嘘じゃないと言えない | ナノ




「もう今年が終わるんだねえ。」


それは日が暮れてからかなりの時間が過ぎた、夜の事だった。

大晦日だと言うのに臨也はいつものようにパソコンに向かい、指を忙しなく動かしていた。情報屋に休みは無いんだよ、と臨也は言う。まあ一緒に過ごせる事には変わりはないか、と静雄はぼんやりと年を締める歌番組を観ながらソファーに埋もれた。


特に何をするでもなく時間は過ぎていく。相変わらず臨也はパソコンのディスプレイに向かい、時折携帯を手に取っていた。静雄は暇な時間が嫌いではない。むしろ好きだといっていい。ゆったりとした時間が過ぎていくのはとても心地よいのだ。
静雄はすくりと立ち上がり、何か無いかと適当に冷蔵庫を漁り、前に買ったプリンを見つけると、その隣にビールとカクテルの缶があるのが目に入る。ビールは家の主である臨也が飲む為のものだろうが、ではこのカクテルはなんだろうか? 静雄は冷蔵庫を開けっぱなしに考えていると、ふと後ろから、あー、という声が洩れた。


「今年最後に、シズちゃんと呑もうと思って買ったんだよ。」


シズちゃんはビール嫌いだから甘ーい、カクテルね。と臨也は言いながら、パソコンから離れ静雄は立つキッチンへと向かう。もう呑んじゃう? 冷蔵庫に手をかけて下から覗き込むようにして臨也は静雄を見上げた。赤い瞳にどきりと胸が高鳴る。だがさも平然を装うように答えた。


「仕事、良いのか?」
「まあ、いいんじゃない? 年越しぐらい自由にしたってさ。」


よし、呑むか! と臨也は珍しく楽しそうに口元を緩ませ笑う。可愛いな、とふと静雄は思いながら冷蔵庫の中のカクテルを手に取った。


2人で肩を並べてソファーへと沈む。ぱしゅっ、と良い音を立てて口を開けるとかつん、の缶を当て合う。乾杯。テレビから流れる最新のミュージックに耳を傾けながら静雄は甘い、臨也は少し苦い大人の飲み物が喉を通った。


「2010年、お疲れ様、俺!」
「手前はろくな事してねえだろ。」
「いつも公共物破壊してるシズちゃんに言われたくないなー。」
「誰のせいだ誰の。」
「全部が全部俺って訳じゃない。」
「8割は手前だけどな。」
「……ちっ…、」
「舌打ちすんな。」


はは、と笑いながらまた一口。暖まる身体に静雄は饒舌になり、2人の間の会話が弾む。テレビはすでにBGMと化し、つらつらと2人はノスタルジーに浸っていった。出会った時の事。高校での思い出。卒業式。卒業後、告白してされて付き合い始めた時の話し。様々な話題が飛び交った。


「ねえ、シズちゃんってさ、今まで何台自販機壊したの?」
「んなの覚えてねえよ。手前だって何人陥れたか覚えてんのか?」
「あぁー…、シズちゃんとシズちゃんとシズちゃんと、あと沢山の人間達。」
「それは覚えてねえって言うんだよ。」
「えー! シズちゃんにした事はかなり覚えてるよ?」
「ほぅー? 言ってみろよ臨也クン?」


嫌だなぁ、冗談だよ! と機嫌良く手を上げオーバーリアクションを見せる。何故かその動きが可笑しく思えた静雄はこれまた珍しくククッと喉を震わせた。
カチカチと時を刻む針は刻々と新年へと近づいていく。今年も終わりだねえ、不意に臨也がそう言えば静雄はただ相づちを打つだけだったが臨也は幸せそうに微笑んだ。



「来年も俺はシズちゃんが大嫌いだ!」
「安心しろ、俺もだ。」


あと一口程度しか入っていない互いの缶を再度かつん、と当てて2人は肩を寄りそ合わせた。


嘘じゃないと言えない
(嫌い、なんてさ)



(20101231)

匿名さまタイトルリクエスト「嘘じゃないと言えない」より

大晦日に年越し蕎麦でなく仲良く酒を呑む大人。

リクエストありがとうございました!

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