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〜第1幕〜


時は流れ、八月上旬。
「ブラッディ・ローズ」の面々は、夏休みを謳歌していた。
といっても、普通の中学生のように、部活や海、プールなどで一日を終わらせたり、家族で旅行に行ったりするような休みの過ごし方ではなかった。
全員がミルトリーファミリーの本部に割り当てられた個室に泊り込み、部活のある者――ロタールやベルフなどはそれを優先し、残りの者は本部内に設けられたトレーニングルームで魔法の練習をしたり、実戦で経験を積んでいたりしていた。
もちろん、お互いにカタカナ語の名前で呼び合っていた。

ある日曜日の昼休み。
部活はどれも休みで、任務に出ている者もいないことから、九人揃って食堂で、しかも彼らのために用意された九人掛けの円形テーブルで昼食を摂っていた。
「昼間に九人揃うって久しぶりだね」
「そうだな。皆部活やら何やらで忙しかったからな」
「やっぱり、こんな時間が一番幸せ」
「どーかん」
「ほんま、こんな生活してたら、いかにこういう皆で集まれる時間が貴重か分かるわ」
バイキングで選んだ思い思いの料理を口に運びながら、中学生にしてはちょっとませた会話を繰り広げる。
だがそこに、明らかに中学生ではない人物がやってきた。
「おやおや、君達お揃いで」
そう言いながら、彼は隣り合って座っているゲールとユーミンの肩にその手を掛ける。
「ボス!」
「あ、お久しぶりです。席無くてすいません」
ユーミンが申し訳なさそうな表情をすると、マリノは笑った。
「いや、気にしなくていいよ。いきなり来たんだし。しかし、全員が揃っているだなんて、何てタイミングがいい」
「どうか、したのですか?」
サムがやや上目遣い気味に聞く。
「いや、君達、最近よく頑張ってくれているから、たまにはご褒美でもあげようと思ってね」
「え、いいんですか!?」
「そうですよ。自分なんて入ってから三ヶ月ぐらいしか経ってないのに」
ベルフとロタールが次々に突っ込み、ほかのメンバーも頷く。
「いいんだよ。折角の夏休みだ、まだ十代なのに、こんなところに籠ってばかりじゃ面白くないだろ? だからさ、どこか普段は行けないようなところに、日本国内限定だけど連れて行ってやる。ちょうど日本が大好きで、何回も日本に行ったことがあるって人を見つけてね。観光地なら大体分かるって言ってたが、どこか行ってみたいところってないか?」
「俺東京行きたい!」
「早いなローリー。いや、まあ、俺もやけど。京都とかは修学旅行で行くけど、東京までは中学では連れて行ってくれないし」
「公立なら尚更だし……」
「それな。私立だったら平気な顔して行く連中いるけど」
キャシーとノエルが続く。
「高校になったら行けるんじゃない? って言いたいところだけど、よく考えたら、俺達高校まで進学出来るかも怪しいな。学校に奴らが現れて――」
「リッキー、縁起でもないことを言うな。でも、その可能性も否定出来ないんだよな。今の状況考えると。行先は、北海道とか沖縄とかでもいいと僕は思うけど、やっぱ東京は最低限抑えておきたいなー、って。忙しくなる前に」
「ゲールに同意。この先どうなるか分からない状況で僕らはやってる。一応日本で、しかも田舎で過ごす時間が長い人間としては、死ぬまでに東京だけは見ておきたいな。――とか言って、東京に行くような方向で話が進んでいるけど、反対意見無い?」
ユーミンが全員に確認を取る。
が、誰も反応しない。
「じゃあ、東京行くんでええ? ええ人挙手」
全員が手を挙げた。
「よし。なら決まりだな」
「東京行きだね。なら、ガイドにそのように伝えておくよ」
「ガイド?」
「さっき言った日本大好き人間だ。ボラードだよ」

                              *

「ほんま、九人もいるのに、だいだいいつもよく衝突せずに何事も決まるな」
マリノが食堂から出て行った後、双子の姉弟はお互いの顔を近づける。
「確かに。『自分はその案と違ってこっちがいい!』って大声で主張する人なんてめったに出て来ない。でもいいじゃない? それでうまくやって来てるんだし」
「……怖くないんだ、お前は」
「え?」
「いや、何でもない」
ユーミンは何でもなかったかのように、再び料理に手をつけた。


                           ◆


午後二時 ルビーファミリー本部

「お邪魔しまーす!」
何の前触れもなく入ってきたやけにテンションの高い男に、中にいた別の男は落ち着いた様子を装って応対する。
「……おいおい、ノックせずに入るのは精神的にびっくりするから、たとえプライベートな用件でもやめてくれと言ってるだろ、カトゥーナ」
「すいません! 次から気をつけます、カバレロ隊長!」
「何だお前、今日様子おかしいぞ? どうしたんだ」
「いやー、ちょっといいことを思いつきましてね」
「いいこと?」
「あのですね、世間は休みですから、俺達も一週間ぐらい羽伸ばしに行くのも悪くないのではと思いまして」
「なるほど、そう言えばそうだな。てかその話なら敬語はいいだろ。あと座れ」
「そうする」
カトゥーナは、カバレロの事務机の横に置かれたソファに足を組んで座る。
カバレロも体をカトゥーナの方に向ける。
「で、どこに行くんだ」
「どこがいい? お前が行きたいところに連れて行く」
「俺が行きたいところか……。そうだな、トーキョーという街には行ったことがないな。何があるかもよく分かってないが」
「東京か。いいよ、俺は。俺も行ったことないし。じゃあ、中身考えとく」
「よろしく。……って、二人で行くのか!?」
立とうとしたカトゥーナに、カバレロは急に表情を変えて突っ込む。
「そうだよ? だって、他の人挟むのも何か悪いし。それとも嫌か?」
「いや、別に。勝手にしてくれ」
突っぱねるような態度に、カトゥーナはバレないように小さく笑った。


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