仮初なんてものではなくて、2 | ナノ



※津軽×臨也・裏注意・後編です



「津軽…抱きしめて…」


臨也ははりつめた声を洩らし玄関を抜けるとそのまま津軽の胸の中に沈んだ。腕の中にすっぽりと収まる臨也を抱き締めると、小さく肩が震え始め嗚咽が混じる。


「臨也。」
「…ズ、ちゃ、…しずちゃん…!」
「臨也…。」
「…はは…気持ち悪い…って、さ…、」
「いざ、」

「――…好き、」


シズちゃん、好きだよ、と臨也は壊れた人形のように何度も何度も紡いだ。窓から注ぐ茜色の夕日が2人を包む。津軽は背中に手を回し、臨也、と静雄と同じ音色で呼ぶと臨也の涙で滲んだ赤い瞳が揺れ津軽の青い瞳を射抜いた。


「つが、――…ん、」


開かれた唇を貪るように噛み付く。舌を絡め翻弄すれば、合間に洩れる声は鼻にかかった甘いものだった。


「“静雄”でいい。」
「…え、」
「“静雄”だと思えばいい。」
「つが、…んッ」
「“静雄”」
「しず…ふ、ぁ…ん、しずちゃ、…っ…」


連続して呼ばれる名前に胸が痛い。アンドロイドである津軽に心など存在していない。だがいつの間にか芽生えた恋慕という感情に、津軽は困惑していた。どうしようもない感情だという事もわかっていた。津軽はとても頭の良いアンドロイドだ。だが、だからこそ理解したくなかった。譲歩などしたくはなかった。
自身を静雄だと偽り、臨也を抱きたいと思う程に津軽は臨也に恋をしていたのだ。

息をつく暇を与えない程に激しく唇を重ねる。苦しいのか瞳に溜まった涙がぽろりと零れたのを見計らい津軽は唇を離した。は、は、と切れる息。だが頬は高揚し悦びを表していた。
津軽はほっと息をつき、崩れそうな腰を抱くと臨也も力強く津軽の背に腕を伸ばし羽織を握った。
津軽が首筋にキスを落とし、耳元で臨也、と呼ぼうと口を開いた時。


「…シズちゃ、…シよ…」


遮るように呼ばれた名前に張り裂けそうなぐらいに胸が痛んだ。









「ひ、…んぁ…あっ」


ベッドに行くことも間々ならずに臨也はソファに手をかけ、津軽は突き出された腰を引いた。ぐちゅ、と卑猥な音をたて腰をグラインドさせると、ひ、と臨也の声が洩れる。シズちゃん、と臨也が喘ぐのにあわせ津軽は律動を早めた。


「ぁあッ! ん、…しず、ひぃあ! 」
「臨也…!」


すでに中に出された精液と腸液が混じり、太ももを汚す。部屋の暗がりの中。後ろから犯されている臨也に津軽の声は平和島静雄として変換されているのであろう。津軽が臨也の名を呼ぶ度に中をきゅうきゅうと締め付ける臨也の肉壁に、津軽は張り裂ける胸の痛みを律動に変えた。
もっと激しくしてほしいとせがむ臨也を無視し、津軽はゆっくりと、だが奥を突き上げるピストン運動を繰り返す。暗がりのリビングにはぐちゃぐちゃと一定のリズムを刻む水音と、臨也の甘い喘ぎ声が大きく響いた。


「んぁあ! も、出る…、」
「臨、や…、!」

――――…好きだ…!


今にも泣きそうな震えた声で想いを告げた津軽に、ひゅ、と息を飲む音と共に、強い締りが襲う。


「ふ、ぁ、…あ、ゃああ―――…ッ!!」


甲高い悲鳴に近い声を上げ、臨也は背を弓なりにしならせ精液を放った。ぱたぱたっと床に零れるそれと同時に臨也は膝をつき、ソファの背もたれに身をあずけた。閉じられた瞼は動かず、津軽は臨也に触れていた手を見やる。


(俺、は、つがる…?)


