酸素欠乏症 | ナノ



※シズイザ前提 デリ+臨也






 カタカタ、と申し訳程度のキーボードを打つ音が響く。広い事務所の中でそれだけがやけに大きく聞こえる。震えるまつ毛に影が落ち、臨也は小さく息をついた。

「また、喧嘩でもしたんだ?」

 パソコンに向かう臨也にピンクのコードを翻し、デリックはそのデスクに腰をかける。大きな背中を見上げ臨也は目を細め、そっとキーボードに乗せた手を止めた。

「別にそういうわけじゃないよ」

 デリックは横目に臨也を盗み見て、否定の言葉を口にしつつもその瞳には深い悲しみが見えたのを見逃さなかった。

「静雄と、なんかあったんだろ? 臨也さんは静雄に関して嘘が下手だから」
「そうかな」
「自覚ないあたり、臨也さんは静雄にベタ惚れっと…」
「デリック、黙れ」

 鋭く言い放つとデリックは肩をすくめ、眉を吊り上げた。


 最近、静雄と臨也が会っていない事をデリックは知っていた。そして昨晩に臨也がたまらず電話をかけていた事も知っている。会いたいなど一言も言わなかったが臨也は静雄の姿に恋焦がれていたに違いない。静雄に電話をかけるなど、臨也にしては成長したなあと感心しながら携帯を片耳に押さえ仕事をこなす臨也を横目に見た。これで数日間の不機嫌なのも直るかと緩む頬を押さえていると、なんだよそれ! という声が事務所内に響いた。
 それから勢いよく携帯をソファに向かって投げたかと思うと、臨也はガタガタとキーボードを叩き始めた。それも数分ですぐに手は止まり、臨也は唇を噛み俯く。何をしたんだ静雄は、とデリックは溜息をついてその姿を見守りつつも世話が焼けるなあと眺めた。
 それから一晩が経っても、臨也の不機嫌な、悲しそうな態度は変わらずだったのだ。

「臨也さんも素直になってみたらどうよ」
「俺が素直なんて吐き気がすると思うんだけど」
「けど静雄も素直じゃねえしなあ」
「どうして俺が折れなきゃいけないの。俺から電話したのに。俺だって色々考えて、それで電話したのに。シズちゃんってば何も気にしてない風で、おかしいじゃないか。そんなのフェアじゃない。フェアなんかじゃない」

 悔しそうに臨也は顔を歪める。
 臨也自身も静雄とこんな状態になる事を望んでいる訳ではない。最近会えなかった事もあっただろう、仕事が重なりストレスが溜まっていたのもあっただろう。いろいろな原因が積み重なり臨也は特に反応が無い静雄に当たってしまったのだ。

「でも静雄もどうしようかって考えてんぞ?」
「考えてない可能性のほうが高い」
「じゃあ臨也はそれでいいのかよ」
「そうやってまた俺のせいにするの」

 臨也と話していていつも思う事がデリックにはあった。自身が静雄を元につくられたせいか、臨也といつも会話がうまくいかないのだ。仲直りをしろと直接言ったところでするような人間でない事はわかりきっているので言わない。だからこそ遠回しに言ったところで巧みな話術でどうも話がかみ合わないのだ。
 そこで思う事は、こんな奴とよく付き合っていられるな、という静雄への関心だった。自身でも面倒くさいと、少し苛立ちを覚えなくもない臨也の態度。静雄はデリックより気が短いというのに今の今まで付き合ってきたのだ。喧嘩も一度や二度ではない。それが今まで続いてきたのは、結局のところ相思相愛だからである。
 
「好きなんだから、仕方ねえーでしょ」
「なにそれ。嫌な理屈」
「好きじゃねえの? 臨也さんは静雄が好きでもないのに電話したのか?」
「君との会話は好きじゃない」
「酷くね?」

 ―――…どうせまた俺が折れる事になるでしょ。知ってるよ。
 どこか納得がいかないように臨也は視線を外して小さく呟いた。デリックは投げられ放置された携帯を手にとり、それを臨也に渡す。早く仲直りしろよ、と告げるとうるさいと赤い瞳が睨みつけてきた。




酸素欠乏症
(そこらの数少ない酸素よりもあなたの吐息を望みます)




(20110527)
あき様タイトルリクエスト
「酸素欠乏症/そこらの数少ない酸素よりもあなたの吐息を望みます」
大変遅くなってしまいましたが、如何だったでしょうか…!
シズイザ前提のデリ+臨のようなものになってしまったのですが…。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです!
このたびはリクエストありがとうございました!


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