1月25日(火) | ナノ





「やあやあドタチン!」


黒のロングコートを翻し、臨也はまた池袋の街に来ていた。ワゴンに寄り掛かり本を広げていた門田は臨也の陽気な声に視線をあげる。その名で呼ぶなよな、と思いながらも、おう、と答えるように手をあげた。



1月25日(火)



「お前等、変わったな。」
「そうかな?」


臨也は今までと同じように静雄の誕生日はどうするかと問いかけた。門田は暫く呆けていたが門田もまた臨也と静雄の関係を知っている人間、なんとなく状況を理解し反射的に臨也の黒髪を撫でていた。


「これで、喧嘩もやめればな。一番良いんだけどな。」
「それは無理かな。シズちゃんとの喧嘩はなくちゃだめ。」
「…わからん。」
「で? ドタチンはどうする訳?」
「あーそうだなあ…」


改めて聞かれると困るもんだなあ、と頭を悩ませていると陰る視界。顔を上げて臨也の後ろに立つその顔に門田はヒクリと顔を強ばらせた。


「臨也ァ!」
「ぅわあッ!」


ぐいっ、とファーが付いたフードを引かれ喉が絞まり声がひきつった。臨也は聞き覚えのある声におそるおそる顔を向けると、そこには青筋を浮かべた静雄が仁王立ちしていた。サァと血の気が引いて真っ青になる臨也はとっさに袖からナイフを取り出し静雄の茶色い瞳を目掛けて一閃した。


「…ぅお!」
「……チッ!」


勢い良く切り裂いたつもりだったが静雄は身を引き瞳より少し下をかする程度に終わった。だが咄嗟のことで静雄は持っていたフードを離してしまう。臨也は大きく的が外れてしまった事に悔しそうに舌打ちしたが自由になった事に不敵に笑った。ぐっと地面を蹴って走り出す。


「じゃあドタチン! よろしく!」
「待ちやがれ臨也ッ!」
「おっ、おい!」


臨也は門田に手を振り、ドスの利いた声をきかせる静雄を振り切り池袋の町に消えた。
残された門田はやれやれといった調子で息をつき、静雄の誕生日プレゼントを考え始めた。







ビルとビルの間を抜け、パルクールで壁を走る。肌をきる風は冷たいながらも、上がる息は熱を持っていた。
そろそろ撒けたか、と漸く臨也は足を止める。はあ、はあ、と荒い息を整えようと深呼吸をひとつついた。やんなっちゃうなあ、シズちゃんってば…、と言いながらも髪を掻きあげる臨也はどこか楽しそうだった。


(ドタチンには後でちゃんと連絡するとして、今日は帰ろうかなあー。)


まだ近くに静雄が居るかもしれない。臭いでわかるなど臨也には全く理解できなかったが静雄は確かにどこからともなく現れる。困ったなあ、と言いながらも今日の目的は果たされたのだ。もう無駄な体力は使いたくない。臨也は携帯を弄りながら静雄に出くわさないように池袋駅を目指す事にしたのだった。

するとその時、タタタッと足音が近付いてくるのに気が付いた。軽い音から静雄ではないだろう。携帯から視線を外して後ろを不意に振り返れば、腰の辺りに軽い衝撃と暖かな温もりが生まれた。


「臨也お兄ちゃん!」


ぽすりと腰に抱き着いた短い黒髪少女、茜はキラキラした大きな瞳を臨也に向ける。茜ちゃん、と驚いたように臨也は声をあげたがその瞳ににこりと笑みを返して茜と同じ目線までしゃがみこみ黒髪を撫でた。


「今日も静雄お兄ちゃんと遊んでたの?」
「そうだよ。今日はおいかけっこをしたんだ。」
「おいかけっこいいなー!」


口が割けても今度は一緒にやろうね、とは言えず臨也は苦笑いを溢す。悪気の無い子供の言葉はとても難しいものだ。

気持ち良さそうに髪を撫でられている茜の穏やかな表情。茜も静雄と仲が良かった事を思いだし、臨也は静雄の誕生日の事を聞いてみた。何かあげたいものはある? そう聞くと、茜はえっとねえ…と瞳を伏せた。


「あ! 前に静雄お兄ちゃんの髪の色と同じいろをした石をみつけたの!」
「へえ、それはきれいだろうねえ。」
「うん! すっごいきれい! だからそれをあげたいな。」


茜の満面の笑み。釣られるように臨也も微笑み、きっと喜んでくれるよ、と言えば茜は声を上げて笑った。


「じゃあ茜ちゃんも決定。」


今日もまた折原臨也の計画は進んでいくのである。


…………3日前


(20110124)

門田と茜と臨也。


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