着物も羽織さえ乱れしまっている自分は、平和島静雄と何も変わらない。身体つきも、声も、髪の毛も、すべて。「津軽」という名前でしか自身を判断する要素は無い。


「…臨也…、」


疲れ気を失っている臨也をそっと抱きしめる。抱いていたのは俺なのだというように津軽はしっかりと抱きしめ、何度も名前を呼んだ。好きだ、と何度も言えば静雄としてではなく津軽としてみてくれるのではないかと小さな願いを、込めて。











「なんで、あんな事言ったの。」


臨也が目覚めての第一声はそれだった。
けだるそうに臨也は身体を起こし、着替えられている自身を見て顔を歪ませる。臨也の機嫌が悪いのは誰が見ても一目瞭然だった。
あれから津軽は臨也を風呂場に連れて行き、身体を綺麗にし新しい服を着せた。その間、何度も胸が張り裂けそうで泣いてしまいそうだったのを臨也は知らない。寝室に運び、津軽は臨也の傍を離れようとはしなかった。ベッドに腰をついて、ずっと津軽は臨也の傍に留まり続けた。
それは、抱いてしまった罪悪感かそれとも。


「あんな事、」
「好き、だなんて。…そんな感情をインストールした覚えは無いよ。」
「…された覚えもないな。」
「じゃあ、そうゆうプレイだった訳。俺が喜ぶと思った? 津軽はいつだって俺に優しいからねえ。可哀想だと思った? 馬鹿な事をしたもんだよ、君も。俺も。感情に流されるなんて、俺もまだまだだって…、」

「じゃあ、教えてくれ。」


なにを。と言う言葉を飲み込む。
津軽の真っ青な瞳が深みを増して、臨也を見据えていたからだ。


「これは、恋じゃないのか。臨也を見ると、抱きしめたくて、頼ってくれるのが嬉しくて、笑顔が見たいと思って、傷ついてほしくないと思う。これはなんだ。―――…教えてくれよ。」
「つが、」
「お前が、俺にこんな感情をインストールしたんじゃないのか? 静雄に愛されているようにしたくて、」
「違うッ!」
「じゃあ! じゃあ、俺は、臨也が好きだ…!」


ふるふると肩を震わせながら、津軽はシーツを強く握る。俯いてしまい、見えない表情に臨也は息をするのを忘れていた。


「津軽…抱きしめて…」


俺は、なんて酷い事をしていたんだろう。
津軽の優しさに漬け込んで、なんて残酷な事をしていたんだろうか。


「“静雄”だと思えばいい。」


津軽は、わかっていて俺と付き合ってきたのか。
臨也は鼻の奥がツン、と痛むのを感じ、あ、と思うより早く一筋の涙が頬を伝っていた。

津軽がその涙に気づき目を見開き、咄嗟に寝室から出て行こうとするのに。


「津軽!」


臨也は声を上げて制止をかけた。





「…ありがとう、」





大きく身体を震わせ振り向く事を躊躇していると、臨也は津軽、と小さな声で呼んだ。
つがる、津軽、津軽、と何度も繰り返される自身の名前に目をぐっと瞑った。涙を流すことができるなら、きっと今がその時だ。

そっと振り向くとみっともない顔で涙を流す臨也の顔が映る。臨也は津軽と目が合うと、くしゃりと顔を歪ませた。


「俺、シズちゃんの事、…諦めようかなあ、」
「…どうして、」
「津軽が居たから今まで大丈夫だっただけで、限界、だよ。」
「俺の、せいか…?」
「違う。」


――――…君のおかげだよ。

ぽたりとシーツに一粒の涙が零れ、跡をつくる。臨也は膝を抱え、嗚咽を殺しはじめた。そんな臨也の肩を抱き、津軽は優しく抱きしめる。


「臨也、好きだ。」


そうして涙で濡れた頬にキスをして、流れるように唇に落とす。
合間に聞こえた名前は、津軽。はっきりとそう紡がれていた。







「津軽、…抱きしめてくれる…?」


仮初なんてものではなくて、



(20110207)

さえ様リクエスト「切裏→甘/津軽→臨也(→静雄)で最終的に津軽×臨也。本気で臨也が好きな津軽と、静雄が好きな臨也。静雄は臨也が大嫌いでそれに傷ついた臨也を津軽が慰めてあげる。臨也今までの津軽のさり気ない優しさとその理由に気付いて最終的にはハッピーエンド!」でした!

遅くなってしまいすみませんでした…!
全体的にシリアス調になってしまったんですが、大丈夫だったでしょうか><
リテイクは365日お受けいたしますのでもっと甘くしろよゴラァ!等ありましたらなんなりと承ります!
私自身、津臨が大好きで初書きでしたが楽しく書かせていただきました!
リクエストありがとうございました!


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -