僕は食事中、誰かといても食べる方に集中する方だが、彼女も同じらしく、ちらりと見ると黙々と食べている。
「何」
「いや、何も」
ないかもしれないし、あるかもしれない。でもその後は続けなかったし、最初から続けるつもりはなかった。話ならご飯の後でもいい。呑みに来ているのではないのだから。

外に出たついでに、空っぽの冷蔵庫の中身を補充しようとスーパーに寄った。この街には徒歩圏内にスーパーもコンビニもいくつかあるので、買うものによって店を選んでいるが、彼女もそれは同じらしい。
店を出てふと、彼女に夕ご飯を振舞おうと思った。料理の腕には、そこそこ自信がある。
「睦、良かったら僕のところで、夜、食べて帰らない?」
右側を歩いていた彼女は、驚いた顔でこっちを向いた。
「いいの?」
「僕はいいよ」
「じゃあ、よろしく」
「何か食べたいもの、ある?」
「そうだねえ……肉じゃがって、作れるかな」
期待を込めた目。僕はそれに、笑って答えた。
「もちろん」
午後1時。遅めのお昼を求める人や、僕達のように食後の散歩のルートとして寄ろうという人が多そうな時間帯。
まず地下の肉のコーナーに寄って、牛肉の切り落としを一パック。こんにゃく類のコーナーで、しらたきを一袋。他に彼女の希望で、餃子を一パック。
地上1階に戻ろうとすると、お酒はいいの、と声をかけられた。
「昨日の今日だよ。やめときなよ。僕も今日は休肝日にするからさ。ノンアルコールビールならストックあるし」
「なら、それでいいや」
カゴは彼女がもっていた。カゴを彼女が取った時、僕が持つと申し出たが、「昨日のお返しだ」と言ったからだ。
濃口醤油も切らしていたので、地上階でボトルで買った。
天気がいいので、スーパーの近くの公園に寄ろうかとも思ったが、生ものを持っているのでやめた。袋は家から持ってきていた、茶色のエコバッグ。それは僕が持った。
「ただいま」
「ただいま。あ、君も一人暮らしなのに挨拶するんだ」
「落ち着かなくてね」
肉としらたきを冷蔵庫に入れて、餃子はテーブルの上に、醤油は小瓶に詰め替えた。
「晩御飯、何時頃にする」
「僕は普段不規則だからねえ……7時頃でいいんじゃない」
「なら、そうするよ」
彼女は大きく欠伸をした。
「眠いの」
「食後は酷いんだよね。横になってもいいかな」
「いいよ」
布団は敷きっぱなしだった。パーカーを脱いで適当にたたんで潜り込まれた。その表情は、幸せそうなもので。
「あ、ごそごそしてても気にしないから。何してもいいよ」
「まあ、その辺りは適当にするよ」
僕は家では仕事を極力しない。休む時はしっかり休んでおかないと、倒れてしまうと知っているからだ。
一週間前に、近所の図書館で歴史小説を借りていた。その続きを、白いイヤホンでショパンを聴きながら読むことにした。



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