嫌よ嫌よも…? | ナノ



 否定の言葉を多用する人間が居る。嫌だ、無理だ、と否定の言葉ばかりを使う人間が、居る。だがそれは本当に嫌がっての言葉かという判断は容易である。それは、無理だと声をあげる相手の表情を見れば、一発でわかるのだ。
 手を握ろうと一瞬でも触れると、すぐに手を引かれる。頭を撫でようと手を伸ばすと叩き落とされる。名前を呼ぶと素っ気なく返事をされる。そんな態度をとられても、関係をやめないのは、相手の反応が、とても可愛らしいせいだ。

 池袋。サンシャイン通りに平和島静雄は居た。
人ごみの中で、黒い頭を見つける。小さな耳のような突起がついた、フードを被っているその人間。見慣れているその頭を掴んで、静雄は声をかけた。

「おい臨也」
「ぅわ! ちょ、掴まないでよ…!」

 ぱしん、と頭に置かれた手を叩き落とし臨也は静雄を鋭い瞳で睨む。だが静雄はニヤニヤと笑みを絶やさなかった。
 最近、折原臨也は犬耳フードのコート羽織っている。今まではただのファー付きコートだったのが、最近はずっとたれている小さな耳がついたコートなのだ。

「ちょっと、弄らないでよ形が崩れるだろ。シズちゃんの馬鹿力で」
「んな強く触ってねえって」

 静雄はフードについたその犬耳をこねくりまわす。何が楽しいのか、と臨也は頭を振って触るなと声をあげるが静雄がその小さな耳を触るのをやめないのだ。
 耳、といえば一番に思いつくのが、猫耳だろう。臨也の妹である舞流と九瑠璃はフードに猫耳がついているのを良く見かける。だが臨也は犬耳のフードなのだ。
 さあ、それはどうしてだろう。
 それは本当に単純で、簡単な理由なのだ。

「本当にシズちゃんって犬好きだよね」

 そう。静雄が犬好きだと知ったからだ。

「別に犬だから弄っている訳じゃねえよ」
「あっそ。もう触らないでよ。俺まだ仕事あるんだから」
「なあ、今日家行っていいか」
「…なんでよ」

 急いでいると言いながら、臨也は足を止めている。本当に嫌な訳ではないのだ。静雄は喉を鳴らしながら臨也のフードに触れる。まわりの人々が不思議そうに視線を集めていた。
 池袋最強と呼ばれる静雄と情報屋として有名な臨也が近くに居て戦争にならない事は珍しく、二人の仲を知っている人は少ないのだ。

「別に特に意味はねえよ。飯作ってやるから」
「…勝手に入っててよ。でも絶対部屋で煙草は吸わないよね」

 口を少し尖らせ、臨也は冷たく言い放つ。飯は何がいいかと問うと、また数拍置いて臨也は答えた。
 その表情は、満更でもないのだ。視線を泳がしていたり、口ごもったり。慌てた様子は、嫌がってのものではないのだ。顔を赤らめている時だってある。臨也自身がその表情をしている事には気が付いていないのだ。
(また顔赤けえでやんの)
 可愛い奴。と静雄は思う。
 高校の時には気が付かなかった。こうした関係になって、折原臨也の嫌だ≠ェ本当に嫌ではないのだと言う事を知った。本当に嫌な時は、臨也は力ずくで逃げ出そうとする。ナイフを振り上げて抵抗するはずなのだから。

「…なにニヤニヤしてるんだよ。気持ち悪い」

 これは本当に気持ち悪いと思っている時の声だ。

「うっせえよ、可愛くない奴」

 そういうと臨也は少し視線を落とす。こういった反応が可愛いのだ。少しの言葉で揺れ動く。これが裏で様々な事を企む折原臨也の姿だ。

「飯、作って待っててやるよ。変な仕事も大概にな」
「借金取りに言われなくないけどね」

 可愛い事などひとつも言わない。好き、だとか、愛している、だとか。そういった事は一切臨也は言わない。時折、本当に時々、たまにこっそりと口にする程度だ。
 だが、それだからこそ、普段聞かないからこそ時折聞く言葉が効くのだ。もともと好きだの愛しているだのと静雄に向かって、本当に好きな相手に言うような人間ではない。時折聞くからこそ、それが本当の言葉なのだと思うのだ。

(ホントは嫌じゃねえ癖に)

 素直じゃねえよな、とは言わない。言ったところで素直になる訳でもなく、静雄は臨也に素直になることを要求するつもりもない。静雄自身、素直でもないからだ。
 仕草は言動で、臨也から愛されている事がわかるだけで、ポケットの中に合鍵という形があるだけで、それは充分なのだ。

 嫌よ嫌よも、好きのうち。
 そうするに、そういう事なのだ。



(20111011)
ねこま様タイトルリクエスト
「嫌よ嫌よも…?」でした!
遅くなってしまってすみません><;
ツンデレというよりへそまがりな感じになってしまったのですが、如何だったでしょうか??
リクエストありがとうございました(^-^)

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -