静かに滲みゆく | ナノ



平和島静雄と折原臨也は恋仲である。

その事実を聞いてぎょっとする者も少なくない。彼らは犬猿の仲として有名だからだ。そう、彼らは仲が悪い。遠慮無しに自動販売機が空を飛び、ナイフが煌めくぐらいには仲が悪かった。その2人が恋仲に発展した。これを奇跡だと言わずして何を奇跡だと言えるだろうか。



静かに滲みゆく




特に不満は無い、と臨也は言い張れた。今の関係に不満など何一つとして存在していない。キスもすればセックスもする。優しく抱擁されるし、頭を撫でられたりもする。不満は何も無い、とても愛に満ち溢れた関係だ。そう、愛に満ちている。
今まで得たことの無い、愛、という感覚。

ここで臨也はひとつの疑問を口にする。


「なんでシズちゃんは俺を選んだの?」


1番大きいはずの男同士だという壁を軽々と乗り越え、恋仲になった。奇跡だ。
だが臨也には不満は無いが疑問があった。予想はひとつ。愛だ。
静雄も臨也も愛に飢えていた。誰かと関わりたいと必死だった。だから2人は他人で自分を満たそうとしたのではないか?
臨也の中で組み上がる。自分はどうかと聞かれれば違うと答えるが、静雄がどう考えているかなどわかりはしない。恋仲だろうが犬猿の仲だろうが相手の思考を読む事は不可能だからだ。できるのは予想だけ。


シズちゃんが俺を選んだのもの近くに理解者が居なかったせいではないか?


臨也はさらに思考を巡らせる。
静雄は高校時代に新羅と門田と、ある先輩と。限られた人としか関係を持っていなかった。それは臨也もしかりだ。盛んな時期である高校時代に互いに補う相手を見つけるのには視野が狭すぎたのだ。だがその時に最適だと見つけたのが静雄にとっての臨也であり、臨也にとっての静雄であったのではないか?

そう、偶然の出来事だ。奇跡なんて綺麗すぎた。これは偶然。

なんてったって、23歳になった平和島静雄の回りには沢山の人が集まるようなったのだ。いつもお世話になっている上司や、可愛い仕事の後輩。母校の後輩や小さな女の子。その中心で静雄は笑っている。そんな穏やかな、幸せな、愛の溢れる中で、


「なんでシズちゃんは俺を選んだの?」


ただそれだけが臨也の疑問だった。
もう補う相手は嫌いだった折原臨也ではなくても良いのだ。柔らかい肌を持つ女の子でいいじゃないか。結婚して子供をつくり、幸せに暮らせるというのに何故未だに静雄は自分の側に居るのかが臨也は疑問だった。


「なんでシズちゃんは俺を選んだの?」


わからないよ。臨也が小さく呟く。自分は性格が悪くて、口が嫌なほどよくまわる。人が焦っていたり困惑したり激怒したり悲しんでいたりする姿を見て楽しんでいる、虫酸の走る人間。嫌いだと言う暴力を使わせる人間。屁理屈を並べ立て傍観者にてっする最低な人間。


「なんでシズちゃんは俺を選んだの?」


もう俺じゃなくてもいいんじゃない? もういいんだよ? だってシズちゃんには沢山の理解者が出来た。回りを見なよ。君は俺からじゃなくても愛されてる。君の魂は、誰にでも愛されるんだよ。

誰か、を求めていたのは俺なのかもしれない。臨也は震える声で言う。愛してくれる誰かを、欠けた部分を補ってくれる誰かを探していたのかもしれない。


「なんでシズちゃんは俺を選んだの?」
「手前が好きだからってだけじゃ駄目なのかよ。」
「うーん。その好き、は偶然から生まれたのかな?」
「んなもん知るか。」
「もっと広い視野で見なよ、シズちゃん。」
「おい、臨也。」
「なに?」


「泣くなよ。」


泣いてないよ、と言おうにも頬から伝った涙がそれを証明していた。ねえ、なんで俺を、そこまで言うと静雄に口を塞がれる。何て言ったら信じるんだよ。眉を潜め、どこか辛そうに顔を歪める静雄に臨也はただ涙を流し続けた。わかんない、わかんないぐらいシズちゃんが好きなんだよ。

昔では考えられないほどの優しい力で抱き寄せられる。なんでシズちゃんは俺を選んだの? 幾度となく問いかけ、その度に静雄は答えた。手前が好きだからだよ。手前だけが好きなんだよ。


「…やっぱり、わかんない。」


だって、俺との幸せじゃ限界があるのに。すぐそこに永遠の幸せがきっとあるのに。俺じゃなくても、もうシズちゃんは大丈夫なのに。シズちゃん。俺はもう、シズちゃんにはいらないんだよ。

そう言いたいのに声が出ない。嗚咽だけが部屋に響き、静雄は優しく髪を撫でた。そっと黒髪にキスを落とし、抱き締める。なに不安になってんだよ、バカ野郎。


不満は無い、不安なんだ。




(20110110)

廿楽さまリクエスト「静雄の周りに人が集まりだしたのを見て俺いらないのかみたいになる臨也」でした。
予想以上にシリアスになってしまって焦っています…大丈夫でしょうか><
リテイクは24時間365日受け付けておりますので…!
作品に感動して泣いた、というお言葉に私が感動しましたッ!ありがとうございます!
これからもどうぞよろしくお願いします!
リクエストありがとうございました!

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