12(R18)

 深呼吸して、部屋の引き戸を二回ノックする。
「……澪なら、入れ」
 近くで聞こえているような気がした。そっと開けると、目の前に、その人はいた。僕がゆっくりと閉めると、その左手で、僕の右手を繋いで、ベッドの枕元までずんずんと。その手が、熱いと感じた。
 オレンジの電気は、部屋の奥側が頭側のベッド、その枕元を照らすもののようだ。でも、その枕は、今日はない。その代わり、ふかふかそうなタオルが敷かれている。もちろん、布団は右側、壁際に追いやられている。
 ベッドの縁、彼が枕側に座り、僕はその右手側に。どちらからともなく、手は重なるけど、顔は、視線は、合わせてくれない。だから、僕も、下を向く。
「……どうするか? 抱かれたいか? それとも」
「先に、君が僕を抱いてよ」
 僕は、もう一つの選択肢が示される前に即答した。翔が、僕を見上げる格好になった。
「今日は、変なこと、しないから。でも、その後、君を抱きたい。変かな……」
 正直に、自分の気持ちを伝えた。いや、意識しなくとも、すらすらと口から出てきてしまう。すると、また、さっきのように、少しだけ、笑ったらしい。
「……奇遇だな。俺も、そのつもりだ」
 僕も、視線を合わせた。向こうから口づけられる。上唇、下唇を、くっつけられて。お互い、揉むように、味わう。自然と伸びる二人の腕、舌で上唇を、続けて下唇もゆっくりとなぞられて、背中に震えが走る――どうしてだろう、今までのキスの中で、一番、気持ちいい……
「ん……」
 一旦離されて、絡み合う視線。少し咳は出たけど、息を整えて、もっと、と、唇だけで紡ぐと、肩を柔らかく包まれて、後ろに、押し倒されて、そのまま、噛みつかれる。
 歯茎の裏側、端から端まで、熱い舌で、ゆっくりとなぞられて、だんだん、喉の方に。背中が痺れてくる。腕を、その背中に回す。
「んんっ……」
 舌同士を、これでもかという程に絡ませてくるから、僕も全力で応える。それから、今度は、少し速いペースで、上あごを、執拗に。
 ダメだ、腰にクる、上手すぎる。思考が、身体が、何もかもが、融かされてしまいそうな――
 やがて解放される。息苦しいのに、咳も出るのに、何故か、それらも、全部、愛に、変換されていくような。
「はあっ、はあっ……けほ……っ」
「だいじょうぶ、か」
「うん……続けて……」
 見上げたその顔、艶めかしい、情欲に満ちた美少年。ああ、ホントに、いい顔に、抱かれるんだ――
 その左手が、首元、パジャマのボタンにかかる。一つずつ、ゆっくりと、しかし一定のテンポで外されて、僕の白い肌があらわになっていく。
――幸せだ。
 多分、これが、僕の本当に求めていたセックスになるのだろう。その期待は、きっと裏切られない。
 一番下まで外されると、手はさらにその下に――
「あっ……」
「おい、まだキスしか、してねえのに……」
「すごいの?」
 寝転がっているから、そこがどうなっているのか、僕は直接見ることができない。でも、下着や寝間着を持ち上げているんだろうな、という感覚はあった。
 翔は、僕の問いには答えなかった。顔を、耳元に寄せてきた。吐息、一つ、それにすら、甘い痺れが走る。
「……白状する」
「え、何を」
「……さっきの茶に、媚薬を盛った」
「……っはは、はははは!」
 僕は思わず、笑ってしまった。翔の笑い声も聞こえる。どおりで、やたら刺激に敏感なはずだ。
「つまり、本気なんだね?」
「ああ、本気だ」
 へえ、この人が仕掛けてきたか。意外と、楽しませてくれるじゃないの。
「君も飲んだの?」
「当たり前だ。じゃねえと、フェアじゃねえだろ」
 そう言って、余裕ぶってるのか、にいっとする顔に、余裕は、ない。
「うん、そうだね。じゃあ……」
「ん」
 前をはだけられて、腰をいやらしく触られながら、首元から、弱いキスの雨が降る。さっき、いじったせいで、激しく自己主張しているだろう二つの果実は、上手く避けられる。
「ん、んっ……」
 微弱な電流でも、カラダが反応してしまうのが、悔しくて、でも、愉(たの)しくて。
 腰まで降りてきた唇は、今度は緩やかに上昇する。またもや、上半身で一番触れて欲しいそこは無視されて、深い口づけ。口づけの間も、胴体を撫で回す手は止まらないから、それもまた、僕の体温を高めてしまう。
――抱かれるって、こんな感じなんだ。
 女を抱いたことはあった。でも、誰かに抱かれたのは、翔が、初めて。でも、あちこち、こっそり自分で開発してみたり、この人を愛おしく思ってしまったり、この人にえっちなお薬を盛られたり……最高に、楽しんでいる、自分が、いる。
 それから、耳に息を吹きかけられて。
「ん……」
「あそこ、触ってやるからな」
 その宣言の直後、はだけていた服が閉じられ、その両方を、服の上から――
「あっ……!」
 自分でも思っていなかった、女の子みたいな、甲高い声を上げてしまって、自分でも、そんな声が出るんだと知って、また、興奮が増して……
「触ってほしかったんだろ? 俺に散々避けられて、ますますその気持ちが強くなって……」
「あっ、んっ、もっと……っ」
「ん、もっと、気持ちよくしてやるからな」
「うん……あんっ……はあ……っ」
 今度は、片手で触りながら、もう片手で、下を脱がせにかかってくる。ああ、もう、そんなに大変なことになってんの、僕の、そこ……君も大概、だけど……
「下、すごいことになってんぞ……」
「しってる……ああっ!……あ、あ、んっ!」
 上の服がなくなったかと思うと、片方を、舐められて、もう片方は、直に、さわられて、る……
「あっ、んっ……やば……ああっ!?」
 したも、さわられてる、だめだ、きもち、よすぎる――
「あ、あ、も、だめ……!」
「ダメなら、イッちまえよ……!」
「ああ、いく、あ、あ、ああっ……!!」
 全身が、歓びに、包まれていく――これが、本当の、愛が通じ合った――


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