プロローグ

僕の名前は、井上元気。
双子の姉ちゃんがいて、僕は弟だ。
普段は、第一中学校に通っている中学2年生。
でも本当は、暗殺組織「ブラッディ・ローズ」のボス、ゲール・ミルトリー――通り名は「リトル・ダンディー」――として、世界中を飛びまわっているんだ。

なんで中学生なのに、暗殺組織のボスであるのか、知りたい?
知りたかったら、僕の話を聞いてくれないかな。
ちょっと長いけど。


                  ◆ 


とても昔のことなんだけど、実は僕、イタリアのシチリア島の王子で、立派なお城に住んでいたんだ。
父のトードが王様で、姉ちゃんのユーミンが王女。
母は……僕と姉ちゃんがまだ赤ちゃんだった頃に死んでしまったらしい。

それはさておき、僕は城での平和な生活を楽しんでいた。
島も、平和……なはずだった。

ある日、島のある家で、火事が起きた。
今みたいに消防車なんてなかったから、火はあっという間に広がった。
何とか海水で火は消し止められ、怪我人もいなかったけど、焼け跡を調べていくうちに、とんでもないことが分かった。
その家は、なんとイタリア本土に住んでいる大富豪の別荘だった。
その大富豪はあまりにも有名で、本土で強い権力を持っていた。
自分の別荘が火事で焼けたと知った大富豪は、「誰かの陰謀ではないか」と言った。
その言葉は、いつしか島中、いや、国中に広まり、「シチリア島の王様の陰謀だ」と言う者も現れた。
シチリア島の王様ーー僕の父は否定したが、国民は全く聞く耳を持たなかった。




そして、あの日……






その日、朝食を食べ終えた僕は父に呼ばれて、彼の部屋に行った。
コンコン、とドアを叩くと、中から「お入りなさい」という声が聞こえた。
父の声だった。
「お邪魔します」そう言ってドアを開けて中に入り、父の座っている椅子に向かおうとした、


その時だった。


バリーン、と何かが割れる音。

その音の方向を向いた途端、銀色の物体が飛んできた。

僕は透かさずそれを避けようとした。

が、銀色の物体は僕の右目の下を掠った。

掠った場所には激痛が走り、思わず右手をそこに当てた。


当てた手に、何かが触れた。

その手に触れたものを見てみると、



それは、真っ赤な血だった。


ーーまさか。



僕は、銀色の物体が飛んでいった方向を恐る恐る向き、






それを見て、倒れてしまった。




僕が見たものは、


血を流してぐったりしている父と、



彼の胸に刺さっていた、





銀色のナイフだった。






意識を取り戻した時、僕は白い部屋の白いベッドに寝かされていた。
ナイフが掠った場所は、ガーゼで覆われているようだ。
そして僕の横には、看護婦と思われる女性が座っていた。
「大丈夫ですか?」
看護婦は僕に聞いた。
「……一応大丈夫です。でも、何が何だかよく分からなくて……」
僕はすっかり混乱してしまったので、このような返事しか出来なかった。
この発言に、看護婦は少し考えた後、こう言った。
「……そうですか。突然の出来事でしたからね。あ、それと、警察の方が話を聞きたいと言ってましたよ。あなたが唯一の目撃者ですから」
確かに、あの時父の部屋には、父と僕しか居なかった。
父が殺された今、事件のことを知っているのは僕だけだった。
「分かりました。覚えている限りのことは話せますので、その警察の方を呼んでください」
「はい」
看護婦は立ち上がると、部屋のドアを開け、廊下で待っていた警察官を部屋に入れた。


「初めまして」
僕は挨拶をし、ベッドから起き上がった。
「こちらこそ初めまして。私たちはシチリア警察の者です。あなたがゲール・ミルトリーさんですね?」
警察官が尋ねる。
「はい」
「では、知っていることを話してくれますか?」
「いいですよ」
僕は、事件の一部始終を話した。
「……ありがとうございました。葬式は明後日行うそうです。ちなみにあなたのお姉さんは、図書室にいたというアリバイがあるので、犯人ではありません。ご安心を」
姉ちゃんが犯人ではないと聞き、僕は少しほっとした。
だが、真犯人に対する怒りは収まっていなかった。
「また何かあれば伺うかもしれないので、その時はよろしくお願いします」
そう言って、警察官は部屋から出て行った。
その後、入れ替わるように誰か入ってきた。
「失礼します」
その声は、僕の姉ちゃん、ユーミンのものだった。
「二人にさせてもらえませんか」
姉ちゃんは看護婦に言った。
「構いませんよ」
看護婦は笑顔で言い、部屋を出ていった。


