思って、それを封じる言葉も。
『大丈夫、遅くなりすぎないようにするから』
 満充電になったそれを、ポケットに入れる。ちょうどそんな時、空腹を感じた。もうすぐ十一時、時間的にはブランチだろうけど、お昼ごはんはどうするつもりだろうか。
「真緒ちゃん」
 リビングと一続きの台所で、やかんでお湯を沸かしている彼女に聞いた。この家族の雰囲気を見る限り、彼女がこの家を仕切っていそうだ。
「はいはい」
「お昼はどうするの? それと、旦那さんはいつ帰ってくるのさ」
「ダーリンはそろそろのはずなんだけどね、会社に寄って、すぐ帰るって言ってたんだけど……お昼は、適当に近くのハンバーガー屋で済ませるつもりだけど。もしかして、お腹空いた?」
「少しね」
「うーん、もう少し待てるかな」
「いいよ」
 と言うと、部屋の外から、がちゃがちゃと音がする。
「噂をすれば」
 やかんが湯気を噴いている。彼女はそう言うと、火を止めて、黒い小さな水筒にそれを注ぐ。お出掛けに持って行くのか、と聞くと、翔の服薬用らしい。
 ただいまー、という声に続いて、おかえり、とも聞こえる。翔の声だ。
「まーおー、腹減った」
 台所側のドアが開いて、疲れた顔が入ってきた。
「誠次(せいじ)、ハニーへの『おかえり』の前にそれかよ」
「だって事実だし。クソ上司が小言を言うから余計にエネルギー使ったし」
 彼女は、小柄な彼女と身長差がそれなりにある彼に近づくと、抱き締めてその背中を叩いた。
「おい、客が来てる前でいちゃこらすんなよ」
 その彼の後ろから、翔も顔を出す。
「客じゃなくて、君のダーリンでしょ、半分身内みたいなんだし、別にいいじゃない」
「おい、おまっ……!」
 一気に顔を真っ赤にするなんて、可愛い人。別に僕の方は、照れてはいないけど。
 でも、この場は一応、一番冷静らしい僕が収めるべきだろう。早くごはんにしたいし。
「まあまあ。全員揃ったんだし、お昼、食べに行かない?」


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