Do you know love? | ナノ




 愛、とは一体なんだろうか。愛に形は無い。匂いも無ければ、味だって無いのだ。愛というそれは姿がない。では、どうしたら、愛を感じる事ができるのだろうか。



Do you know love?




 愛している、と口にする事はとても簡単な事だ。息を吸って、あいしている、と口を動かし、喉を震わすだけなのだから。
 愛している、という言葉を、臨也は言われた記憶が無かった。親から愛している、と言われた事があるかは定かではなかったが、恋人である平和島静雄の口から「愛している」という言葉を聞いた事が無かった。


 時計の針が数字の六を差していた時。外は真っ暗で空には星が瞬いていた。臨也は自宅兼マンションを訪れた静雄を招き入れ、暖かなココアを出す。ソファに座る静雄の隣にりんご一個分の空間を空けて臨也も腰を下ろした。

「寒くなってきたね」
「そうだな」

 ナイフが五ミリしか刺さらない強靭な身体を持つ静雄はアツアツのココアすら普通の飲み物のように飲み干していく。うめえ、とだけ静雄は言った。
 愛している、と言えばそこに愛はあるのだろうか。
 臨也はそれだけをひたすらに考えていた。それだけで愛が生まれるのなら、簡単に口にしてやろう。だがそこに愛が生まれた、と誰かわかるのだろうか。結局答えが見つからず、静雄をこっそりと覗き見る。
 愛が無いとしたら。どうして静雄はここに居るのかを考える。高校から密やかに続いていた関係。数えればもう長い時間を共にしていた。喧嘩もするし、それは殴り合いのようなものだって多かった。だがそれでも一緒に居たのはどうしてだろうか。臨也は考える。ベッドを共にする理由はなんだろうか。答えはひとつである。好意を抱いているからだ。たとえ、そこに愛が無いとしても。

(愛を口にするのは、得意だ)

 愛されていない事も、もう慣れた。




 静雄はココアを飲みながら、隣に少し離れて座る臨也の様子を窺っていた。
 臨也は家訪れても文句を言う事も無い。自分の意見を口にする事はあるが、それは冷やかしであったり、怒りをわざと誘うような言動であったり、どれも本音の様には聞こえなかった。

(コイツは俺と一緒に居て、楽しいのか?)

 自分は口数の少ない方だと自覚している。話を広げるのがうまい訳でもなく、笑顔が多い方でもない。そんな自分と居て、何が楽しいのだろうか。だが、と静雄は思う。折原臨也が無意味に一緒に居るはずがない、と静雄もわかっているのだ。それは高校からの長い付き合いがそう物語っているのだ。
 リンゴ一個分空いたその隙間。それが埋まらないのはどうしてだろうか。臨也の仕草や態度。可愛いと思うところだって目が行く程には折原臨也という存在が好きだというのに、この隙間を埋める事ができない理由は、一体なんなのだろう。
 人を愛すとは一体なんなのだろうか。

(愛を口にするなんざ、できねえよ)

 愛を知らない事を、実感するのだ。






「アイシテル」

 テレビの音だけが響く部屋を震わせたのは、臨也の声だった。アイシテル、と機械的に繰り返す臨也は、膝を抱えソファの上で丸くなっていた。顔を埋め、シズちゃんアイシテル、と繰り返す。その声はとても弱弱しく、いつも聞いている「人間愛」を叫ぶ時とはまるで違った。
 目を見張った。物理的な意味ではなく、折原臨也が小さく見えたのだ。小さく震える子供のような。

「なに、泣いてんだよ」
「泣いてない」
「じゃあ泣きそうだろ、手前」
「根拠も無くそういった事を簡単に言わないでくれるかな」

 顔を上げている訳ではないので静雄は震える声だけで判断している。だがその声は泣いているといっても間違いではない程に震えていて、悲しい声をしていた。涙を実際流していなかったとしても、泣いているのと同じだ。

「おれ、俺さあ、しずちゃん」
「ああ」

 その声は一層震え、嗚咽すら含み始める。臨也がどうして泣き始めてしまったのか全く見当がつかない静雄は内心焦りながらも、必死に言葉をつむぐ臨也に耳を傾けた。

「愛されたい、なあ」

 胸を打つ、言葉だった。臨也は今静雄がどんな顔をしているのかと不安で胸が張り裂けそうであった。愛されたい、などと、今、愛されていないような言いぐさではないか。
だが臨也の思いとは裏腹に、静雄は愛されたいと言った臨也の姿に今まで積み上げてきた、積み上がってきていた折原臨也という形が崩れたような感覚に陥っていた。
 人間愛を語る口が、愛されたいと言ったのだ。
 愛を知らないからなんだ、なら一緒に覚えればいい、学べばいい。愛とは何か、恋とは、好意とは。

「俺も、手前を愛したい」

 びくっ、と小さな臨也の肩が揺れた。漸く上を向く黒の頭。やはり赤い瞳は一層赤くなっていた。

「俺も、手前を愛してえよ」

 俺を、愛してくれよ。
 赤い瞳が見開かれる。濡れた瞳につられ、静雄もまた涙の膜を張った。
 愛したい、愛されたい。そう思う事は普通の事で、当たり前の事なのだ。恋人で好意を抱いている相手ならば。

「臨也」

 りんご一個分のその隙間。もう、そんなものは障害ですらなかった。手を伸ばせば届く距離。指先から感じる体温はしっかりとそこにあって、存在を主張しているのだ。
 そっと真っ白な頬に触れる。涙こそ流れてはいないが、この冬の寒さだ。ひんやりとしたその頬を包む。

「ひでえ顔だな」
「シズちゃんも、人の事言えないけどね」

 すき、と口にするのは簡単だ。本当の恋は、愛は。きっと口に出した瞬間、胸の中を温めるものだ。
 貴方は愛を知っていますか。
 俺たちは二人で一緒に育んでいきます。


(20111203)

桃さまリクエスト!
「臨也が、ホントにシズちゃんは自分のことを愛してくれているのか不安になってしまう話」でした!
裏もいれようと思ったんですがどうも書けなくて…エロ無しとなってしまいました><。
遅くなってしまってすみません!リクエストありがとうございましたーー!




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