眩しすぎて耐えきれず | ナノ




「じゃあ波江さん、あとよろしく」
「わかったわ」


 臨也は携帯を眺め口許を緩めると、波江は目を伏せた。鼻息交じりでパソコンをシャットダウンし、席を立つ。
 波江はいつもの黒いコートを手渡し、いってらっしゃい、と声をかけた。


「ああ、行ってくるよ。終わったら波江さんも帰っていいから」
「当たり前でしょ、帰るわ」


 するり、とコートを羽織りじゃあねと手を振る臨也の行く先は池袋だ。

 先ほどプライベート用携帯が鳴り響き、煮詰まっていた仕事を投げ捨て携帯画面に張り付いていた。
 波江は呆れながら大量の資料をデスクの上に置き、逃がさないとばかりその大量の紙を見せ付ければ臨也は小さく舌打ちを溢す。
 諦めたように目の色の変えて仕事に打ち込み始めた。
 やれるなら早くやりなさいよ、と波江は悪態をつきながらも仕事をこなしていく臨也にそっとコーヒーをだした。



 臨也は『今日は会えるか』と連絡がきた静雄に2時間待って、と返信をして必死に仕事を終わらせた。
 静雄と逢うのは本当に久しぶりだったのだ。
 臨也の仕事が溜まり、電話やメールのやりとりの日々。ようやく会えるこのチャンスを逃すまいと臨也は躍起になって仕事に打ち込んだ。


 マンションを出て、携帯の時計を一瞥し手配していたタクシーに飛び乗る。
 だが静雄に会えるのにはかなり後になる事を、今の臨也は知らない。








 池袋駅前。
 おつりはいらないからと数枚の札を取り出し運転手に差しだし池袋の地を踏む。
 携帯を見て時間を確認すると、待ち合わせ時間より早く着いていた。良かった、と胸をなでおろした時、聞きなれた、だが極力聞きたくなかった声を臨也は聞いてしまった。


「あー! 臨兄だあっ!」
「…逢…」
「なんで居るんだ…、」


 振り向けば猫耳のついたフードを被る、臨也もよく知る少女―――妹である満面の笑みを浮かべた舞流と相変わらず無表情の九瑠璃がそこにいた。
 妹といえど苦手としている臨也は顔をしかめつつ妹の頭を撫でる。


「何しに来た」
「ひどーい臨兄! 可愛い妹が可愛いお兄ちゃんを見つけたから駆け寄っただけじゃん!」
「………かわ、いい?」
「…肯…」
「うんうん!」


 可愛いだと?
 何を血迷った事を。ついに頭がおかしくなったのでわないか、と一歩身を引いた時、舞流はニタリと笑うと臨也の後ろに回り込んだ。


「えいっ!」
「―…っうわ!」


 舞流がぴょんっと跳び跳ね楽しそうな声、臨也の目の前は一瞬暗闇と化した。
 反射的に前のめりになり、フードを被せられたのかと思うと九瑠璃の小さな微笑みが覗いた。


「臨兄、犬耳コート!」
「…愛…」
「きゃーっ! 臨兄可愛いー!」
「…はあ?! なに、して…って、え」


 ばっ、と頭を抱えてみるといつものコートだと思っていたそれは、小さな犬耳がついたコートだった。


(なっ、波江の奴…!)


 いってらっしゃいと声をかけながら、このコートを渡してきた波江の姿を思い出す。
 嵌められた!
 わざとらしくキャーキャー、と声を上げる舞流と無表情ながらに携帯を取りだし写真を取る九瑠璃は波江から連絡を受け池袋で待っていたのだ。


「ほらぉ! ワンッて言ってみてよ臨兄ぃ〜!」
「お前ら、ふざけるのも、」

「キャァア! イザイザが!イザイザが犬になってる! 獣化?! 獣化なの?!」


 ああ、うるさいのが増えた。
 頭が痛くなるのを感じながら臨也は視線を向けると門田と良く共に居る――狩沢が目を輝かせていた。
 まわりの人がざわめきたつ程の大声で狩沢はイザイザと狩沢しか呼ばない名前を叫びながら凄まじい速さで臨也の前に現れた。


「なになになに?! イザイザ可愛い! イザイザ可愛いじゃない!」
「…凄…愛…」
「ねっ! 可愛いよね!」
「かっ、可愛くない! なんなんだよっ」


 狩沢のまわりには門田や遊馬崎、渡草等は見えない。ひとりで池袋に買い物に来ていたのか、両手には大きな紙袋が握られていた。
 どこからか狩沢はデジカメを取りだし、九瑠璃の携帯の写真を撮る音と共にそこは撮影会と化していた。


「ちょっ、ちょっとやめてって! 撮るな!」
「イザイザ顔赤くない?! それも可愛い!」
「えー! 臨兄照れてるのー?」
「…照…」
「照れてないっ!」


 どうしてこうなった!
 叫びだしそうになるのをこらえ、ハッと静雄との約束を思い出す。
 こんな事をしてる場合じゃないんだ、とフードを取っ払い携帯を取り出した時、不機嫌そうなテノールが響いた。


「………臨也」


 時計は、待ち合わせ時刻をとっくに過ぎていた。
 ごめん! と声をかけようと顔を上げると、静雄は眉間にシワを寄せそのまま臨也の肩を取ると片手で自身の胸板に押し付けた。


「悪いな、先約だ」


 狩沢は声にならない悲鳴を上げながらプルプルと震え、舞流と九瑠璃は満足したようにじゃーねー静雄さーん! 幽平さんによろしくー! と声をあげていた。


 静雄は臨也の肩を抱きながら、無言で50階通りへ向かう。
 丁度見えない静雄の表情に、臨也は怒らせたのかと不安を抱き痛いぐらいに掴まれた肩に悲鳴をあげた。


「シズちゃ、腕、痛い!」
「………手前よー、」
「な、なに。―…っわ!」

 静雄は突然足を止め、肩からも手を離すと舞流のようにフードを被せてきた。
 咄嗟の事で臨也は声を洩らすと、そのまま頭を乱雑に掻きむしられる。わっ! わっ! とされるがままでいるがセーブされた力に、怒られている訳ではないのかと、臨也は内心ほっとしていた。
 だが、はあ、と大きくため息をつかれ、心臓を鷲掴みされたように息が詰まった。


「んな格好、他の奴等に見せんなよ」


 フードを引っ張られ、静雄は小さな犬耳を触るとそのまま臨也の身体を抱き締める。


「可愛い。」


 予想外の言葉。
 久しぶりに会ってのその台詞は、臨也の顔を赤く染めるには充分すぎる爆弾だった。


眩しすぎて耐えきれず



(20110317)

桜さまリクエスト「シズイザ前提で沙樹ちゃんや波江さん、狩沢さんなど女性陣に臨也がかわいがられていて静雄が嫉妬する」でした!

嫉妬要素が薄い感じで…そして女性陣が少なくてすみません…!
波江さんは彼氏にぞっこんなのにイラッとしたんだそうです。キリッ
リテイクはいつでもお受けいたしますので><
更新を楽しみにしてくださっているという事で、本当にありがとうございます嬉しいです^///^
リクエスト、ありがとうございました!



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