1月27日(木) | ナノ




「一応聞こうか。……何しに来た。」


臨也はソファに腰掛け、腕を組む。鋭い視線を“彼女たち”に向けると、冷たくそう言い放った。
彼女たちは手を繋ぎながら向かいのソファに腰をつき、ひとりは至極楽しそうにニコニコと笑い、もうひとりは無表情ながらも瞳の色がどこか笑っているよに見え、臨也は背中に嫌な汗が伝うのを感じていた。


「もっちろん! 静雄さんの誕生日について、協力してあげようと思ったんだよ! 臨兄!」
「…肯……」
「頼んでないだろ!」


臨也の実の妹である舞流と九瑠璃は昼ごろに突如臨也の自宅マンションへ押しかけてきた。
エントランスから騒がしい舞琉の声が響き、げんなりしていた臨也は無視を決め込もうとしたのだが、このドアぶち壊してもいいのー? 臨兄ー! という女とは思えない言動にヒクリと口元を引きつらせた臨也は、妹達ならやりかねない、とエントランスの鍵を解除したのだった。
おしとやかな制服とは裏腹に、どたどたと足を鳴らしてリビングにあがり我が物顔で「臨兄ジュース!」と言ったこの常識のない妹。見ているこっちが恥ずかしくなる体操服にブルマという格好の九瑠璃は逆に物静かに「…久……」と簡単な挨拶を口にしていた。対照的なこの双子の妹達を臨也は実の妹だが苦手としていた。

臨也は深いため息をつき、舞琉が伸ばした手の先にあるオレンジジュース(先ほどコンビニに買いに行った)を指差し、それを飲んだら出て行くように促した。


「えー! そんなん来た意味ないじゃん!」
「…否……」
「そりゃ呼んでないからな!」


臨也は騒がしく何をしでかすかわからない妹達が苦手だった。
ねえねえ静雄さんとは最近どう? えっちした? えっちした? と満面の笑み、かつニヤニヤとした嫌らしい顔で身を乗り出して臨也に迫る舞流。良いから帰れ、仕事の邪魔だ、と吐き捨てようとした時、ピロリロリンッと軽い電子音が部屋に響き、臨也の携帯にメールが届いた事を知らせた。

「あー臨兄にやにやしてるー! 相手は静雄さんかあ…」
「…嬉…」
「ね! 臨兄嬉しそう!」
「…うるさいよ、お前等。」


確かにメールの相手は静雄だった。そして反射的に口元が緩んでしまったのも事実のため、妹達に強く言い返せない臨也は小声で訴えた。


「幽平さんも協力してるんでしょ? じゃあ私たちも協力する!」
「…肯…」
「頼んでない望んでない求めてない! 今日はシズちゃんが帰ってくるってから、早く君たちは帰りなさい。」
「私たちはお邪魔だってー、クル姉。」
「そういう意味じゃ…!」
「…好…」
「ね! 臨兄は静雄さんがだぁいすきだもんね!!」


からかわれているのは百も承知だったが顔に熱が集まっていくのがわかる。だから苦手なのだ、と臨也は胸の中で吐き捨てながら妹たちの首根っこを掴み家の外につまみ出した。



1月27日(木)



嵐のように現れ、去った、厳密に言えば追い出した妹達の対応にどっと疲れが溢れ、臨也は暫くデスクにつきネットサーフィンを楽しんでいた。
今日明日共に臨也の仕事は無い。情報屋という仕事は誰かが情報を欲しない限り存在の意味を持たないのだ。安定しない職ではあるが、臨也はこれを趣味と一貫としてやっているため気にしてはいない。

暫くの間ネットサーフィンを楽しんでいると、気付けば外から入ってきていた日差しは無くなり、部屋全体が暗がりになっていた。気付いた臨也は一段階明かりを強くし、何時間前かに淹れ無くなったコーヒーを再度注ごうと席をたつ。ぱたぱたと、うさぎのスリッパを鳴らしてキッチンへ向かうと、タイミング良く玄関が開いた。


「あ、シズちゃんお帰――…わッ!!」


金髪がゆらりと揺れたかと思った矢先、静雄はそのまま臨也に寄り掛かる形で倒れ込んでしまった。咄嗟の事で持っていたコップを落としてしまい、割れる事は無かったがゴトリと鈍い音が響いた。


「いざ、やー、」
「ちょ、と! シズちゃんお酒臭いよ…酔ってるだろ…、」
「んー、いざやー、」


臨也より10センチは大きい静雄を臨也が支えるのは難しい話で、臨也はずるずると床に座り込んでしまう。静雄は苦手なお酒を飲んだせいか頬を赤くさせ臨也の首筋から頬にかけてに顔をすりつけ、舌ったらずに臨也の名前を呼び続けた。


(おっきい犬みたい…、)


四肢を投げ出しながら、未だ玄関で静雄は崩れたままだ。飽きずに臨也、臨也と呼び続ける静雄に臨也は呆れて息をつくが、いとおしそうに金髪を撫でる。


「シズちゃん、明日は休みになったから泊まりに来たんでしょ?」
「んー…、」
「寝るならベッドで寝ようよ。取り敢えず離してくれない?」
「………いやだ、」


中途半端に会話が成立しているなあ、と臨也は諦めがちに会話を続ける。ここで静雄が寝入ってしまった場合、静雄より一回り以上小さな臨也が静雄を寝室まで運べるはずもなく、だがしっかりとホールドされている腰を離してもらわない限りは臨也も一夜を玄関で過ごさなくてはならなくなる。
明日が静雄の誕生日だというのに、その主役と企画人が風邪で欠席だなんて笑えない冗談だ! 臨也はぐぐっと静雄の頭を押し退けようとするが微動だにしない。


「シズちゃん、じゃあ水をとらせてよ。飲みたいでしょ?」
「あー…、のみ、てえ…、」
「じゃあ離してって…聞いてないだろ。」


あー、だのうー、だのよくわからない擬音語を静雄は繰り返し、勘弁してくれ、と臨也は内心で愚痴を溢した。


「……明日、誕生日だね、シズちゃん。」
「あー…」
「ふふ、楽しみにしててよ。」
「いざやー、いざやー、」
「はいはい、なぁにシズちゃーん。」


……………1日前



(20110127)

双子と臨也、臨也と静雄

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