「……なんだ、夢か」
 今朝、彼女が死ぬ夢を見た。でもそれは、明らかに現実ではない。そう、彼女は生きたのだから。そして、今ここに、生きているのだから。
 軽井沢での『事件』から、二年が過ぎた。彼女の病気は良くなって、今は通院で経過観察をしている。
 そして僕達は今日、改めて「その日」を迎える。彼女の病気を理由に、僕達は式を挙げていなかったのだ。
 軽井沢のとあるホール。周りに集うのは、僕達の友人。お互いの親戚は、一人もいない。その中の何人かは、僕が自分の親戚を論破するとき、援護射撃をしてくれた。彼女に至っては、あの黒いおもちゃを突きつけたものだから、それは流石にヒヤヒヤしたけど。
 その後、僕は携帯電話の番号もアドレスも変えて、実家とは縁を切った。
 僕はタキシードで決めて、彼女が入ってくるのを待つ。
『それでは、新婦の入場です』
 司会の五条の声で、扉が開かれる――
 会場がどよめく。それもそのはず、彼女は、結婚式で通常女性が着るとされる、ウェディングドレスではなく、僕とお揃いのタキシードを着ていたから。
 僕は、彼女が女性らしい服装を嫌うことを知っていた。だから、お揃いのタキシードを式で着たい、と彼女に言われたときも、それが自然だと思って、その場で了承した。
――僕の親戚共が見たら、「女らしくない」とかと罵声を浴びせて騒いで、即座に縁切りさせるんだろうな……
 でも、僕達の晴れ舞台にふさわしくない、忌まわしき彼らはいないのだ。気にする必要は、一ミリもない。
 彼女は伏し目がちに、一人でレッドカーベッドを颯爽と歩く。そして、僕の目の前で、あの日のように、片足でひざまずいて、僕の手をとった。
「我が名は南道睦。裕樹、貴方を迎えにまいりました」


End.


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