世界は僕を手放した | ナノ





脳天を貫くような快感が全身を駆け巡る。ぎゅう、とシーツを握り、臨也は揺られていた。瞳は涙の膜を張り、開いた口からは喘ぎ声ばかりがもれた。
身体を前のめりに男は自分の性器を、ぐん、と挿入すると臨也の反応を楽しむように次第に激しく腰を打ちつける。どんどんと臨也の嬌声が大きくなれば男は逆に腰を動かす速度を緩めた。


「も、ゃだ…ァ!」


ゆるゆるとした律動が続けられ、高まった絶頂感は急降下していく。臨也の息が整い始めると男は律動を早めた。暫く続けられた行為に臨也の身体は快楽をすぐに拾いあげる。びくんっと大きく痙攣しながらぐちゃぐちゃになった顔で臨也は舌足らずに乞う。


「イか、せ、…ひァ、ぁっ! イかせ、て…!」


ぼろぼろと泣きながら臨也は腰を揺らす。もっと、と言う臨也に男は気分を良くし、いいところを突くと、臨也はびくんと背筋を弓なりにしならせ中を締めた。あと879枚。男は囁く。


「臨也、気持ちいいよ…! 最高だ…!」
「あっ、あん、やぁっ、…んあ、ひぁあ…!」


臨也の柔らかい肉壁が男のそれを包み込みぎゅうぎゅうと押さえつけた。キツすぎる締め付けに男は、ク、と息を吐きながら律動が早くなる。次第に臨也の息づかいと声が高く、早くなっていった。限界が近い。


「あっあぁ!も、だめ、も、出ないの、に、ァ!」
「う、ぁ、キツ…!」
「んア、ぁああ――…ッ!」


指先をぴんと伸びきり、その後きゅっと中が締まった。臨也は薄くなった精液を吐き出しイくと、力無くシーツに埋もれる。男は顔をしかめぶるりと震えた。終わった。やっと、終わった。臨也は霞がかった頭ではあったが安堵したように瞳を閉じた。

だが、いつまでたっても腹の中に精液を流し込まれる感覚は襲ってこない。

重くなった瞼を開けると、苦しそうな、だが頬を染めた男がずるりと臨也の中から自身を引き抜き、臨也の腹の上に欲望を吐き出していた。暖かいものが腹にあたる。


「は、…あと、878枚。」


絶望に視界が、歪んだ。
ニタリと男は口元を緩ませ、もう抵抗する体力もない臨也の身体を反転させうつ伏せにすると、腰を持ち上げ再度挿入してきたのだった。


「俺が臨也の中でイったら、全部消そう!約束するよ!」


男の声が頭の中で反響する。中で出されなければ、終わらない。丹念に慣らされ、一度受け入れた臨也のそこは何の抵抗もなく再度男の大きいそれを受け入れる。


「やだァ! も、ゃだよ、ひ、あっ、ゃ、だぁ!」


溢れる涙は止まる事無く溢れだし、頭を振りながら臨也は必死に拒絶の言葉を口にする。だが男はお構い無しにガツガツと後ろから激しく腰を打ちつけ、肌がぶつかり合う乾いた音が部屋に響いた。揺らされる度にガシャガシャと悲鳴を上げる手錠と結合部から聞こえる水音。男の荒い息遣いと臨也の嬌声。


「ごめんよ、臨也。でも、まだ終わりにしたくないんだ…!」


拒絶の言葉を口にしつつも、幾度と無く達しているはずの臨也自身もまたゆるゆると天を仰ぎ始めている事が臨也を一層に追い込んだ。それはセックスという行為を自らが望んでいるのではないか、という不安。平和島静雄という存在がありながら、受け入れてしまう事に臨也は瞳をぐっと閉じた。

シズちゃん。

嬌声を上げているのは確かに自分のはずなのに、どこかそれを遠くに感じる。臨也は他人事のように考えていると中でむくむくと大きくなる男のそれを感じ吐き気を覚えた。頼むから、早く、終わってくれ。力もなく、考えられる頭すらもない臨也はただ祈るしかなかった。信じてもいない神様というものに。


(だからさ、神なんて居ないんだよ、)


だから世界は、














身体が重い。頭が痛い。声がでない。
ヒュッと息を吸い込んでしまい激しく咳こみ、臨也は目を覚ました。暫く焦点の合わない瞳でどこかをぼんやりと見つめていた。男の姿はもうない。終わったんだ。
汗ばんだ身体が気持ち悪い、臨也は必死に身体を起こそうにも指一本動きそうになかった。


(気持ち悪い、)


見知らぬ男に抱かれた事が夢でない事は明らかだった。部屋には精液の臭いが充満しているのだ。臨也の身体には至るところに男のものか臨也自身のものかわからない精液が散っている。後処理がされていない事は腹の中の違和感から痛いほど理解していた。
悲鳴を上げる身体に鞭を打ち歯を食いしばりながら身体をおこす。手をついた時、クシャリとシーツではないものに触れた。


「…っ…しゃ、し、ん…?」


その写真を見て、臨也は息がつまった。その写真は、男の精液にまみれた臨也の姿が映しだされていた。赤い瞳は涙に溢れ、口からは唾液をこぼし淫らに身体を揺らす臨也の姿。自身のあらぬ姿に臨也はとっさにその写真を握り潰した。
だが、ふと視線を流すと、部屋中に男との性行為をしている臨也の写真がばらまかれていた。


「ぁ、ぁ、あ、」


掠れた悲鳴が部屋に響く。嗚咽を含んだその悲鳴は次第に小さくなり、臨也はただただ膝を抱え肩を震わせていた。

いつ撮ったものかはわからない。だがその写真達は見知らぬ男と身体を繋げた事実を臨也に痛い程に見せつけていた。そして自身がどれ程までに乱れたのかを表していたのだ。





(20101119)

20110121→加筆修正

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