【音失α】君の隣は特等席 | ナノ

※本編後のふたり



「シズちゃん、」

前を歩く静雄に声を掛ければ、静雄は足を止め振り返る。少し微笑みを溢す静雄に臨也は自身の声が届いている事を実感していた。臨也は静雄の隣を歩く。ちらりと静雄の顔を伺えば、静雄もまた臨也の表情を伺うかのように視線を泳がしていた。交差した視線に、二人して勢いよく視線を外す。すると暫く経って、ククッと笑う静雄の声と、あはは、と笑う臨也の声が重なった。

「シズちゃんが好き、」

臨也がぽつりと呟くと、静雄は目を見開いてくわえていた煙草を落としそうになっていた。変な顔だと臨也が笑うと静雄はサングラスをかけなおし、バカか手前は、と返すだけで早足で先にいってしまう。

「突然、恥ずかしい事言ってんなよな。」

静雄の照れ隠しだとわかっていながら、そのまま静雄は先に行ってしまうのではないかと、嘘みたいな感覚がすると臨也は思った。これは夢で、声を失う辺りからが全て夢で、目覚めたら静雄は隣に居ないのかもしれない。臨也は少し先を歩く静雄の背中を見つめていると、ふいに静雄が振り向いた。

「おら、早く来い。」

今度は名前も何も呼んではいないはずなのに振り向いて差し出された手のひらに臨也は目を瞬かせる。

臨也は静雄に軽く走り寄り、肩を並べて池袋の街を歩いた。


を失ったならば、α




いつもと変わらない風景が、色づいて見える。好きだった人間観察も、静雄が隣にいるせいで視線を反らせない。デートと言えるほど立派なものではないが、臨也と静雄は今日初めて池袋で肩を並べた。嫌がっていた臨也を丸め込んだのは静雄だった。周りに何を言われたって良いだろう、と強く瞳を真っ直ぐに見て言われ、臨也は何も言えなくなった。実際、臨也も静雄と共に池袋のまちを歩ける事を、本当は望んでいたのだ。ただ、少し、自信が無かっただけで――……。





「……凄い絵ずらだな。」

掛けられた声に二人は振り返る。そこには高校時代からのよしみである門田の姿があった。道具を持っている姿から仕事帰りだという事がわかる。門田は少し額に冷や汗をかきながら二人に声をかけた。

「…何かあったの、か?」
「いや、特に何もねえよ。」

ただ、と続ける静雄を横目に臨也はいつもなら良く動く口を閉ざしていた。門田は天敵だったはずの臨也と静雄が喧嘩もせずに、むしろ仲良く歩いている事に異変を感じたのだろう。当たり前かと臨也は思うが、あり得ない事だ、と思われてしまっている事にどこか寂しさを感じていた。
すると臨也は、門田と静雄が何か話しているのを遮るように口を開いた。

「あのねドタチン! シズちゃんがね、流石にそれは止めて欲しいなって事をしてきてさー。償いに今日は俺の隣を歩いて貰ってるんだよ、もちろんキレないって前提でね。最高の仕返しだと、」
「違えだろ。」

ぺらぺらと調子良く喋る臨也の頭を軽く叩き、静雄は臨也を黙らせる。途中まで苦笑いをしていた門田は静雄の真剣な声に息を詰まらせた。




「俺たち、付き合う事にしたんだよ。」




だから、今日はデートな。真顔で静雄は言ってのけ、臨也は思考を停止させる。それは門田も同様だった。え、と声をもらすより先に静雄はじゃあな、と臨也の腕を取り人混みに紛れていく。だが池袋では有名すぎる二人を見失う事は不可能に近かった。近くに居る人間は二人を認識すると自然に道をつくる。ずんずんと作られた道を進む静雄に臨也は言った。

「シズちゃんは世間体とか気にしないんだっけ、」
「今さらだからな。」
「…横暴、だなぁ…」
「態度で示すってよ、ちゃんと言葉にするって決めたんだよ。」

人混みの中、そこに出来た空間に静雄は立ち止まり、俯く臨也を見る。なんで手前はそうなんだ、と静雄は言わない。静雄はわかっているのだ、臨也が奥手な理由、どうしても素直に慣れない訳が。門田の反応も、今までの二人の間柄からは仕方のないものだろう。だが、と静雄は拳を握った。



「俺は手前が思ってる以上に手前が、臨也が好きだ。」



いい加減に、わかれよ。
静雄の声が空気を振動させ臨也の耳へと導かれる。ビクリと肩が揺れて、臨也はゆっくりと顔を上げた。
その顔は開かれた赤い瞳と似たような色をしていて、静雄は思わず抱き締めそうになるが後で何を言われるかわからない、と必死に思いとどまった。
臨也は暫く静雄を見つめ、ゆっくりとじゃあ、と声を発した。

「ご飯、食べに行こう?」
「え、お、おう。」
「それから、服とかも、みたい。一緒に映画、とか、ベタだけど。…それから、」

突然の誘いに静雄は呆然としていると、今度は臨也が静雄の腕をとった。


「やるからには楽しむから、覚悟してよ。シズちゃん、」


何かにふっきれた様子の臨也は、清々しい表情をしていた。静雄も釣られてニッと笑うと、また肩を並べて歩き出す。
その姿を見たある高校生達は振り返り、あるカップルの女性は羨ましいと呟き、ある髪の長い女は溜め息をついた。

それはあまりにも、池袋最強と最凶の二人が幸せそうに微笑んでいたからである。


君の隣は特等席


(20101129)

20万打リクエスト「音失続編/静雄と臨也のラブラブを池袋の人が見て驚愕する」でした。
………………ラブラブしてなくてすみません…!(土下座)


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