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実は俺も、メトア山に入って、『Ark』を探していたんだ。
それからしばらくして、昼寝をしている時に、妙にリアルな夢を見たんだ。俺らしき人が、アロルドやベガ、アルタイルと戦っている夢を。
目が覚めた時、俺は違和感に気付いたんだ。夢の中の俺は、俺ではなく、双子のクラウス――上野歩真かもしれないと。そして戦っているのは夢ではなく、現実かもしれないと。
気付けば俺は、お前の気配を探って、無意識のうちにお前を操っていた。そして敵を殺す時に、敵はお前に一つの質問をした。俺――クロードは何者か、とね。この時俺は追われていたから。その時にお前は、いや、俺は、こう言ったんだ。

――Lui è il fratello più vecchio dei miei gemelli――

「『彼は僕の双子の兄だ』、とね」

「……」
想像していたこと以上のことを言われて、クロードは呆然とした。
「要するに、俺がお前とその仲間達を助けるために、双子にだけ使える力を使った訳だ。これが第二の証拠。……分かったかな?」
「な、なんとなく」
すごいこともあるものだな、と感じた彼であった。


                   ◆


その後、ケガを癒すためにしばらく姉弟の家に泊まった後、クラウスは日常に帰る――上野歩真に戻るために、地球に帰還することになった。
向かったのは、ミリエラにきた時と同じ、周りを木々に囲まれた小さな草原の中にある池。ベガ、アロルド、そしてクロードが同行した。

「いよいよ、お別れか」
「出会いに別れは付き物だからなあ。ま、またいつか会えるさ」
アロルドとベガが、クラウスを挟んで言う。
「そう出来る日を待ってるよ。ここでの生活、結構楽しかったし。また何かあったら呼んでよ」
「ああ、そうさせてもらうよ」
いくらか二人と言葉を交わした後で、クラウスは先程から黙っているクロードに声をかけた。
「クロード」
「ん?」
彼はクロードに顔を近づけ、会話が年上二人に漏れないようにする。
「ずっと聞くの忘れてたけどさ、その額の傷、俺のものと同じなのは偶然だよね?」
クラウスがメトア山の竜と争った時に出来た、額の傷。思っていたよりもひどいものだったらしく、約二週間経った今でも傷跡がはっきりと残っている。それと同じものが、クロードの額の全く同じ場所にあったのだ。
「偶然だろ。もしかしたら必然かもしれないけど。あまり気にすんな」
クロードは、少し笑って答えた。
「何の話だ?」
ひそひそ話を不審に思ったのか、アロルドが二人に尋ねてきた。
「ドッペルゲンガーの内緒のお話ですよ」
クロードが微笑で答えた。
「なら仕方がないな」


                      *


会話を重ねていく内に、いよいよ日が沈み始めた。
「そろそろ行った方がいいんじゃないか?」
ベガが提案する。
「そうだな。俺達もそろそろ、城に戻らないとまずい」
アロルドが言い、クロードもうなずく。
「じゃあ、そうする。また会おう」
クラウスは来た時と同じように、水に手を触れようとした。

と、その時、ベガが思わぬ一言を放った。

「地球(テラ)の僕とも、仲良くしてな?」

「……!! わ、分かっとるわ!」

その言葉の意味を即座に理解したクラウスは、夕日のように顔を真っ赤にして、池へと飛び込んだ。

――あの夜のこと、まだ覚えていたのか!
――ベガ、覚えとけー!


                     ◆


気付いた時には、上野歩真は自分の部屋のベッドに横たわっていた。
枕元の時計を確認してみると、ミリエラに流された日の午後四時過ぎをさしていた。
――本当に、元いた時刻と場所に戻してくれたんだな。
そっと身体を起こすと、勉強机の上に『上野くんへ』と書かれた封筒があった。
――誰からだろう?
封を開けてみると、クロードからの手紙が入っていた。


上野歩真へ

ミリエラでのちょっとした冒険、楽しんでくれたみたいで嬉しいです。
元々は、僕が原因で皆に迷惑を掛けまくったからだったからけど。まあ、そこは反省しています。

『Ark』は使えばどんな夢も叶う――そんな箱です。実は僕も、叶えたい夢があってこの箱を探しに出かけたのです。
それは、今の王制を壊して、民主主義を実現することです。今のルテンバーは、貧富の差が激しくて、事件も増えています。けれど王家は、それらの問題を無視しています。まだまだ年齢的に子供な僕がこの状況を変えるためには、クーデターか革命を起こすしかない。だから、『Ark』の力を借りようと思ったのです。

今、力は手に入りました。僕は着々と準備をしています。一緒に『Ark』を探した人達も、それぞれの夢へ向かって、この箱を利用した計画を立てているでしょう。

これがうまくいくかどうかは、やはり分かりません。でも僕は、『Ark』に賭けてみたいのです。

歩真くん。
僕達は、ミリエラで頑張っていきます。
だから、歩真くんも色々と頑張ってください。

君に神のご加護がありますように。

クロード・ルテンバー


「……すごいやつだな。まだ俺と同じ十四歳なのに、こんな夢を持っているなんて」
彼は手紙を封筒に戻し、大切にしまっておいた。

「さあ、俺も頑張っていくか!」


(完)


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