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                   ◆

観覧車から降りた後、色々とアトラクションを回って、昼ごはんを食べることにした。
ちょっと遅めの時間帯だったので、十人がくっついて食べることが出来た。
ピザとパスタを平らげて食後のデザートやコーヒー、紅茶を味わっていると、普段は無口な俺の兄貴・蒼真が、珍しく自分から口を開いた。
「そういえば、午前中に点線模様のある人と遭遇したが、他に、そんなもの持ってる人はいないのか?」
「あ、それ、確かに気になる。誰かいないの?」
「何が?」
アルタイルの言葉に、ジェラートを左手でつついていたトロアが顔を上げた。
「だから、他に点線模様持ってる人っていないのかな、って」
「ああ、あれ? 俺、持ってるよ」
「マジで!?」
「うん。まあ、あの時名乗り出ても良かったんだけど、あんまり騒ぎが大きくなるのもあれかな、と思ってさ。なあ、ラルフ」
トロアは、隣でコーヒーを飲んでいたラルフを見る。
「ま、そうだね」
「え、なら、ラルフもあったりするのか? てか、お互いに知ってたのか?」
ベガが聞く。
「うん、あるよ。知ったのはこっちに来てからだね。見たい?」
「是非とも」
「じゃあ、見せよっか」
トロアは左の袖を、ラルフは右の袖を少しだけまくった。今度は二人の手首に、あの点線模様が走っていた。
それを見て、今度は俺が写真を撮りたくなった。
「あ、悪いけど、二人の写真、撮ってもいい?」
「いいよー」
全く同時に発されたゆるい返事は、その場を和ませた。

「はい、チーズ」
両手でピースをしてもらった二人は、俺が言うのもアレだが、まあ、かなり、可愛かった。

                   ◆

午後はもう少しアトラクションを回ってから、お土産の物色タイムとなった。
俺は友達用にお菓子を一箱と、自分用にシンプルなキーホルダーを買ったが、皆は色々なものを買っていた。
シーザとサラはアクセサリー。後でお互いに交換するらしい。
ベガとアルタイルは、同じお菓子でそれぞれ違う味の物。お互いに両方とも食べるんだろな。
クロードはキーホルダーを二つ。一つはベガにあげるそうだ。
アロルドとラルフはボールペン。実用的なものが欲しかったようだ。
と思ってたら、兄貴もボールペンを買っていた。まあ、大学生だからか。
トロアは、……あれ、トロアは?

「皆、トロア見なかったか……?」

「トロア? 一緒に店に入ったけど……って、いねえ!」
「あれ、いつの間に」
「うわ、そりゃ大変だ」
皆で周りを見渡して見るけれど、それらしい気配はない。
――迷子か?
「俺、探しに行ってくる!」
「頼んだ!」
アロルドの声を背に、俺は走り出した。

その瞬間だった、デジャヴな光景を目にしたのは。

「あ、ごめーん」
「迷子を届けにきましたー」

トロアが二人帰ってきた。

「……あの、聞くけど、まさかまたドッペルゲンガーじゃないよね」
俺は二人と合流して、呆然としている皆の元に歩いて戻りながら問い掛けた。
「残念ながら、それなんだよね。ね、康太」
既に呼び捨てである。
「そうそう。なんか一人寂しそうな様子の人がいるなーって思って、声掛けたらそっくりさんだよ。なんか、手首の点線も同じやし、利き手も同じ左やし、買ったものも同じやし。ほんとにびっくりした。あ、俺の名前は棚井康太や。よろしく」
トロアより少し小さい人が言う。
そう言われてみれば、二人とも全く同じ大きさの袋を持っている。

「ドッペルか?」
皆と合流したところで、ベガが聞いてきた。
「そうらしい。でも良かった、すぐに見つかって」
「あー、ごめんね。遊んでる途中で欲しい物を見つけたから、そこに戻ってそれ買ったんだ。そしたら帰り道が分からなくなって……」
「その、康太、って人が見つけてくれた、と」
「そういうこと。ああ、ここにアニキ達がいなくて本当に良かったよ。いたらまた馬鹿にされるところだ」
「あれ、トロアってお兄さんがいるんだ」
興味津々といった顔で、康太はトロアに聞いた。
「うん、二人ね。どっちも過保護でさ……ホントは言っちゃいけないだろうけど、ちょっとウザい」
「あー、その気持ち、俺も分かるかも。俺、二つ下の妹と四つ上のお姉ちゃんがおるんやけど、妹はうるさいわ、お姉ちゃんは世話焼きでやけに干渉してくるんだよね。疲れるわ、あれは」
「そうそう、俺のところも。この間、一人でちょっと遠くに行く用事があったんだけど、何かこっそり付いて来ててさ」
「うわ、それはやりすぎやわ。そのお兄さん達何歳?」
「えっと、上が二十六で、その次が二十五。で、俺が二十三」

二十三。
トロアがそう言った瞬間に、康太の表情が固まった。

「……二十三?」
「うん。これでも二十三。……あれ、言っちゃいかんかった?」
「二十三で、その見た目と、その身長?」
「ああ、まあ……」
場の空気が緊張する。

「俺、まだ十四なんやけど……」

ドッペルゲンガーは、あまりにもそっくりな存在だ。
今、俺は康太と同じ十四歳で、169cm.
それから比べると、トロアは多分162から163.
二人の身長差は目分量で五から六センチぐらいだから、康太は156から158ぐらい。
つまり、康太は、あと五、六センチしか伸びない可能性が高い、という事実を突きつけられたのだ。

「・・・・・・あ、そ、そうなんだ……」

多分、皆そう思っただろう。

と、ここで、明るい音楽が突如流れた。
「あ、俺だ」
ケータイを出したのは、康太だった。
電話で二、三言話すと、すぐにそれを切った。
「親から呼び出されたけん、戻るわ。まあ、少しでも『仲間』を見つけられたけん、その点では良かったよ。じゃ」
そう言って康太は背を向けたが、すぐにまた、俺達の方を向いた。
「あ、そうだ。えっと、俺とトロアさんを最初に見つけてくれた人、」
「俺か?」
「そう。あの、……名前は」
「名前?」
「うん。いや、何か、聞いといた方がいいかな、って」
ちょっと恥ずかしそうに言った康太に、俺は少しだけ微笑んで言った。
「……上野。上野歩真だ」

「歩真、か。――またいつか、会えるかもね」
「え?」
小声でそう言って、康太はタタタ……と走り去ってしまった。
――何だったんだ、あの子は。
俺はしばらく、彼のことが頭から離れなかった。
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