シズちゃん先生と折原先生 | ナノ


▼シズちゃん先生と臨也先生
※続きというよりシリーズ物


シズちゃん先生ー! と猫なで声で呼ばれシズちゃんは振り返る。そこには少し髪の茶色い女生徒がずい、と可愛らしくラッピングされた包みを差し出していた。そしてシズちゃんは困ったような顔をしながらも、その包みを受け取っていた。

お昼休みに、シズちゃんは体育の授業(今日はバスケットボール)をこなし、滲んだ汗を脱ぐって体育館を出てすぐに、お昼に出てきた女生徒に声をかけられたようだった。俺もお昼にしようと、どうせひとりだろうシズちゃんを探しに行った時に目撃してしまった。ひとりの女生徒が渡すと、私も私もと次々にシズちゃんの手の中にプレゼントを置いていく。
学校が冬休みを迎えるまで、あと2日。クリスマスまであと4日。休みに入る前にプレゼントを渡しておこうといった感じだろう。シズちゃんはまんざらでもなく嬉しそうに笑っていた。

俺はというと。
確かに俺も生徒から渡されはしたが、全て丁寧に断った。嬉しいけど、先生が貰うのは、ね。そう笑顔で言えば生徒達は紅潮させながら引き下がる。そう、俺は断ったんだ。

「あの嬉しそうな顔…腹立つな…。」

あのままの雰囲気だと、お昼まで誘われそうだ。あの輪に割って入るのも如何なものかと、俺は背を向け歩く。シズちゃん先生、とまた呼ぶ生徒とすれ違った。面白くない。



シズちゃんが生徒から“シズちゃん先生”と呼ばれるようになったのはつい最近の事だ。前までは俺だけの呼び方が、今では大半の女生徒が使っている。俺がシズちゃんと呼ぶとそのあだ名はやめろよ、と苦い顔をするくせに、生徒に呼ばれた時は特に気にしていないようだ。酷いものだと思うが、きっとシズちゃんは“俺だから”嫌な顔をするんだろう。今さら言ったところでシズちゃんはきっと何も変わらないだろうから何も言わない。シズちゃん呼びを止めるつもりもないし。


戻ってきた保健室。嗅ぎ慣れた消毒液の独特な臭い。白衣を翻してさっきまで座っていた椅子に腰かける。キィ、と音がして、静寂に溶けた。廊下から聞こえる生徒達の笑い声や会話が耳につく。持っていた弁当を置いて手を合わせ、いただきます、と一言。朝に作った卵焼きと、煮物と、小さなハンバーグ。ひとりで勝手に美味いなと食べていると、デジャブのように扉が勢い良く開かれた。

「おい手前、なに勝手に食ってんだよ。」

身勝手な一言に呆れたように溜め息をつくと、シズちゃんは我が物顔で椅子に手をかけて座る。自分も持ってきた弁当を俺の弁当の隣に並べて狭い机が埋まっていった。

「シズちゃんが鼻の下を伸ばしていたから邪魔しちゃ悪いかなあ、っていう俺の優しさだろ?」
「いつ俺が鼻の下を伸ばしてた。」
「ついさっき。女の子に囲まれててそりゃあもう幸せそうだったねえ、シズちゃん?」

嫌みたっぷりに笑ってやればシズちゃんは表情を濁していた。さしずめ、見られてたか、といったところか。

「因みに、俺からクリスマスプレゼントなんて無いからね。」
「………期待してねえよ。」
「あっそ。」

そこは嘘でも何かくれよって言う所だろうが。沸き上がる苛立ちに煮物に箸を突き刺した。すると、せんせー、と呼ぶ声と共に扉が開かれる。その生徒もまたシズちゃんの姿を見てシズちゃん先生、と呼んだ。

「あれ、シズちゃん先生ってこんな所でご飯食べてるんだー。」
「ああ、まあな。」
「折原先生と仲良いよねー。」
「そんなことも、」

ない、と言うシズちゃんにまた腹が立って言葉を遮るように席を立った。

「こぉら、どうかしたの?」
「あ、トイレットペーパー貰っていい? 二階のトイレ、全部ペーパー無くてびっくりしちゃった!」

ころころと表情がかわる生徒に数個のトイレットペーパーを渡す。ありがとーと笑う生徒に軽く手を振った。じゃあねー、と生徒はシズちゃんにも手を振ってシズちゃんも手を挙げる。そして何事も無かったかのようにご飯を食べ始めた。俺は椅子に戻って箸を持つ。ちらりと見ると、ガツガツと白いご飯をかっこんでいた。

「シズちゃん、最近人気者だね。」
「いつでも女子からきゃーきゃー言われてる折原先生に言われたくねえな。」
「…それはシズちゃんの方だろ。」

ぴしゃりと言い放ってから、しまった、と思う。恐る恐るシズちゃんの顔を覗き見ると、案の定ギロリと茶色がかった瞳がこちらを見ている。あ、地雷踏んだかも。誤魔化すように焦りながら席について何でもない、やっぱり俺は、と続けると今度はシズちゃんが俺の言葉を遮ってきた。

「体育の授業をサボろうとする奴等の理由、知ってるか?」
「…知らないよ、そんなの。」
「折原先生が居るから保健室で寝て来ようかな、だよ。」
「………なに。迷惑だって言いたいの。」

「違えよ。」

手前が俺を囲う生徒に嫉妬してんのと同じで、俺だって嫉妬してんだよ。

聞こえた言葉に思考が停止する。何度か瞳を瞬かせると、アホ面だと笑われる。何も言えなくて視線を泳がすとククッ、とシズちゃんがまた笑った。

「今年のクリスマスは俺が何かやる。」
「……そう。」

午後は授業が入ってないんだ、というシズちゃんは後でベッド借りるな、と言った。その後の“一緒に寝るか”という言葉は聞かなかった事にしたはずなのに、弁当の味がわからないぐらいにはドキドキしていた、らしい。俺も良い歳なのにねえ。


シズちゃん、と呼ぶのは俺だけじゃなくても“臨也”と呼ぶのはシズちゃんだけ。



(20101209)

F様リクエスト「平和島先生×折原先生の続編希望」でした!

少し前の作品に続編希望がいただけるとは思っておらず、すごく嬉しかったです>///<
昔と今とお話の書き方が違っていて焦りましたが、如何でしたでしょうか…?
相変わらず先生設定を生かせないのは仕様です、すみません!

リテイクも受付中ですのでなんなりと!
この度はリクエストありがとうございましたー!


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