「大丈夫か?」
姉ちゃんは、少し男っぽい口調で言った。
まあ、男ばかりの家系に生まれたのでしょうがないと言えばしょうがないのだが。
「大丈夫さ。で、何で二人きりにしたの?」
「……話があるんだ」
姉ちゃんは、小さい声で話し始めた。
でもそれを聞いた途端、僕は立ち上がって反論した。
「おい、それは魔法では最大の禁忌だよ。やめた方がいいよ」
「いや、だめだ。これは緊急事態なんだ。奴らから逃れるためには、この方法しかない」
「本当に?仮に実行しても、成功する確率は低いんだぞ」
「それでも構わない。その低い確率に賭けるんだ」
姉ちゃんの話、それは「タイムトラベルをして大富豪から逃れる」という作戦だった。
これが出来れば、おそらく平和な世界に行けるだろう。
だが、これは出来ればの話である。
さっきの会話にもあったように、タイムトラベルは魔法では最大の禁忌とされている。
この言葉を知っているだろうか。


 現代にいる者は、過去を変えてはいけない。
 また同時に、未来を知ってはいけない。


このルールを破ることになるから、タイムトラベルは禁忌なのである。
仮に成功したとしても、確率はたったの5%。
残りの95%は……時の狭間に閉じ込められてしまい、生きては帰れないという。
姉ちゃんは、この5%に賭けると言っているのだ。
「僕たちの命がかかってるんだよ?ていうか、やり方知ってるの?」
「知らないと出来る訳ねーだろ。ほら、やるぞ」
「待て、お前まさかあの『禁書』を……」
「そんなことを言ってる暇はないんだ」
そう言って姉ちゃんは右手で僕の手を握った。
この時、姉ちゃんの右手の親指の付け根から手首にかけて、見知らぬ真っ直ぐな傷が走っているのに気づいたが、僕は傷の原因を聞くことが出来なかった。
そして左手で十字を切り、何か呟き、その後大きな声で言った。
「God, please watch it so that it is not shut in in the interval of time!」
それを言い終わった途端、僕たちの体は宙に浮き、辺りは真っ白になり、そして見知らぬ世界に辿り着いた。


そこには僕たち以外にも、知らない人が3人いた。
それも皆僕たちと同じぐらいの年のようだ。
そしてそこには、立派な服を着た男もいて、彼は椅子に座っていた。
彼は立ち上がり、胸ポケットから紙を取り出し、それを見て話し始めた。
「ゲール、ユーミン、リッキー、ローリー、そしてサム。私は魔法協会のボス、マリノです。君たちには、彼らと一緒に、日本で働いてもらいます」
リッキー、ローリー、サム。
聞きなれない名前だが、おそらく同い年ぐらいの3人の名前だろう。
すると、ドアが開いて、大人が何人か入ってきた。
僕たちは、大人のほうを向いた。
ーーあれが……「彼ら」?
大人達は横一列に並んだ。
「彼らは『ブラッディ・ローズ』という暗殺組織ですが、5年後にはあなた達に後を継いでもらいます。
そのときのボスを……ゲール・ミルトリー」
ボスは、僕の方を向いて言った。

                  ◆

あれから7年。
僕たちは大人達の後を継ぎ、2代目『ブラッディ・ローズ』となり、世界中を飛び回っている。
もちろん僕は組織のボス。
自分を入れて5人のメンバーをまとめるのは大変だが、それなりに楽しんでいる。

だが……。
僕の右目の下の傷と、姉ちゃんの右手の傷。
あれは今もなお残っている。
恐らく、一生消えることはないだろう。

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