すべてを捧げよう(前) | ナノ



※なんか昔な感じの世界での神サマ静雄と異端児臨也のパラレルです。




 ある場所に、神として崇められているものがあった。それは人の形をしているが人ではない。命の最期を知らない、人の形をした神様だった。強い力を持つその神は小さな村の森の中に大きな祠を構え、そこに祭られているのだ。

「臨也、お前は生贄として選ばれた。これはとても幸せな事なんだぞ」

 ひとりの男が臨也と呼ばれた少年に諭していた。
 四年に一度。その神に生贄として一人の人間を捧げなければならない決まりがあった。森の奥に生贄の人間を置き去りにし、神へと捧げられる。生贄となった人がどうなったのかを知る者は居ない。森はとても深く、夜になれば周りは暗闇に支配され目で確認する事はできないのだ。
 折原臨也はその生贄に選ばれた人間だった。彼に身内はおらず、曇りの無い真っ黒な髪に血のように赤い瞳が村の住人達から異形だと蔑まれ、異端児だと噂されていた。

「ようやくお前が人の役に立てるんだ。喜びなさい」

 男の言葉に臨也は、はい、とそれだけ答える。感情の込められていない声だ。男は臨也の態度が気に入らないのか舌打ちをすると、臨也の髪を力強く握った。

「ようやくお前からおさらばできて、この村は安心だな」

 気持ちの悪い目をしやがって。細められた目に臨也の表情が変わる事はなかった。








 身ぐるみをはがされ、着せられた服は女ものの正装、着物だった。鮮やかな色の着物を着せられ、目隠しをつけられ連れて行かれたのは木々が茂る森の奥。人の気配がしなくなったところで臨也は目隠しを外し、まわりを見渡した。

(なんの気配もない。暗くてよく見えない。神サマの姿だって誰も見た事がないじゃないか。神サマなんて居る訳がない。どうせ今まで生贄にされている人たちはここでのたれ死んだに決まってる)

 そうして自分もここで終わるのだ。
 臨也は足元すらよく見えない森の中で、ひとり佇んでいた。歩こうにもどっちに歩いていけばいいのかわからない。臨也は無表情のままに目的もなく、まっすぐに歩き始めた。
 寒くも、暑くもない。蟲の声だけが聞こえる。
 目を閉じてひたすらに歩く。葉を踏む音が異様に大きく聞こえた。歩きづらい着物姿で森を徘徊する。無心で歩きながらも、ふと臨也は思った。


「死ぬのかな」


 その声は誰の答えを得られる事もなく森の中で静かに消えてなくなった。











 人の気配がする。臨也がそう感じた時、自身が目を瞑っている事に気が付いた。そして柔らかな、布団のような感触。森の中で自身の最期を悟った瞬間から記憶が無い事を思い返し、臨也はゆっくりと目を開けた。

「気が付いたか」

 男の声がする。とても物静かな、今までかけられたような事が無い声だった。
 臨也は視線を横に流し、首をむけると、そこには青い羽織をきる一人の男が居た。男は縁側に座り煙管を吸っていたようで、少し煙の匂いが部屋に漂っている。男は髪色が煌めく金の色をしている。瞳も綺麗な銅の色をしていた。

(見た事の無い人…だな。外の人だろうか。髪がきれいな色をしている。…髪…?)

 身を起こしてから何も喋る事のない臨也に男は心配したように手を伸ばした。

「神、サマ…!」

 伸ばされた手を避けるように臨也は立ち上がる。引き攣った顔で臨也は男を見据え、肩を震わせた。
 村では見た事の無い人物。髪の色が日本人だとは思えない程に綺麗な色をしていて、自分は先ほどまで深い森の中にいたはずだ。そこまで考えたところで、目の前の男が神サマであるという答えにいきついた。
 神サマは本当に居たんだ、そうだ毎回こうやって森に来た生贄を家に招いて、それで―――。

「おい、大丈夫か」
「神サマ、だろ。神サマなんだろ、俺を食うのか、俺を殺すのか、俺を、」
「落ち着けって!」
「触るなッ!」

 伸ばされた手を叩くと、男の持っていた煙管が畳に落ちる。取り乱した様子の臨也に男は目を見開くが、その腕を掴み落ち着け! と再度声を上げた。

「俺は何もしない! いいから落ち着けよ!」

 まっすぐに見つめる男の瞳に偽りはない。臨也はその瞳を見据えて絶え絶えの息を整えた。

「貴方は、神サマじゃない、の」
「多分、お前の言う神なのかもしれない。けど、俺は手前に何かしようとは思ってない」
「…俺の村では、四年に一度生贄を捧げなければならない神サマが居る。あんたの事だろう…? 今までここに来た人たちを、どうした」
「今までここに来た人は、手前だけだ」
「嘘、だ…」
「嘘じゃない。人に会ったのは、久しぶりだ」

 嘘、だ、と臨也は震えた声で呟いた。みんな、やっぱり、死んだんだ。臨也は震えながら泣き崩れ、男はそんな臨也をそっと抱きしめた。

 男はずっと昔からここに住んでいる、名を静雄と言うらしい。いつからここに住んでいるのかはもう覚えていないほどに昔からここに住んでおり、人に会うのは数十年ぶりだと言った。

「落ち付いたか」
「おかげ様、で」

 静雄は臨也に茶を振舞い、良かった、と息をつく。落ちた煙管を拾い上げると、臨也の姿を見て言った。

「手前はその村の人間なのか」
「そうだよ。そこで、赤いこの瞳が気持ち悪いって言われて、蔑まれてきた。だからあの村を出られた事は嬉しかった。やっと自由になれたからね」

 ピンクの羽織を翻し臨也は言う。嬉しそうな口ぶりだが、表情はどこか寂しげで、静雄は目を伏せた。

「俺も同じだ。この力を恐れられて一人、この家に放り込まれた。それからもう何年もここから出てねえ。出たところで行くあてもないからな」

 ほら、一緒だろ? 静雄はニッと臨也にほほ笑み緊張を解そうとしていた。臨也もその意思をくんだのか、苦笑いを返す。村で恐れられていた神が静雄だと言うならば、こんな優しい神だと誰が知っているだろうか。
 助けてくれてありがとう、小声になりながらもはっきりと言うと、ああ、と静雄も穏やかな声で答えた。
 静雄があの森から助けてくれなければ、臨也は今頃野犬に食い殺されているか、餓死する末路だっただろう。ありがとう。溢れる思いと、涙を臨也はそっと流した。



(20110820)

続きます。
後編は裏ありのですのでご注意ください!
こっそり静雄は津軽っぽい恰好で、臨也があの画集にでてきたピンクの羽織の臨也さんだと思って頂ければ嬉しいです…!いや女性ものじゃなくなっちゃうけど…!





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