奏でるシェリーのくちびる | ナノ




奏でるシェリーのくちびる



 ホワイトデーは沢山の花を貰った。
 お返しに何が良いかわからなくて、お前の目みたいな綺麗な花があったから。
 静雄はしれっとそう言って津軽と共に大きな花束を渡しにきたのだ。サイケはピンクを基調をした花束に目を輝かせいつものように満面の笑みを返していた。

 臨也は貰った花束を花瓶に挿し、毎日水を変える。少しでも保つようにとネットで検索をかけたほどだ。
 そう、ホワイトデーは終わりを告げ恋人のイベントというイベントは暫く無いはずだった。サイケの花にも手直しを加え、よし、と息をついた時。


「いざや!」


 とてとて、と可愛らしい擬音がつきそうな足取りでサイケは臨也の元に駆け寄り視界いっぱいにある雑誌の見開きを見せた。


「サイケはプリンがつくりたい!」


 恋人のイベントというイベントは暫く無いはずだった。津軽から貰ったホワイトデーのお返しをしたいと言い出すまでは。
 少し日本語の使い方を間違えているサイケに指摘するのを忘れ呆気にとられた臨也だったが、真剣なピンクの瞳に諦めたように頷いた。
 サイケのピンクの瞳は喜びに染まった。




「それでこれ、な」
「そ。俺とサイケの手作りだよ」
「美味しい。サイケ」
「ほんと?」


 本当。と言う津軽は抱きつきながら喜びを表現する。反動でヘッドフォンのコードが舞った。
 静雄が、これ、というは小さなコップに作られたプリンだった。

 サイケは作りたいと言いながら雑誌にあるレシピを臨也に見せたが自分では何もわからず臨也に頼りきり。だが津軽に食べさせてあげたい一心で慣れない料理に一生懸命だった。
 静雄と津軽はプリンが好物である。良く臨也は良い店のプリンを買って静雄達に振る舞っていたのを知っていたサイケは、花に感動したお礼をしたかったのだとプリンが出来上がり大半を臨也に作って貰った事に罪悪感を感じたのか、俯きながら最後に小さくごめんなさい、とつけて言った。
 謝る事なんてないよ、と優しく頭を撫でるとサイケは表情を明るくし臨也の頬に軽くキスをした。

 4人はソファーに座り、手作りプリンを食べた。
 なめらかなそのプリンをひとすくい。
 ぱくりとひとくち食べれば、静雄はおお、と小さく声をあげた。


「うめぇな。」
「しずお! 本当!」
「ああ、美味いよ。すげぇなサイケ」
「ふふー! よかったあ! ね、良かったね、いざや」


 臨也の隣に座るサイケは臨也の肩に身を寄せ腕に抱きついた。答えるように頭を撫でると気持ちいいのか、んー…と小さな声が洩れる。
 臨也も作ったプリンをひとくち含めば、甘みが口いっぱいに広がる。なめらかな舌触りが丁度良く、上出来だとサイケの問いに上機嫌に答えた。


「当たり前でしょ? 俺が手伝ったんだから」
「前に食べたパンプキンプリンも美味しかった。臨也さんは料理が美味いな」
「まあ、独り暮らしみたいなものだからね。このぐらいわ」


 ふふ、と微笑みながら臨也はまたひとくち、またひとくちとプリンを口に運んでいく。
 予想以上の出来に自分自身に合格点を与えつつ完食を迎えた。


「ごちそーさん」
「ご馳走様でした」
「いただきました!」
「お粗末様でした」


 空のコップに刺さったスプーン。みんなのコップをサイケはお片付け! と言いながら回収しキッチンへ運んでいった。作る作業を臨也に大半任せてしまった。だから片付けはサイケがやるの、と大丈夫だからと制止をかけた臨也に言った。
 流石に空のコップだ。ガラスだが重さも軽減されている。転ぶ事も無いだろうとは思うが、津軽はそんなサイケの後ろを見守るようについて行き一緒にキッチンへ立った。
 ジャー、と水が流れる音を聞きながらサイケも津軽も静雄も喜んでくれたようで良かった、と臨也は笑う。


「今度は津軽が好きな抹茶のプリンにしようか」
「じゃあ苺のも作れ」
「イチゴ? いいねえ」
「またプリンつくりたい!」


 臨也は前回から他の人に手料理をふるまう喜びを知ったようだ。鼻歌でも聞こえてきそうな程に機嫌が良い臨也は赤い瞳を細める。
 サイケもまた津軽に喜んで欲しいのか、嬉しそうに声をあげた。


「またお花ちょうだいね」


 そしたら作ってあげる。
 お前が望むなら、と静雄はその頭を撫でた。




(20110317)

匿名さまリクエスト「静臨+津サイでほのぼの」でした!
内容は結構好き勝手にしてしまって…短編の「ああ、愛しいと喉が鳴る」の4人になってます^^
プリンネタが大好きな管理人です!
リクエストありがとうございました!


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