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                 ◆


一時間後 謎の空間にて

「大変です! 大変です!」
「どうした、β(ベータ)。そんなに慌てて」
「αが殺されました!」
「――何だと……!!」
「相手は誰だ?」
「地球から来た、ルテンバー王国の王子のドッペルゲンガーです」
「地球人が!?」
「魔法や武器を駆使する、我々ミリエラ人を倒しただと!?」
「信じられん……。でも確かそいつ、集団で行動していると聞いたんだが」
「それが、αと対峙したのは彼一人のようで」
「そうか……よし、そいつとその仲間も要注意だ。名前は?」
「クラウス、と名乗っているようです」
「その他の仲間は?」
「リーダー格の青年がアロルド、同行者の二名の男女はアルタイルとベガ。姉弟です」
「成程。アロルド率いる旅人集団、ルテンバーの王子のドッペルを連れていることと、『Ark』を狙う集団として要マーク。情報を収集せよ」
「「了解!!」」
「そしてもう一つ、『謎の旅人』はどうなっている」
「『謎の旅人』についての情報、入りました」
「お、やっときたか。どんな内容だ」
「マロナ駅で、ルーラ帝国次期皇帝、ラルフ・ルーラと接触した模様です」
「マロナ……ああ、あそこか。カチェからマロナに行ったってことは、」
「コラリス島に行くのか」
「それ以外に考えられないでしょう」
「だな。それよりお前ら、肝心の『謎の旅人』の正体はまだか」
「あの、偽名なら名乗っていますけど」
「それでも構わん。何だ」
「それが……」

「クラウス、と名乗っていまして……」

「……ん? 確かにそいつ、『クラウス』、って言ってたのか?」
「はい。間違いありません」
「そうか。おい、β。ルテンバーの王子のドッペルは、確かに『クラウス』と名乗っていたのか?」
「はい、そうですけど……」

「「……え?」」

騒がしかった空間が、一気に静かになる。
「えっと、ルテンバー王国の王子のドッペルゲンガーが『クラウス』と名乗っていて、『謎の旅人』も偽名だけど『クラウス』と名乗っている……」
「あれ? 同名……?」

「よし、二人の関連について最優先に調べろ!」
「「了解!!」」

リーダーと思われる男は、指示を出し、自分の席に深く座った。
時刻は午後三時。


                    ◆


再び一時間前に戻る。
ラルフと別れて読書の続きをしていた『謎の旅人』――クロードは、いつの間にか喫茶店の椅子で寝ていた。
彼は夢を見ていた。
自分によく似た男と、彼と仲が良い友人が、見覚えのある謎の男と争っている夢を。
――だから、今ここで、私の前で宣言してくれ。『Ark』を探すことを止めて、今すぐ国に帰ることを。さもなくば……

「この声、α……!」
自分でそう言って、目が覚めた。
幸い、混雑している喫茶店では、その声は誰にも届かなかった。
――ん? 待てよ、さっきの夢、出てるの知ってる奴ばっかりだ。
彼は夢に出てきた人を思い出そうとする。
――兄ちゃんに、ベガに、アルタイルに、俺……。
――でもあの俺、俺じゃない。俺という感じがしない。
――もしかして……歩真? ならばどうして?
――まさか。

彼の心の中で、様々な考えが混ざり合う。
――これ、今現実に起きていることじゃ……。
――ならば助け舟を出さなければ!

彼は呪文を唱えた。
歩真だけに効く特別な呪文を――


                    ◆


そのしばらく後 メトア山

「……クラウス、」
アロルドが、たった今人を殺した男の名を呼ぶ。
「……」
しかし、返事はない。
その時、その場にいた四人全員の心に、不思議な声が響いた。

――歩真、よく頑張ったな。お前は少し休め。ロールとベガとアルタ、しばらくの間、歩真を頼む。

「何だ、今の声……」
「あれ、お前も聞こえたのか?」
「俺も聞こえたぞ」
ミリエラ人三人は、不思議な顔をして言葉を交わす。
そんな彼らの耳に、今度は近くから声が聞こえた。
「ロール、ベガ、アルタ……」
「!?」
彼らは声の方向を向いた。
そこには、右手に血まみれのフランベルジェを握り、αの返り血を浴びたクラウスが、力なく、けれど楽しそうに笑っていた。

「俺は疲れた。誰かが、俺に休めと言った。だから、ちょっと、休んで、いい、かな……?」

今にも消えそうな声で、そう言ったクラウス――上野歩真は、

その場に、倒れた。

「「「クラ!?」」」

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