尻尾の部品を組み立てて、胴体にのりでくっつける。そしてそこに、可愛い一匹の猫が現れた。まだ乾かない尻尾の部分が取れないように、ふんわりと押さえつけたままで、『紙の街』をさまようマスターにさりげなく声をかける。
「……できた」
「お。どれどれ」
建物を踏まないように街を抜けてくると、枕の上に鎮座して、彼女を見上げるような格好の猫と目を合わせる。それから、全体を見回して。
「いや、君、才能あるよ」
「才能とか、そういうのじゃなくて、誰でもやればできるんじゃ」
「きれいにできているかどうか、ってことだよ。初めて作ったにしては、上等じゃないの」
「そうかな」
「褒め言葉は素直に受け取っておきなよ」
また痛いところを突かれる。まだまだ、彼女に対してどこか素直になりきれない。信用はしているのだけれど。なんだ、僕も人のこと、言えないじゃないか。

彼女と紙の猫のくりくりした目に見送られて、スーパーへ出かける。彼女にはご飯を炊くことを頼んだ。
ハンバーグと白ご飯、それだけでは足りないから、野菜。朝はミニトマトを生で、お昼のパスタセットでは、生のレタスやピーマンを食べた。カット済みで炒めるだけの野菜炒めキットの売り場に行くと、もやしとニラのセットが目に入った。これにしよう。
それから、明日の朝ご飯のための、味噌汁。本当は作り置きしてもいいのだけれど、食べ切れなさそうなのが心配だ。卵も一パック。
明日、彼女は仕事、僕は休み。久しぶりの連休。そうだ、彼女のために弁当も作ろう。ひじき中心の煮物、今日の朝で切らしたソーセージ、ミニトマト。僕も食べたいから味付けのり。あ、彼女、弁当箱持ってるかな。無かったら僕のものを貸そう、僕の家も遠くない。
土曜日、夕暮れの椎名町。商店が並ぶ通りは、夕食の食材を買い求めたり、そろそろ家に帰ろうと自転車に乗る子供達でごった返す。公園では、まだ遊び足りないらしい小学生ぐらいの男の子達が、雲梯で遊んだり、バドミントンをしたりしていた。砂場近くのベンチでは、ベビーカーに子供を乗せる、母親であろう女性が三人。そのうちの一人は夫であろう男性を連れていて、また別の人はお腹が大きく、鞄にマタニティーマークをつけていた。それぞれに笑顔が見える。
――幸せそうだな。
結婚して、子供をもうける。今の時代、そんなことは当たり前ではないし、必ずそうしなければならない理由もない。僕もそうだ、別に妻も子供もいらないと、つい最近まで思っていた。
けれど、いざこの年で、もう一度恋をしてみて、側に大切な誰かがいること、「ただいま」と言うと「おかえり」と言ってくれる人がいることが、どんなに幸せなことか、やっと分かってきた気がする。
――できれば毎日、だなんて。ごはんだけじゃなくて、生活の、すべて。
彼女は確かに、僕の家に夕食を食べに来る。でもそれだけで、食べたら家に帰ってしまう。それはちょっと空しいし、さらに、彼女の家には、二人で寝られるベッドがある。頭の中に浮かぶ漢字二文字。それまでの時間にも、ふわっと浮かんでは消えた二文字が、今はその色を濃くして、脳裏から離れてくれない。それだけ、彼女への想いが強くなっていた。
思い切って、伝えてみようか。彼女のことだから、断る確率は低いだろう。断られたら、おとなしく引き下がって、今まで通りの生活をすればいい。


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