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結局、四十分遅れで遊園地に着いた。
「何や、朝からトラブル多くね?」
「お前が言えることじゃないだろ、Mr.トラブルメーカー」
「あはは」
シーザとラルフが軽口を叩き合う。
俺の母が皆にチケットを配り、皆でぞろぞろと入っていった。
入口で待ち合わせる約束をして、親組と子供+カップル組に分かれた。
「あ、そうだ」
俺はどうしても皆に言わなければならないことを思い出した。
「どうした?」
「いや、もしミリエラ組が、名前とどこから来たかというのを聞かれたら、『アメリカから来た日本語を勉強している者です』とか嘘を言わないとまずいかな、って。この世界じゃ、異世界の存在を信じない人が多いから」
「あー、なるほど。じゃ、それを守るように」
「はーい」
やはり、アロルドはまとめるのが上手い。


まずはジェットコースターから。
二人ずつ、ということで、シーザとサラ、ラルフと俺、ベガとトロア、アルタイルと蒼真、アロルドとクロード。
婚約組と兄弟はともかく、ベガはアルタイルではなくトロアとべったりだ。
トロアも満更でもない表情をしている。
二人はどんな関係なんだ、とラルフに尋ねると、ラルフは二人を見て、ため息をついて言った。
「奇妙な関係だよ。俺の知る限りでは、ベガは少なくともトロアを恋愛対象として見てはいない、らしい。本人曰く、『アルタより可愛い弟みたいなやつ』、ってね。でも、それにしちゃあ、ベガは積極的過ぎる気もするんだよなあ」
「けど、ベガは、『俺のアルタイルはクロードがいい』とか言ってたけど」
俺は、彼女と初めて会った時のことを思い出す。
「それはちょっと嘘くさいな」
「と、いうのは」
「あの人は、片思いを楽しむタイプでね。決して告白しない。しかも相手はコロコロ変わる。前に好きだったやつを、後にもう一度好きになることもあるらしい。つまり、その時はクロードが好きだったのかもしれないけど、今はそうとも限らない、って訳さ」
「……うん、難しいね。トロアは?」
「あの人は一途だよ。兄貴二人が言うには、どこで出会ったかは知らないけど、仕事先で一目惚れして帰って来たらしい。『Ark』を取りに行ったのも、彼女を自分に振り向かせるため、かもしれないとは言ってたね」
「……そこまでするのもすごいな。――あ」
俺は言ってから、どうしても聞きたい質問を思いついた。
「どうした?」
「いや、結局、トロアは『Ark』を使ったのかな、って」
「それは流石に知らんな。まあ、多分使ってないだろうね。あの人チキンだし」

いよいよ順番が巡ってきた。
アロルドとクロードの二人が一番後ろに乗って、コースターは発進した。
俺は、絶叫系は好きではないが、嫌いでもない。
つまり普通だ。
でも今回は、少しばかり楽しみにしていた。
久しぶりというのもあったが、何よりミリエラで一緒に遊園地に行かなかった人達の反応が見たかったのだ。
だが、それは叶わなかった。
ジェットコースターのレベルが思ったよりも高くて、そんな余裕が無かったのだ。
でも楽しめたのでよしとする。

                   ◆

既婚者組がどうしても二人きりで観覧車に乗りたいというので、俺達はそこへ向かった。
その途中で片割れのシーザがトイレに行ったので、俺達はぼちぼち言葉を交わしていた。
けど、いつまで経っても帰ってこない。
混んでいるからかな、と皆が思っていたその時、

「ごめん、」
「お待たせ!」

シーザが二人帰ってきた。

俺やアロルドなどは即座に「ドッペルゲンガーにでも会ったな」と思ったりしたが、そんなことを知らない他の人は大騒ぎ。
中でもサラが一番取り乱していた。
「な、なんでシーザが二人も!? シーザは一人よ!」
「ああ、サラさん、落ち着いてください。世の中には似ている人もいるんですよ」
やけに紳士なラルフがなだめる。
俺が代表して声を掛ける。
「どうしたんだ、隣の人」
「ああ、この人ね。矢入俊成(やいり としなり)っていうんやけど、俺がトイレから出てきたら、偶然目が合ってさ。それで話してたら、結構気が合ったんや。なあ、とっしー」
「まあな。目が合った時、ほんまにびっくりしたわ。『ドッペルゲンガーって本当におるんや』、て。あの模様も全く同じやしさ」
「それこそびっくりしたよ」
「模様? 模様って何だ?」
俺が聞くと、二人は「えっとね、」と言いながら右腕の袖をまくった。
「ほらな、全く一緒なんやって、これ」
そこには、俺とクロードの左腕にあったものと同じ紅い点線模様が、腕を一周していた。
皆がそれを覗き込んだ。
「おお、本当にそっくりだな」
「すごい……」
周りが感嘆の言葉を口に出す中で、いつの間にか隣に来ていたクロードが、俺の肩を叩いて、耳打ちしてきた。
(俺らも見せないか? もちろん、双子じゃなくて『ドッペルゲンガー』として)
(いいよ)
(じゃあ、俺から声を掛けるから)
「あのー、びっくりしてるところ悪いんだけど」
クロードがそう言うと、皆の注意が俺達に集まった。
「あれ、お前らもめっちゃそっくりやん。額の傷まで。まさか二人も?」
とっしー、――確か矢入俊成といったか、が言った。
「そうなんだ。俺が上野歩真で、こっちはクロードっていうんだけど、かくかくしかじかで出会ってね。俺らにもそんな模様があるんや」
「え、マジで!?」
「マジだ」
俺はクロードと視線を合わせて、左腕の袖をまくった。
再び驚嘆の声があがる。
「え、お前らも?」
「世の中にはまだまだ不思議なことがあるもんだな」

それから、皆の名前や、蒼真とアロルドもドッペルゲンガーであること(ちなみに二人には点線模様はない)など、色々と話した後、俊成がカメラを取り出して言った。
「あの、ここで出会ったのも何かの縁やと思うんです。せっかくだから、皆で写真撮りません?」
「いいね、それ。撮ろう撮ろう」
ミリエラの人は、カメラの存在に驚いていた。
向こうにはそんなものがないらしい。
それでも実際に俊成が操作しているのを見て、何とか納得してくれたようだ。
正面から見て、一番前に右から俊成、シーザ、クロード、俺が座り、二列目には右から蒼真、サラ、アロルド、ラルフ、トロアが中腰。
そして一番後ろに、右からアルタイルとベガが陣取った。
模様がある四人はそれを露(あらわ)にした状態だ。
「じゃあ、タイマーで撮るよ」
近くの空いていたベンチのテーブルにカメラを置いて、俊成が戻ってくる。やがて「カシャッ」という音が聞こえた。
「はい、撮れました。見ます?」
皆がぞろぞろと集まって、カメラの液晶画面を覗き込んだ。
「ああ、これでいいんじゃない?」
「OK、OK。あ、それ、良かったら何枚か送ってくれる?」
「ええよ。じゃあ、住所と連絡先教えてや」
俺は自分の住所と、ケータイのメールアドレスを伝えた。
「……よし。んじゃ、またそっちに連絡して送るわ。――あ、俺、そろそろ行くわ。じゃあな」
「バイバーイ!!」
後姿が見えなくなるまで手を振って、俺達はやっと観覧車に乗った。
今回は、シーザとサラ、ベガとアルタイルとトロアとラルフ、俺と蒼真とクロードとアロルドに分かれた。



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