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〜前回までのあらすじ〜

ある日、学校から帰ってきた中学生、上野歩真(うえの あゆま)は、自分の部屋にあった謎の箱に手を突っ込んで、『ミリエラ』と呼ばれる異世界に流された。
そこで、自分の兄のドッペルゲンガー(アロルド)に、降り立った地である『ルテンバー王国』の次期王子である彼の弟(クロード)、つまり自分のドッペルゲンガーの捜索に協力して欲しいと頼まれる。
クロードは、自分の望みを叶え、世界を自分の意のまま操ることが出来る危険な箱、『Ark』を、一人で探しに行ってしまったのだった。
話を聞いて、歩真は協力することに決め、『クラウス』と名のり、アロルドの友人であるベガと、その弟、アルタイルと共に、『Ark』とクロードを探す旅に出る。

一行は、『Ark』があるとされている場所の一つ、ルーラ帝国のカチェにあるメトア山に向かったが、ここでは『Ark』を発見出来なかった。(なお、この時にクラウスは謎の行動を見せ、敵を精神戦の末に殺している)
そこで次の候補地、デルタ王国のコラリス島に向かう。

                    *

もちろん、動いているのは四人だけではない。
現在の皇帝に不満を持つ、ルーラ帝国次期皇帝、ラルフ・ルーラ。
彼は、国王の座を継がずに、一般庶民と結婚するという夢を持つデルタ王国の次期国王、シーザ・デルタと手を組み、二人で『Ark』の入手を試み、コラリス島へ。

そんな彼らに対抗して、危険な『Ark』を誰の手にも渡すまいと奔走する『「Ark」を守る会』。
彼らは、『Ark』を狙う者の妨害を繰り返している。
しかし、比較的強いはずのメンバーがクラウスに殺されたり、彼らの活動する秘密空間に何者かが侵入し、情報収集の邪魔をされたりするなど、その勢いにかげりが差している。

そして、一人で飛び出していった『謎の旅人』、すなわちクロード。
彼は順調に捜索を続けていたが、移動中に嵐に巻き込まれ、長旅の疲れも相まって、熱を出してコラリス島で足止めを食らう。

そんな混沌とした状況の中、一人でコラリス島に向かおうとしている病弱な青年がいた。
彼の名はトロア。
表向きは一人旅だが、その真意は兄達のコバックやリトラスでさえも分からない。

さあ、最後に『Ark』を我が物にする者は誰なのか――!?


Ark 5(最終話)


朝八時。
コラリス島に向かう船は、祭り見物の客でごった返していた。
しかし、その中には、必ずしもそれだけが目的ではない人々がいた。
そう、『Ark』を狙う者達だ。

「しかし、すごい数の人だな。これ全部祭りか?」
顔に疲労の色を浮かべ、そう問いかけたのはベガ。
「だろうな。毎年相当な人出があるって聞いたことはあるけど、まさかここまでとは」
そう答えたのは、ベガの右側に座っていて、四人の中では一番年上のアロルド、通称ロール。彼の右横ではアルタイルが船内にあった雑誌を読み、ベガの左横では、クラウスがクロードが置いていった携帯音楽プレーヤーで音楽を聴いている。
「僕も予想外だ。それで、思ったんだけど、この大人数の中で騒ぎを起こすのはちょっとまずくないか? せっかく異世界の人間もいることだし、一日ぐらい観光させてやってもいいと思うけど」
「あー、それもそうだな。初っ端からミスして祭りに迷惑を掛けたくないしな。うん、そうしよう。どうせ行き当たりばったりの旅だからな」
アロルドはアルタイルの、ベガはクラウスの肩を叩き、このことを伝えた。
「思いっきり楽しんでいいぞ」
そう言われた二人は、子供らしい満面の笑みを浮かべた。
それを見て、年上二人は「ああ、やっぱり二人はまだまだ子供だな」と思うのであった。

                ◆

一方、船の軽食コーナーでは、帽子をかぶった二人組が、ピザトーストを食べながら話していた。
二人は庶民の雰囲気を醸し出しているが、その正体はルーラ帝国次期皇帝、ラルフ・ルーラと、デルタ王国の次期国王、シーザ・デルタであった。二人とも、それぞれの野望を持っている。
「まあ、今のところ、うまく同化出来てるみたいだね」
ラルフは、周りの乗客の様子を見て言う。
「ええことや。俺らは中身がばれたら即刻アウトだからね。――ん?」
シーザも周囲を気にしながらそう言ったところで、ある一点でその視線を止めた。
「どうした? 誰か知り合いでも?」
「うん。どこかで見たことがあるような人なんや。ほら、あの四人」
彼が指さした先には、クラウスの一行が座っていた。
「あれ? ――ああ、あいつらだ!」
「知り合いか?」
「めっちゃ知り合い。しかもこの間カチェで会った。ちょうどお前を誘う直前に」
「まじか。じゃあ、まさかあいつらも……」
ラルフは、声が他の人に聞こえないように、小声で話した。
「狙ってる。その話を聞いて、自分もやってみようかと思って」
「それでか。なら、あいつらはライバルか」
「一応ね。でも、こっちに気付いたら、協力する用意はある。知り合いだからね」
「そりゃそうだな。――で、どうする? 今日はこんな感じだし、祭り見物でもいいと思うんやけど」
シーザは声の調子を戻した。
「話の転換早いな。ま、それは置いといて。僕もそれは考えてたんだ。ラルフ、お前、ここの祭り来たことないだろ?」
「うん。一回は行ってみたいとは思っていたけど」
「ならせっかくの機会だ。今日は荷物だけ預けて、のんびりしよう」
「はは、そうだな」
二人の時間は、王宮にいる時よりも、ゆったりと過ぎていく。



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