翌朝

いつもより少しだけ朝寝坊。朝のアラームは、今度は忘れないように切っておいた。
彼女の言っていた通り、本当に同じベッドで寝た。手を繋いできて、ずっとドキドキしていて、僕はなかなか眠れなかったが、彼女はさっさと寝落ちしてしまった。
――君、本当に、何者なのさ。
朝八時。もし、僕が先に起きたら、冷蔵庫にあるものを勝手に食べていいと言われていた。長い辺と短い辺が一辺ずつ、壁に接したベッド。僕が布団を抜け出しても、壁側にいる彼女は、反対側を向いたまま動かない。
――生きている、よね?
不安になって、呼吸を確かめたが大丈夫だった。でもこれから、心配性の僕は、ずっとこの人を心配しながら生きていくことになるのだ。
顔を洗って、着替えて、冷蔵庫を開ける。食パン、マーガリン、バター、卵、牛乳、ソーセージ、レトルトのハンバーグ……ハンバーグは朝から食べる気にはならない。そうだ、フレンチトーストでも作ろう。彼女の分も。ソーセージも焼いて。
食パンを半分に切って、大きめのお皿を出して、そこに牛乳を入れて、とりあえず僕が食べる分を浸す。卵と牛乳を混ぜてから浸すのが普通らしいけど、牛乳だけに先に浸しておくとおいしくなると聞いて、実際にそれがおいしいので、僕はその方法で作る。
それを待っている間に、卵に砂糖を入れてかき混ぜる。冷蔵庫の野菜室を開けると、ミニトマトがあったので、それを添えよう。水で洗って、ヘタを取る。
パンをひっくり返して、フライパンを出す。火に掛けて、ソーセージをイン。少しだけ水を入れて、水分が飛ぶまで。
それをお皿にあげると、引き戸が開く音がした。起きたか。
「おはよー」
「あ、おはよう」
「何か作ってんの」
「フレンチトーストとソーセージとミニトマト。作ってあげようか?」
「いいのか?」
「いいのいいの。君はゆっくりしてなよ、僕ができることはやるからさ」
「じゃ、甘えようかな」
「はいよ。パンは何枚?」
「一枚でいいよ」
何これ、幸せだ。まるで、同棲しているカップルみたいじゃないか。いや、確かに僕達カップルだけどさ、いい年した。そうだね、同棲、してもいいかな、……じゃなくて。
洗面所に行く彼女を見送って、パンを入れていた皿に、溶いた卵を入れる。もう一つ深いお皿を出して、牛乳を入れて、彼女のための食パンを浸ける。自分の分をひっくり返す。
浅い皿を二つ、ソーセージとミニトマトを盛る。フライパンを火にかけて、バターを溶かす。ある程度溶けたところで、自分の分のひたひたの食パンを投入。彼女の分はひっくり返して。甘い香り。焼いているのを裏返し。お腹が空いた。
この幸せの時間が、いつまで続くか分からない。少なくとも、この先数十年ずっと、という訳ではないのは、恐らく確か。奇跡でも起きれば別だけど。
昨日、眠れない布団の中で考えた。彼女に残された時間が、どれぐらいあるかは分からない。だったら、その時間を、心配することばかりだとは思うけれど、目一杯幸せにさせてやれば、それが僕にとっても、彼女にとっても、最善ではないかと思った。


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