甘いものはお好き? | ナノ




今日は遅くなる、
そんな短文メールを受け取り、臨也はふむ、とそのメールを眺めた。


(食材買っちゃったんだけど…、)


このメールは飲みに行くから遅くなる、の意味なのかただ単純に仕事関連で遅くなるだけなのか。飲みに行くのであれば晩御飯は必要ない事になるが…、と考え臨也は握りしめるビニール袋を見た。先ほどスーパーで晩御飯の食材を買ってしまったのだ。まあ冷蔵庫に入れてさえおけば使えない訳ではないか、と前向きに考え、わかったとだけ返信すると寒さに肩を震わせながら静雄の家に急いだ。

貰った合鍵で中に入り、小さなストーブを点ける。早くは暖まらないそれの前にしゃがみ込み手を擦り合わせはーっと息を吐いた。
晩御飯を作るか否かを考えたが自らの腹がくぅ、と小さく悲鳴を上げたので問答無用で作る事にし、立ち上がる。

静雄が帰ってきたのは、ほかほかと湯気を出していい感じに鍋ができあがった頃だった。




甘いものはお好き?




「うわ、シズちゃんお酒臭ッ…!」
「あー…、臨也ぁ?」


ドアを凄まじい勢いで開けた静雄はガタガタッと雪崩れ込むようにして玄関を上がった。覚束無い足取りに臨也は焦ったように肩を貸そうとした時、ぶわっとお酒の放つ独特な臭いが鼻についた。
やっぱり飲んできたのか、と臨也はできた鍋は大半が無駄になるなあ、とため息を溢しながらそのまま静雄を寝室に送ろうと足を向ける。静雄はかなり酔っているのか、よくわからないうめき声を上げながら空いている右手をぐるぐると振り回していた。

ほら、寝なよ、と静雄をベッドに投げそのまま自分は鍋を一人でゆっくりつつこう、と部屋を出ようとした瞬間いきなり腕を引かれそのまま同じベッドに倒れ込んでしまった。後ろから抱き締められるような形。咄嗟の事で非難の声を上げるのが遅れた臨也は、臨也を抱きながら眠りにつこうとしている静雄を叩き起こして離れるように訴えた。


「ちょっと! 止めてよ酒臭いし暑苦しいし、俺はまだご飯食べてないの!」
「うあー…眠い…、」
「ンな事、聞いてないッ!」


一緒に寝るんだ、と言わんばかりに静雄はぎゅうぎゅうと臨也を抱きしめ離さない。いい加減にしろ! と臨也は腹の前で繋がれた手を剥がそうと全力で引っ張るがびくともしない。本当に酔っ払っているのかと疑いたい程に強い力だった。

くそ! と悪態をつきながらも臨也は諦めず抵抗を続けていると、首筋に静雄の髪の毛が触り背中がゾワリとした。


「ちょ、っと! くすぐったい…!」
「ぁ…なんか…良い匂いすんな…、」
「鍋、だよ! 肉だんごいっぱい入ってる鍋!」
「違ぇ…あー…、なんか手前良い匂いする…、」

(お前は犬か…!)


臨也は背中でもぞもぞと動き回り、うなじの辺りに鼻を這わせるその感覚に肩を震わせながらも止めろと訴え続けた。酔っている静雄が聞き入れてくれるとは到底思えないが、抵抗を見せないのも勘にさわる。

ガスを切った後で良かったなあ、と既に諦めモードに入った臨也は早めに静雄が眠りに入る事を祈った。眠った後に脱け出せばいい、と考えていると、うなじに今度はざりっとした肌触りのものが這った。


「やだ、何舐めてんだ…!」
「いい匂いすっからよぉー…舐めたら甘いかなって思ったんだー…、」
「馬鹿だろ、アホだろ、頭イカれてるだろ! もう早く寝ろ! もしくは離せ!」
「…手前、…なんで甘いんだぁ?」

(甘いわけねえだろ!)


そんな事があってたまるか!
24にもなる大人の男の首筋が甘い訳がない。やはり酔っている男は面倒だ! 臨也は今すぐにでも助けて、と叫びそうになるが力では敵わない。勝てるものは口喧嘩だが今の相手にはそれもきかない。今の臨也はされるがままに静雄の腕の中で時が過ぎるのを待つ事しかできなかった。

大きな抵抗を見せないのに気をよくしたのか、酔っているからなのかはわからないが静雄のセクハラともとれる行動はエスカレートしていく。匂いを嗅いだかと思えば舐め始め、今度は耳たぶを甘噛みし始めたのだ。さすがにこの行為には嫌だと頭を振って抵抗するが、静雄は遠慮なく露になる右耳を責め立てた。


「ちょっと、シズ、ッ! やめてってば! 噛むな!」
「…あめぇ…」
「そんな訳ない! いいから早く寝てよ! もう!」
「手前、…何でできてんだよ…砂糖か…?」
「馬鹿じゃないの…!」


噛まれ舐められる耳を塞いでセクハラ行為にただ耐える。そろそろ色々な物が限界だと臨也は目をぐっと閉じた時、窮屈だった拘束が解かれ背中から温もりが消えた。やっと寝たか、と息をついて瞬きをひとつ。
次に目を開けた時には、目の前に静雄の顔があった。


「………ふえ、?」


いつの間にかマウンドポジションを取られていた。
ぼんやりとした茶色い瞳は臨也を見据え、あー、と短く声を発する。


「わかんねぇけど、…臨也が好きってことはわかった…。」


わかんねえよ! と叫びそうになるが、へにゃ、と笑われ臨也はぐ、と言葉を飲み込む。大型犬のように見える恋人に苦笑いを返すと静雄はまた、へにゃりと笑った。そしてそのまま、あろうことか臨也の上に被さるようにして、
――……倒れた。


「…………え、シズちゃん?」


被さるようにして倒れてしまった静雄の身体を揺するが反応が無い。気づけば耳元からすー、すー、という寝息が聞こえてきたのだった。


「シズちゃん…? 寝ちゃった? 嘘でしょ? 冗談だよね? 嘘! く、苦しいんだけど…!」


背中をドンドンと力を込めて叩いても反応が無い。自身より身体が大きい静雄を動かせる筈もなく。
臨也は耳元で穏やかな寝息を立てる金髪を軽く叩いた。


「…もう勘弁してよ…、」


臨也、と時折寝言を言う静雄に呆れたように、ばか、と囁きかける。
くぅ、と切なく鳴るお腹を宥めて共に眠りについた。

当然の如く酒の力で何も覚えていない静雄は、散々と臨也にこき使われる事となるのはまた別のお話――……。



(20110201)

匿名希望さまリクエスト「臨也がなにで出来ているのか確かめようと、ひたすら噛んだり舐めたり匂い嗅いだりひっくり返したりする静雄。」でした!
子犬のような瞳の静雄にウザヤを翻弄させ隊、とありましたので翻弄させてみたのですが如何だったでしょうか…?
酔っぱらいネタは個人的に凄く好きだったので取り入れてしまったのですが…静雄はビール嫌いな事はスルーです(笑)
静雄好きとしてなんだか可愛らしい静雄が書けて幸せでした…! 比例して臨也さんも乙女ちっくですが、少しでもお気に召して頂けるような作品であればと思います。

リクエストありがとうございました!


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