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                   ◆

午前十時。
クラウス一行は、カチェの駅にいた。
アロルドとクラウスが切符を買いに行き、ベガとアルタイルは駅構内のベンチに座って待っていた。
「あー、一つの街を離れるって寂しいね」
ベガが駅の外の景色を見ながら言う。
「ホントや。なんかこう、もう少しいたい気分になるよなあ」
アルタイルも彼女と同じ景色をその目に捉える。
しばらくそうしていると、二人の背後から声が掛かった。
「おーい、切符買ってきたよー」
二人が振り返る間もなく、声の主――クラウスは二人に抱きついた。
「「うおっ!?」」
「ははっ、びっくりした?」
クラウスは無邪気に笑う。三人やこの世界そのものにも大分慣れたようだ。
「そりゃしたよー」
「クラ、お前朝から元気だな」
遅れて歩いてきたアロルドも、彼らに合流する。
「さて、行こうか。今日は移動ばっかりだけどな」
「そうだな」
今日の彼らの予定は、この後列車に乗って、午後二時にマロナに到着。一時間余の待ち時間の後に、今度はカルナ行きの列車に乗る。カルナに着くのは午後六時。そこから船に乗ってコラリスに到着する予定だが……。
「でもさ、さっきニュースでやってたんだけど、カルナとコラリス島は今大嵐なんだって。船、出るかな?」
アルタイルが不安そうに聞く。
「あー、そうなんだ。それはちょっと困ったな」
アロルドが髪を掻きながら言う。
「カルナで泊まればいいじゃないか」
ベガが提案する。
「普通ならそうするよ。けれど今回はそうすることが出来ないから困ってるんだ」
「何で?」
「あれ、クラウスはともかく、ベガとアルタは知らないのかい? コラリスは明日から祭りだぞ」
その言葉に、ベガとアルタイルははっとする。
「「……そうだった!!」」
「ああ、だから本土側のカルナの宿も一杯なんだ!」
「そういうことだ。コラリスの宿は一応ギリギリで予約入れられたんだけど、カルナはノータッチだ」
「それは仕方ない、だって事前に予測出来なかったんだから」
ベガが、まいった、と言うような表情で言う。
「あの、一つ聞いていい?」
またもや会話に置いていかれたクラウスが尋ねる。
「コラリスで祭りがあるって言ってたけど、どんな祭り?」
「ああ、それは……」
アロルドが説明を始めようとした時、駅構内に放送が流れ始めた。
『お客様にお知らせします。本駅発、マロナ行き高速鉄道・マウンテン号は、十時三十分、十時三十分に発車いたします。繰り返しお知らせします。……』
「……乗ってから説明しよう」
「お願いします!」
クラウスが全員に切符を配り、一行は列車に乗り込んだ。

                  ◆

同刻 カルナのどこか
「だーかーらー、俺はもう大丈夫だって! それに、俺だって自分が暮らしていけるだけのお金は自分で稼いでる立派な大人だからさ、一人旅ぐらい……」
病み上がりらしい小柄な青年は、一気にまくし立てると、一つ二つ、咳をした。
「ほら、まだ咳止まってないじゃないか! そんなことは自己管理が出来るようになってから言え!」
彼よりも少し背の高い青年も、ややキツイ口調になっている。
「は? お前、二十何年も一緒に過ごしてきてまだ分からんのか? 普通の人間ならまだしも、身体が弱い俺がここまで回復しただけで十分じゃないか! 少々咳が出るくらい、何の問題もないわ!」
「だから、その少々が俺は心配なんだよ! こんなタイミングの時に一人で行って、また高熱出してぶっ倒れたらどうするんだよ!?」
「その時は自分で何とかするわ! やけんいい加減一人で行動するの許してや! このブラコン!!」
「ブラコンで上等や、この病弱!」
「ああ? 病弱なめとんか!?」

「お前ら、落ち着け!」
「「!!」」

エスカレートしかけた会話を、三人の中で一番背の高い青年が一言で止めた。
「コバック、お前はもう少しトロアに寛容になれ。トロア、お前も、もうちょっと落ち着け。それに、もう熱は下がってるんだろ? なら一人で行ってもいいんじゃないか? どうせ、ここからコラリスまでは二時間だ。何かあったらすぐに飛んでいけるだろ。な、コバック?」
「けど、やっぱりさ……」
コバック、と呼ばれた中ぐらいの背の青年は、それでも尚渋い顔をした。
「コバック、」
長身の青年が改めて彼の名を呼ぶ。
「何、リトラス」

「いい加減、大人になれ」
「!?」

リトラス、と呼ばれた青年は、コバックの頭をポンッと軽く叩くと、小柄な青年――トロアの肩に手を置き、声をかけた。
「お前が、そんな言葉を言うのを待ってた。俺達としてはやっぱり心配だけど、たまには一人で、何にも縛られずに、思う存分楽しんで来い」
「……ありがと。でも、コバックが……」
「心配するな。コバックもいいって言ってくれるさ。な?」
リトラスは、後方で動かないコバックを見て言う。
「……行っていいよ、別に」
コバックは、そっぽを向いて言った。
「ほらな?」
すると、トロアは満面の笑みで言った。

「ありがとう、お兄ちゃんたち!」

「!!??」
「お、おう……」

「じゃあ、俺、準備に戻るよ」
兄達の動揺を無視して、末っ子のトロアは彼らの視界から姿を消した。
「「はあーっ」」
残された二人は、同時に溜息をついた。
「あんな場面で、しかも二十過ぎの人間が『お兄ちゃん』呼びとか……あれはダメだ」
「俺もやられた。――ところでさ、」
「ん?」
リトラスは、「トロアには内緒だ」と前置きしておいて、コバックに耳打ちした。
「――うん、いいと思う」
コバックはちょっとにやけながら賛成する。
「じゃ、こっそり準備始めとけ」
「了解」
兄達は、まるで何事もなかったかのように、日常に戻った。


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