17


暗殺実行当日、午後3時半過ぎ。
元気達が住む街は、雨が降っていた。
そんな中、傘も差さずに走っている二人の少年がいた。

「ちくしょー、何で俺らがこんな目に……。ていうか洋一、今日天気予報で雨降るって言ってたか?」
「そんなの知らんし。……あれ?」
「どうした?」
「明、今何時だ?」
「えーっと、3時40分ぐらい?」
明と呼ばれた少年は、立ち止まって腕時計を見て答える。
それに合わせて、洋一も立ち止まる。
「何で疑問系? まあ、いいけど。で、俺らがあの店を出たのが3時半。走ったらもう家に着いてるはずなんだけど」
「そういやそうだな。……あれ? じゃあ、何で近くに俺らの家が見当たらないんだ?」
「……気づいた? 実は俺も、この風景に見覚えが全くないんだ」
「ということは、もしかして……」

「「俺ら、迷子……?」」

二人は顔を見合わせて、力なく笑った。


                            ◆


遡ること20分前。
二人はとある店で他の友達と遊んだ後、帰ろうとしていた。
だが、
「「雨、か……」」
でも彼らは、傘を持っていなかった。
近くに買えそうな店もない。
「どうする?」
「10分待とう、10分。その間に止むかもしれないし」
「分かった、そうしよう」

10分後。
「止むどころか、」
「……強くなってね?」
雨は止む様子を見せない。
「やったら、走って帰ろうか?」
「え、この雨の中を? 無理無理、そんなことしたら俺絶対風邪引くし」
「でも、このまま帰れないよりはマシやろ。どうせ明日も休みだし」
「……分かったよ。走って帰ろう」
「よし、だったら家まで競争や!」
「それは止めてくれ!」
先に行こうとする明を、洋一は慌てて追いかけた。

そしてさらに10分後、冒頭に戻る。


                           ◆


「……どうするんだよ、俺ら」
「……取り敢えず、どこか雨が当たらないところを探そう。そして助けを待つ。それしかないな」
二人はそこら辺を歩き回った。
そして、公園を見つけた。
「あの公園のベンチとかよくね? 他に良さそうなところないし」
「ほんとだ。そこに座って……助けが来なかったらどうしよう」
「あ……」
事実、迷子になってから今まで、車一台どころか歩いている人も見ていない。
「……まあ、その時は、その時だ」
彼らはベンチに腰を下ろした。


                          ◆


「優ちゃん、お皿洗っておきましたよ」
「ああ、梨花、ありがとう」
その頃の井上家では、三時のおやつを終え、それぞれ思い思いのことをして過ごしていた。
そんな時、窓際で俊が呟いた。
「雨、止まないな……」
「「えっ、雨!?」」
「あれ、二人とも気づいてなかった? 3〜40分前から降ってるよ」
「いや、全然。だったら、洗濯物取り込まないと……」
「もう取り込んだよ」
「「「えっ!?」」」
今度は三人とも驚き、声の聞こえた方を向いた。
元気がいた。
「お前、いつの間に?」
「いや、これはまずいなって思ってさ。それより、ちょっと来てくれ」
彼は二階に上がり、手招きした。
それに従い、三人も階段を上った。
「あれ、見て。あそこに誰かいる」
彼が窓の向こうのある一点を差した。
「あー……本当だ、誰かベンチに座ってる」
「二人、かな?」
「……」
梨花、俊が分かったことを口にするが、優子は一点を見つめたまま黙っている。
「姉ちゃん、どうしたの?」

「……あいつらだ!」
優子が思い出したように言った。

「「……へ?」」
「あいつらって、誰?」
三人は頭に疑問符を浮かべる。

「だからあいつらだって!えっと……思い出した、二人の清水だ、洋一と明だ!」
「洋一と明……、あ、いたいた、去年同じクラスだった人か!」
元気が納得した顔をする。
「知り合い?」
「うん。でも何でこんなところに?」
「迷子にでもなったんじゃない?」
「迷子か……そういえば、最近近くに新しい店が出来てたな。そこに行って、帰ろうとしたら雨が降って、それで走って帰ろうとしたら道に迷って、て感じかな」
「優子、勝手に分析するなよ……」
俊が気まずい表情をする。
「じゃ、ちょっと行ってくる」
元気が階段を降り始めた。
「行くって、どこに?」
「そりゃ決まってるよ、あそこの二人を連れてくる。このまま放っておくのも可哀想だから」
「いいけど……だったら、僕はお風呂を沸かしておくよ。どうも結構濡れてそうだからな。梨花と俊、悪いけどバスタオル持ってきて」
「「りょーかい」」
四人は目的の場所へ向かった。


                              ◆


「……っくしょん!」
明が思い切りくしゃみをした。
「大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫。でも……寒い」
「俺も。何か、雨に濡れて体力奪われていく感じがする……くしゅん!」
今度は洋一がくしゃみをした。
「お前こそ大丈夫か?」
「多分……あ」
「どうした?」
「誰か来た」
「本当や、誰だろ」
「知らんし。……でも見たことがあるような気がする」
「どっちだ!」
明は思わず突っ込んだ。
「見たことある!……でも名前が出てこない」

そう言っているうちに、相手は目の前に来ていた。

「久しぶり、お二人さん」

「えっと……誰だっけ、本当に名前が出てこない」
「ごめん、俺も名前が……」
「忘れたのかよ! ……井上元気だ」
「「ああ!! 思い出した!」」
二人は合点がいったようだ。
「で、何で君達はそこに? しかもずぶ濡れで」
「ああ、それは、」
「『最近近くに新しい店が出来て、そこに行って、帰ろうとしたら雨が降って、それで走って帰ろうとしたら道に迷った』?」
洋一の言葉を遮るように元気が言う。
「……百点だ」
「僕が考えたんじゃないけどね。まあ、僕ん家おいでよ。風呂沸かしてあるから」
「え! いいの?」
「いいんだいいんだ、困った人は放っておけないからね」
彼は笑顔を見せた。

「「……ありがとう!!」」
ーーこいつ、神様だ……!!

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