1月28日(金)・当日 | ナノ




もぞ、と静雄は背を丸め額に触れるシーツの感触にゆっくりと瞼を持ち上げる。ぼーっとする頭で柔らかなシーツを見つめた。


(臨也ン家だな…いつ来たっけか……、)


昨日は確かトムらに飲み会に誘われ苦いビールを避け甘いカクテルを飲んでいたら、いつの間にか大量に飲んでいたのか頭がぐらんぐらんと揺れていたのは微かに覚えていた。
飲む前に今日は家に行く、と臨也に連絡していた事を思い出し、酔いを冷ますのも兼ねて新宿まで歩いて行ったはずだ。合鍵でロックを解除し、玄関で臨也を見たところまで、静雄は記憶していた。
だが、どうやってベットまで来たのかを全く覚えていなかった。
臨也が運んでこれる距離ではないし、寝室に行くには階段を上らなくてはならない。どうしたっけかな、と頭を掻きながら起き上がる。幸い二日酔いの症状は無く、頭が痛む様子も無かった。頑丈な身体といっても中身までがそうだとは限らないが、今回は何事も無かったようだ。

シーツをばさりと取れば、いつもなら隣ですやすやと寝ている臨也の姿が無いことに気がついた。
いつも静雄が先に目を覚まし食事の準備をするのが臨也の家に訪れた時の静雄の仕事だったのにも関わらず、シーツはひんやりと冷たく、ずいぶん前に臨也がベッドから抜け出してしまったのがわかる。
なんだが寂しく思いながら冷たい床を歩き、ふぁ、と小さく欠伸をして寝室のドアノブを握った。



1月28日(金)・当日



すっと下の階から見えた黒の後ろ髪に、臨也、と声をかけようとした瞬間、ぱたぱたとその隣に同じ黒髪が揺れたのが見えた。その姿は見間違えるはずもない、実の弟である幽の姿だった。
は? と呆けていると、ぱたりとタイミング良く振り向き上を見上げた赤い瞳と視線が交わる。

その赤い瞳の目じりが下がり、口元がゆっくりと弧を描いた。



「誕生日おめでとう、シズちゃん。」



そうして優しく優しく、笑った。

静雄がその笑顔に釘付けになっていると、幽もまたおめでとう、と言葉を紡いだ。するとぞろぞろと死角になっていた下から見知った顔が現れてくる。


「……っ…、」


門田、新羅、セルティや茜、帝人、杏里、舞琉や九瑠璃までの姿もあった。


「ほら、なに突っ立ってるわけ? 主役は君だよ、シズちゃん。」


――…ほら、早くおいでよ。
伸ばされた腕におぼつかない足で、階段を下りていく。未だ夢の中にいるようなふわふわとした感覚。最後の段を下って床に足をつけば、机にはたくさんの料理が並び、鮮やかに飾られていた。
セルティと杏里にエプロンがつけられている。あの料理は女性陣の手作りなのだろうか。

静雄が目を瞬かせていると、臨也がそっと手をあげた。
すると皆、背に隠してあったクラッカーを取り出し、一斉に紐を引いた。


「ハッピーバースデイ!!」


パパンパンッと軽い音が連続して響き、鮮やかなカラーテープが舞った。

たくさんの笑顔と愛に満ちたその瞬間に、静雄は微かだったが茶色い瞳に涙の膜を浮かべ、小さくサンキュ、とだけ呟き下を向いてしまった。

すっげ、嬉しいもんだな、皆に祝われるのって。

そう呟き泣きそうな、嬉しそうななんとも難しい表情の静雄に門田がジュースの入ったコップを手渡し、臨也の企画した誕生日パーティは華やかな開始を迎えた。







気づけば、時計は夕刻を指していた。
今までどんちゃん騒ぎで続けられた静雄の誕生日会と銘打った飲み会(もちろん帝人、杏里と茜はソフトドリンクである)は新羅のそろそろおいとましようか、の台詞でお開きとなった。
明日は土曜日で休日ではあるが、平日の今日を無理してきたのだ、明日に振り替えとなっても仕方が無いのかもしれない。
静雄はひとりひとりに感謝の言葉を述べ、玄関まで見送る。じゃあね静雄おにいちゃん! と腰に抱きついてくる茜の髪を撫で、見送った。セルティは最後まで誕生日オおめでとう、と何度もPADを見せた。
友人達の優しさに心が温まるのを感じ、静雄は閉められてしまう扉を少し残念に思う。


だが、


「俺からの誕生日プレゼント、どうだった?」


後ろを振り向けば、臨也の姿がある。たくさんの贈られたプレゼントがある。
美味しいプリン、上品なスーツ、可愛いストラップにブローチなんてものも貰った。
こんなにも大勢に祝われたのは初めてだ、と呟くとそっか、と笑いながら臨也は言った。
にこにこと自分の誕生日でもないが臨也はどこか楽しそうで、静雄は俺のために企画してくれたことに愛おしさがこみ上げていた。


「手前、ホント、」
「? なに?」
「可愛い奴。」


ぎゅーっとその小さな肩を抱き寄せ、包み込む。
黒髪に鼻をつけて、そのさらさらな髪に触れた。腕の中でもがく臨也を離さないとでもいうように強く抱きしめれば、諦めたように抵抗の色が見えなくなった。

「シズちゃんさあ、何か欲しいものない?」

あの時から臨也は策略していたのかと思えば、池袋でトムに会っていた事も頷ける。昨日の飲みもトムなりの誕生日会だったのだろう。

ああ、なんて愛しいのだろう。
ぎゅ、と強く抱きしめ静雄は臨也の名前を口にする。

臨也、




「一緒に住んでくれ、」





ポロリと簡単に静雄の口から紡がれたその言葉に、臨也は赤い瞳を大きく見開き、そっと静雄の表情を見上げた。
恥ずかしそうに視線を逸らす静雄の反応に臨也はハハッと声を上げて笑い、額を静雄の胸板に押し付けた。―…そっと寄り添うように。



「シズちゃんの欲張り。」


――…結婚、しよっか。
冗談のように聞こえるその言葉に、2人は愛していると囁いた。



……Happy Brith Day !!
生まれてきてくれてありがとう




(20110128)

静雄と臨也。

これにて「君のための1週間」は終了です!
臨也さんが静雄のために誕生日会を開くお話でした。
予想以上に甘くて相思相愛で夫婦なシズイザとなって私がびっくりしているのですが、いかがだったでしょうか…!
静雄に「一緒に住んでくれ」って言わせたかった感がありますが、気のせいではありませんw
連載ではシリアス真っ只中だたので、誕生日ぐらいは幸せな雰囲気なシズイザが書きたくてこういった作品となりました。
本気で全年齢対象なので唇にキスすらしない(笑)
仲良しエッチなシーンはご要望があれば…。

サイトが一歳になっての初作品、これからも、臨也の誕生日も何か企画できたらいいなあとおもいます!
ここまでお付き合いいただきありがとうございました!

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