1月23日(日) | ナノ




ふと意識が浮上して、ゆっくりと瞼を上げれば大きな胸板に抱かれていた。
シズちゃんだ、とぼんやりとした意識の中で考えながら額をその胸板に沈め再度眠りについた。


1月23日(日)


臨也が次に目を覚ますと隣に静雄の姿は無かった。ひやりと肌をすべる冷気に身を震わせ、もそりと起き上がる。露出した足が肌寒いが布団から這い出て欠伸をひとつ。
瞳に溜まった涙を拭い、階段を下ると高校時代のジャージを着た静雄の姿があった。


「やっと起きたか、寝ぼすけ野郎。」
「んーおはよ、シズちゃん。朝ごはん食べたい。」


ジャージの上にあの黒いエプロンを纏う静雄はやれやれといった調子で持っていた菜箸を握り直した。静雄は慣れた手つきで片手で卵を割り、部屋には香ばしい良い匂いが満ちていく。
臨也はダイニングテーブルに向かい、定位置の席についた。足をぶらふらと揺らし暇を持て余していると、とハッと重要な事を思い出す。


(結局シズちゃんの誕生日何するか考えてない……!)


あと5日しか無い! とサァと青ざめる。どうしよう、どうしよう、と視線を泳がしていると、不意に静雄の声が響いた。


「おい、」


静雄は目玉焼きとブロッコリーを乗せたお皿をテーブルに置いた。突然投げ掛けられた声に無意識にビクッと肩を震わせてしまった臨也だったが、静雄は特に怪しむことなくお茶碗を手渡した。ありがと。そう言ってほかほかと湯気がたつ白いご飯を見ていると、ふっ、と小さく静雄の笑い声が降ってきた。


「? なに笑ってんの?」
「…手前、寝癖ついてんぞ。」


くしゃりと静雄は臨也の黒髪を撫でて、そのままキスを落とした。







眠気覚ましと寝癖直しを兼ねてシャワーを浴びた臨也は、ついでにいつもの黒いVネックに着替えた。
雫が滴る髪を拭いながらタオルを首にかける。ほかほかと湯気を纏いながらリビングへ向かうと、静雄の楽しそうな声が聞こえてきた。
静雄はテレビの前でソファーに腰掛けながら電話をかけていた。時折笑いながら話すその声は至極優しい声で、すぐに相手が静雄の弟である幽であろうと予想がついた。
臨也はふふっと笑いながら早足でソファに近づき、静雄の後ろから携帯の通話口に向かって叫んだ。


「幽くん久しぶりー!」
「うおっ、突然入ってくんなよ!」
『あ、臨也さんですか? お久しぶりです。』


お邪魔でしたか? と幽の静雄と同じような優しい声が響く。そんなことないよ、と臨也は笑った。


『今日は久しぶりのオフだったので、』
「大変だねえ、最近またドラマ決まったもんねえ? すごいなあ。」
「体調管理はちゃんとしろよ?」
『ありがとうございます、臨也さん。兄さんは心配しすぎだよ。』


臨也がソファーの背に肘をつきながら携帯越しに幽と会話を楽しんでいると、静雄が不意に声があげる。


「やべ、洗濯機回してねえや、」
「え、あ、そうだね、」


だから? と言わんばかりの臨也の態度とは逆に静雄は焦ったように席を立ち携帯を臨也に押し付け洗面所に急いだ。
別にいいのに、と臨也は呟きながら渡された携帯を耳を押し付け、置いてきぼりをくらった幽にごめんねえ、と謝罪の言葉を述べた。背もたれからまわってソファーに腰をつく。洗面所が少し騒がしいのに苦笑を零して幽の言葉に耳を傾けた。
暫く世間話をしていると、あ、と臨也は静雄の誕生日の事を思い出す。弟である幽ならば静雄がほしいものがわかるのではないだろうか。


「ねえねえ、幽くん。シズちゃんの誕生日って何かするつもりだったりする?」
『誕生日、ですか?』
「恥ずかしながら、シズちゃんの欲しいものが全く浮かばなくてねえ……。」
『今回はスーツでも贈ろうと考えていたんですが、そうですね、臨也さんが何かプレゼントするなら今回は何もしない方がいいですかね…?』
「いやいや、参考で聞いただけだから! スーツ、プレゼントしてあげてよ。幽くんからのだったか何でも喜ぶと思うけどさ、やっぱり誰からでもプレゼントを貰えるなら喜ぶと……、」
『? 臨也さん?』


ぴたりと何も聞こえなくなってしまった電話に幽は首を傾げる。臨也さん? 再度声をかけると、


「…決めた、俺のプレゼント。」


―…ありがとう、幽くん。
臨也は満面の笑みでそう言って、最高の誕生日にしてみせる事を約束した。



………5日前



(20110122)

臨也と静雄と幽。
静雄マジ家庭的。


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