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                       ◆

翌朝。
朝食を食べ、七人は宿の外に集合した。
「よし、行こうか。シーザ、地元なんだから案内を頼む」
「お安い御用さ」
シーザを先頭に、一行は朝の静まり返った道を登っていった。


                  *


歩いていくうちに、歩道の両端は木が立ち並ぶようになってきた。
森の中に入ったようだ。
一行は体力を消耗しないように、極力話さずにここまで来ている。

と、その時、シーザが立ち止まった。
「ん、どうした?」
ベガが聞く。
「……敵の気配がする」
「どこから?」
「どこだ……?」
シーザが気配の発信源を探っていると、アロルドが声を上げた。

「皆、上だ!」

サッと皆が動くと同時に、それぞれが武器を構え、何人かはそれに攻撃した。
爆発音があたりに響き渡る。
爆発による煙が晴れたところには、背の高い青年がいた。
「おー、痛い痛い。流石、ルーラの将来を背負う者だな」
「何者だ、お前は」
アルタイルが、噛み付くように敵に問う。
「何者って、そりゃ、『Ark』を守る人間ですよ。もし『Ark』から手を引くなら、これ以上の攻撃は加えません。でももし、やっぱり狙うのであれば……」
「……ならば?」
アロルドが挑発的な声で言う。他の皆も、本気の目をしている。
七人に『Ark』を狙う意思があると判断した敵の青年は、右手の指を鳴らした。
すると、七体の奇妙な生物が出現した。
「こいつらに食われてもらおうか。あ、俺は戦わないからな」
青年は霧を纏って、その場から姿を消した。
それと同時に、生物は七人に襲い掛かった。

「かかれ!」

ベガは、両手に拳銃を構え。
アルタイルは、ライフルを構え。
アロルドは、剣を構え。
ラルフとシーザは、手にいっぱいのナイフを構え。
そしてクロードとクラウスは、フランベルジェを構え。

七体の生物に襲い掛かった。

戦闘は、思っていたよりも時間と体力を消耗した。
謎の生物は、銃弾が当たったり、剣やナイフでどれだけ斬られたりしても、ものすごいスピードで回復した。
その上、一気に攻撃するのではなく、ちまちまと傷をつけてくる。
ミリエラの人々も、ケガは早く回復するが、その回復力が追いつかないのだ。
そしてその攻撃方法は、自力で回復するのが遅いクラウスを――そしてミリエラの人間であるはずのクロードをも、特に苦しめた。

全部を倒し終えた時には、彼らの体力はすでに限界に達していた。
青年が再び現れる。
「いやー、参ったね。並みの人間には到底倒せないと思ったけど。どうも君達は、そうとう戦闘慣れしているようだね」
――いや、そんなことはない。
クラウスは心中でそう思ったが、口に出す余裕は持ち合わせていなかった。
「でもやっぱり、あの子達の相手をするので精一杯だったみたいだね。その体では、俺に対抗する力はほとんど残っていない」
疲れきったのか、反論する者はいない。
「本気で『Ark』を狙うなら、もっと鍛えてもらわないと。まあ、今更遅いけどね」
青年は右手にどす黒い球体を構えて、歪んだ笑顔を見せた。

「おやすみ」

万事休す。
七人が皆、そう思って目を閉じた。

だが、衝撃は襲ってこなかった。
その代わりに、一発の銃声が耳に入った。

彼らが目を開けると、そこには倒れている長身の青年と、左手に拳銃を持って一息ついている小柄な青年がいた。

「命拾いしたね、君達」
小柄な青年はそう言うと、ベガの元へ駆け寄った。彼女の元へたどり着いた瞬間、青年はベガの腕の中に倒れた。その顔は、あまりにも紅かった。


        
            ◆


数時間前。
トロアは、昨日熱を出して、ほぼ一日寝ていたせいか、いつも起きる時刻より少し早く目覚めた。
――まだ六時か。
昨日より若干体は軽くなったものの、まだ熱っぽく、気だるさも残っていた。食欲もあまり無かったので、荷物の中に入っていたお菓子で朝食を済ませた。
――本当は良くないんだろうけど。
まだ寝ていた方がいいと頭では分かっていたが、『Ark』のことを急がなければならないという気持ちが強かったので、体調が悪いのを隠して、『Ark』があるとされる島の頂上へ歩み始めた。
その途中で、爆発音が聞こえたのだ。
――この先で、何かあったのかもしれない!
体調のことは一瞬で脳内から消え去ったトロアは、すぐに爆発現場へ急いだ。

そこにたどり着いた時、七人の人間が、見覚えのある男と対峙していた。そしてその中に、自分が思いを寄せている人物がいた。
――ベガ!
だがそこには、ベガ以外の人間もいる。いきなり割り込んだら、それこそ危険だろう。間もなく謎の生物が召喚されたが、ここは彼らに任せることにして、一旦森の中に隠れて、どうしてもまずいと思ったら介入することにした。

しかし、戦闘を見ている間に、彼の身体に悪寒が走った。
――しまった、体調悪いの忘れてた!
そう思っている間にも、悪寒はなかなか止まらない。息もだんだん上がってきた。
けれど、彼が一番心配していたのは、やはりベガであった。
彼は、いつの間にか戦闘が終わっているのに気がついた。そして青年の手に、怪しいものを見た。

――危ない!

彼は飛びそうな意識の中で、無意識のうちに青年を銃で撃っていた。
青年が倒れているのを確認すると、ベガがいる集団の前に躍り出た。

「命拾いしたね、君達」
そのままベガの元へ直行すると、彼は意識を失った。


                  *


「……誰だこいつ」
真っ先に口を開いたのはラルフだった。
「僕の知り合い」
ベガはさらりと答えた。
「名前は?」
今度はシーザが聞く。
「トロア」
「トロア……ってえ!? 『白い堕天使』の人?」
「よく知ってるな。その人だ」
名前を聞いて驚いたクロードに、ベガはあくまでも淡々と答える。『白い堕天使』というのは、裏社会でのトロアの通り名だ。
「でも、この人どうしようか。僕達を助けた目的が分からないし、しかも熱あるし……」
独り言のように彼女が言った時、前方から二つの声がした。

「あ、ベガじゃないか。それにアルタイルやクロード達も」
「いつも弟が世話になってるよ。代わりにお礼を言う」

二人の手には、今まで七人が追い求めていたものである『Ark』らしきものがあった。



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