世界は僕を手放した | ナノ





 ずっ、と中を擦るように腰を押し進めると口をぱくぱくと開閉させて臨也の白い喉が晒される。ぎゅうぎゅうと締め付ける肉壁は離れたくないと言っている様で、静雄は胸の奥が熱くなるのを感じた。
 いざや、いざや、と呼ぶと答えるように腫れてしまった瞼を開けて臨也はシズちゃんと言う。静雄はシーツを痛いぐらいに握る臨也手をとり、細い指に口付けた。


「ぁっ、な、なに…? どうした、の?」
「俺の名前、呼んでろ。ずっと。ずっとだ」
「わか、ってる」


 あの男に組み敷かれてした時も呼び続けていた名前。返事が無かったあの時は違い、今は目の前にその相手がいる。シズちゃん、シズちゃんと臨也は繰り返し、静雄はゆっくりと律動を開始した。
 奥を擦るように繰り返される律動に臨也の口から短い喘ぎ声が洩れる。いつもと違い、荒々しさの無いその突き上げる行為に静雄の優しさが垣間見る事ができた。しずちゃん、しずちゃん、と名前を呼びながら臨也は必死に静雄の姿を見つめ続けていた。目を閉じれば、そこには静雄の姿は無い。臨也と呼ぶ声は静雄のものではなくあの男の声なのだ。抗うように臨也は手を伸ばし静雄の金髪に触れる。泣きそうに歪む顔で臨也は静雄の口を塞いだ。


「ぅあっ、…あっ、ひぁっ、シズ、っ…んっ、もっと…!」


 もっとしてよ、と噎び泣きながらもとめた。
 そこには愛があるはずなのに、どこか苦しい。身体を巡るのは快楽と、胸の痛みだ。きっと一生残ってしまうであろう胸の痛み。何度呼んでも足りない。そこに居る事を確かめるように口にすればこれが夢でない事が証明される気がして静雄も臨也も相手の名前を呼び続けた。

 静雄は臨也の腕を引き、繋がったままで上半身を起こすと背に手をまわし抱きしめた。ぐちゅ、と秘部が水音を立て深く繋がったそこに甘い悲鳴を上げつつも臨也も静雄の首に腕を絡ませ力の限り抱きついた。


「大丈夫、か」


 聞かぬと決めていた事を思わず口にしてしまう。そんな事を聞いても返ってくる言葉は大丈夫、という嘘の言葉だとわかっているのに。
静雄は何でもない、と続けようとする。だが耳元で息をつく音がした。


「大丈夫じゃ、ない。全然、大丈夫なんかじゃない」


 吐き出された本音に茶色の瞳が見開かれ、顔の隣にある黒髪を見つめる。部屋には静寂が訪れ、シーツが擦れる音がやけに大きく聞こえた。背に回した腕を解こうとする静雄とは裏腹に、臨也はぎゅっとさらに抱きしめる力を強めた。


「痛い。胸とかがさ、痛いんだよ。大丈夫な訳がない。我ながら、驚いてる。怖いんだよ。目を瞑るとそこには違う奴が見える。怖いよ。…けどね、満たされている感覚がするんだ。目を開ければシズちゃんが居て、俺の名前を呼んでくれている。大丈夫じゃないけれど、もっとシズちゃんを感じていたいから、やめないで欲しい。…やめないで」


 震える声。だが秘めた強さを感じさせる声だった。
 静雄は何を言う訳でもなく、緩めた腕を再度強く絡めると自身の太ももの上に臨也を乗せ、律動をはじめ下から突き上げた。静雄の耳元で熱い嬌声が上げる。耐える事なく声を上げて臨也は金髪の頭を抱きしめた。


「うぁっ、ああっ…! しず、ちゃ! ひゃあ、あ、ふぁっ!」
「臨、や…!」
「も、無理っ…イく、イクから、しずちゃっ、あっ、しずっ、…出して、中に、しずちゃん…!」


 大声でせがむ臨也に静雄は一瞬耳を疑った。今までの行為の中でも中だしを自らの口から望む事など一切無かったからだ。お願い、と声を震わせ言う臨也にあの男にされたであろう事に歯がみした。されたのだろう、あの男に、と考えると目の前が真っ赤に染まる程に怒りが湧き上がる。だが臨也を酷く扱う訳にはいかない、と抱えた臨也の身体をシーツの上へと寝かせた。
涙で濡れた顔。口を開けて喘ぐその顔にぐんと静雄は顔を近づける。揺れる赤い瞳をしっかりと捉え、目を閉じるな! と声をかける。しずちゃん、と呂律の回らない口で必死に呼ぶ臨也の口を塞いで腰を進めた。


「ふぁっ、んんッ…! イク、しずちゃん、イっちゃう…!」
「ああ、イっていいんだ臨、也…!」
「ふぁっ、う、あ、ぁっ、…あぁっ――――ッ!!」


 全身をビクビクと揺らし、臨也は達し自身の腹を白く汚した。一拍遅れて静雄も臨也の中に欲を吐き出し熱を感じたのか腰を揺らす臨也は濡れた瞳を薄く開き、静雄を見つめ、嬉しそうに口角を上げた。しずちゃん、と動く口は音を奏でる事が無かった。
だがはっきりとシズちゃんと動き続けて、ありがとう、と動いた。

 その言葉に声をあげる静雄だったが、臨也は糸が切れたように動かなくなりシーツの上に置かれた静雄の手を握りながら眠りについていた。
 目じりにたまる涙が零れ、シーツを濡らす。この涙の意味はなんだろうかと静雄は思った。助けられただろうか。これで良かっただろうか。思う事はさまざまだ。だが安らかに眠る臨也の顔に静雄もまた、救われたような気がしていた。




(20110611)

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