君を愛するということ | ナノ



※静臨♀



 学校を出て、少し。多くの生徒が下校していく中で、臨美は少し前を歩く静雄の姿を伏せ目がちに盗み見た。大きな背中に揺れる金髪。向かうのは、静雄の家だった。
 今日、家に行ねえか?
 帰ろうと声をかけてきた静雄は臨美に頭を掻きながらそう伝えた。臨美は目を丸くして数秒固まり、そういう意味でとらえていいのかと思考を巡らせる。しばらくたっても返答を寄越さない臨美に、痺れを切らし来るよな?! と静雄は半ば自棄を起こしつつ叫んだ。そして臨美は視線を外しながら遠慮がちに頷いた。


 付き合い始め、もう半月ほどが経った。出合ってからは一年と半月ほど。所謂デートもして、キスもした。手だって繋ぐし抱き合いもする。だが、二人は未だ繋がった事はなかった。
 学校では未だ学校を巻き込んでの喧嘩をし、親友である新羅や門田達を困らせる日々。付き合っているならもっと恋人らしく振舞えと言われ続けて半月になるが、学校での静雄と臨美の態度が変わる事がなかった。
 変わるのは下校時だけだといっていい。一緒に帰ろうと言うのは静雄の場合もあれば臨美が声をかける時もあった。その時は休戦モードなのか喧嘩が始まることなく帰る事に手を繋いで帰る姿を目撃される事も度々ある。そこでは恋人のように寄り道をして帰り、休日の約束をとりつけたり。
 だが、家に行った事もなければ、そういう事に発展した事もなかった。


(これってやっぱりそういう事でいいんだよね? 男の家に行くってやっぱりそういう事だよね? あのシズちゃんが誘うんだもん、きっとそう…いやシズちゃんの事だから特に意味はないのかもしれない…なのそれ。彼女を家に呼んで何もないとかあり得るの? でもシズちゃんもどうせ童貞だよね…そこまで一気にいかないのかな、でも一気にっていっても今まで付き合ってきたしキス、も、した、し…。いや私も、しょ、処女だけ、ど、さ)


「おい」
「なっなに!」
「ちゃんと、ついてこいよ」


 さりげなく差し出された手にビキリと体を固める臨美に静雄は無理やりその手をとった。


(そんなに緊張すんじゃねえよ…調子狂うじゃねえか、くそっ)


 内心静雄自身も緊張しながら握った臨美の手の感触を噛みしめた。
 今日、家には誰も居ない。両親は今日から土日で小旅行。弟の幽は気を利かせてくれたのだ。こんなチャンスは滅多にない。覚悟を決めろ! と静雄は自身を奮い立たせた。










「おじゃましまーす…」
「誰もいねえから勝手に入っていいぞ」


 居ないんだ…と臨美は小さく呟き、ローファーを脱いで踵を合わせしっかりと揃える。いつもなら、こんな細かい事は絶対にしない臨美の行動に静雄もまた緊張が増す。二人しか居ない空間。それが逆に緊張を高め、ギクシャクした空気が流れた。
 静雄がそのまま自身の部屋に臨美を通し、適当に座らせる。どこかソワソワとしている臨美に飲み物を持ってくると言って静雄はリビングに向かった。


(シズちゃんの部屋…案外きれい…)


 見渡すように部屋の中に視線を向ける。
 小奇麗な机。ふわふわなベッド。本棚には意外にも本が並び、あの金髪の不良な見た目の静雄からは想像もできない。ふと視線を向けるとクローゼットに夏に向けて衣替えが行われ着なくなったブレザーがかかっているのが目にはいる。そっと手を伸ばした時、ガチャリと静雄が戻ってきた。


「なにしてんだ?」
「えっ! いやあ! なんでもないよ!」


 伸ばした手を素早く仕舞う。なんだか今日はどうも緊張してダメだ。臨美は調子が狂う、と体を縮こませた。すると静雄はその隣に座り、臨美は肩を揺らす。どうして隣に座るのだこの男は。自分でも驚くほどに緊張している事に驚きながら出させたジュースに手をつける事なくじっと自分の膝の上に握った拳を見つめ続けた。
 ちらり、と静雄は俯く臨美を見て逆に緊張が解けてきていた。自分以上に緊張している相手を見るとどうも冷めてくる。天使の輪が浮かぶ黒髪にそっと指をからめて、小さな頭を引き寄せた。


「今日、泊まってくだろ?」
「そっ、そのつもり、です…」


 いつもなら見ることが叶わない恋人の姿に静雄は隠れて笑った。
 可愛いやつ、とだけ言うと小さな拳が静雄の腹をえぐった。





(20110521)

山葵さまリクエスト「雰囲気甘めで新婚静臨♀の初夜」
初夜っぽくなくてすみません…!
なんだかベッドの上だと話が進まなくて…!!
大変遅くなりましたが、リクエストありがとうございました!
リテイク等受付てますのでよろしければ!
これからも当サイトをよろしくお願いいたしますーー!


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