炊き込みご飯 | ナノ




炊き込みご飯



「ぅわ、なにこれ!」


臨也は出されたほかほかのご飯がのった茶碗に歓声をあげた。何度か目を瞬かせると、大きな瞳が向かいに座る静雄を射抜く。


「何って、炊き込みご飯だろ。」
「シズちゃんにそんな芸当があったなんて…、」
「じゃあ食うな。」
「うそうそ! ごめん!」


朝の日差しが眩しい、そんな時間に臨也は静雄の自宅のチャイムを鳴らした。眠たい目を擦りながら静雄は扉を開けると笑顔の臨也に大きなため息をつきながら中に招きいれたのだ。

臨也がこうして電撃訪問してくるのは今にこした事ではなく、ここ最近続いていた。それは数日前に嫌がらせの一環として早朝にピンポンダッシュを決めた臨也の首ねっこを掴み家の中に引きずり込んだ事がきっかけだった。手前はくだらねえ事してんじゃねえ! と吠えた静雄にお腹空いたと反省の色を全く見せない臨也の言葉になぜか朝食を作ってやってしまった事から臨也は毎日のように静雄に朝食を作らせていた。
静雄も文句を垂れながら毎日違うメニューを作り臨也に提供する。臨也は嫌がらせの一環だというが、白米を頬張るその顔に嫌な感じを静雄は感じていなかった。

今日が炊き込みご飯だったのはただの偶然だ。昨日、スーパーで炊き込みご飯の素が安かっただけのこと。ただ混ぜるだけで一風変わったものができるのだから使わない手はない、と静雄は考えただけなのだ。
臨也は何が珍しいのか目を輝かせ、いつの間にか静雄の家にある臨也専用の箸を持った。


「いっただきまー…、って、」
「あ?」
「…、……これ。」
「食えよ。」
「やだ。」
「可愛こぶんな、きめえ。」


臨也が苦虫を噛み潰したような顔で箸を器用に使い拾い上げたそれは、オレンジ色の小さな―――にんじん、だった。
むしゃむしゃと食べ始める静雄を前に臨也は箸をとめる。
にんじんは、臨也の苦手な食べ物であった。どんなに小さくカットされていても舌は味を拾ってしまう。鼻をつまんで食うか、と臨也は意を決してみるがオレンジ色の物体を視界に捉えただけでその決意が揺らいでしまう。
クッと喉を鳴らす静雄の笑い声が聞こえ臨也はそちらを睨むと静雄は何事も無かったかのようにまたおかずに箸を伸ばし頬張っていく。


(むかつく…!)

「ほら、残すなよ。」
「わかってる、」
「…人参が食えないならウサギにでもなったつもりで頑張れよ。今年は卯年だしな。」
「死ねシズちゃん。」
「手前が死ね。」


気晴らしにおかずをつつきながら人参をよけご飯を頬張っていく。ああ、普通に美味しい。臨也は感動してるとやはり視界にちらつくオレンジ色に舌打ちをするとまた小さく笑われてしまう。視線を向けると今度は静雄はまじまじと少し口元を緩ませながら臨也の行動を観察していた。


(いやこれは人参だけ綺麗に残すことによってシズちゃんへの嫌がらせとするか? そうだ、洗うときに嫌な気分になるだろう、だって人参だし。なんでオレンジ色してるんだよとかこのよくわかんない味とか本当に耐えられないというか! よし、食べない! そうだよシズちゃんの言いなりになってるほうがおかしいんだ、そうそう、よし、食べな―――…、)


「臨也。」
「なに、うるさ―――ぁむ。」


茶碗に向かって百面相していると、唐突に呼ばれた名前に不機嫌はまま顔を上げた。すると、口に向かって何かをずいと差し出され反射的に口に含んでしまった。え、と思うより早くに喉を通ってしまったそれに臨也が固まっていると静雄は美味かったか? と微笑しながら聞いてくる。

自分は今誰の箸であのオレンジ色の物体を食べたのかを知り、ぱくぱくと口を開閉させた。


食べさせられたその人参の味を覚えている訳もなく、
味なんて感じなかった。


「…信じられない。」


臨也は小さく呟いて、赤い顔を隠した。



(20110203)

もも様タイトルリクエスト「炊き込みご飯」
嫌がらせとかいいながら結構静雄のご飯が気に入ってる臨也と面倒くさいと思いながらも臨也に食ってもらうのも悪くないと思ってる静雄書きたくなりました…。

すごく自己満話かつ短めなお話になってしまいましたがリクエストありがとうございました!

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