世界は僕を手放した | ナノ



 食いしばる様に泣き声が殺し、臨也はシーツに顔を埋める。擦るなと静雄は臨也からシーツを奪い涙で濡れた顔をしっかりと見つめ、その酷い顔を撫でる。前髪をあげて露わになる額にそっと静雄は自分の額を当てた。


「シズ、ちゃん?」
「続けて、いいか」
「――――…いいよ」


 もう怖くないのだというように臨也は静雄の髪を撫でた。
 しずちゃん、と紡がれる唇。塞ぐように口づけると、赤い瞳が閉じられた。優しく足に触れると手のひらの冷たさに臨也は肩を揺らす。静雄はベッドに乗り上げ、臨也の両足をとり、その白い太ももに目をやる。その時、内側の付け根部分に薄く消えかかっている鬱血痕を見つけてしまった。
 ぴたりと止まる静雄の動きに、臨也は閉じていた瞳を薄く開く。どうしたのかと問う前に静雄はその足に舌を這わせきつく吸い付いた。チリッと一瞬痛みが走り小さく臨也の声が漏れる。上半身を起こし未だ内股に痕を残す静雄を引きはがそうと金色の髪に触れると、茶色の瞳が光った。


「あの野郎の事、忘れさせて、やるから」
「シズ、ちゃん」


 足についた痕。その赤い独占欲の痕を見たとき、臨也はあの男に抵抗した際に付けられたキスマークの存在を思い出す。蹴り飛ばそうと足掻いた時に掴まれそのまま付けられたキスマーク。ざわり、と毛が逆立つような感覚。はっきりとした嫌悪感だった。


「いや、だっ!」


 蹴り飛ばす勢いで臨也は足を持つ静雄の手を払おうと足をあげる。臨也が正気に戻った時にはその足が静雄の顔をかすめていた。あっ、と切ない声が部屋に響き、臨也は俯き目を伏せる。やはり、無理なのかもしれない、そう思った時だった。




「大丈夫だ、臨也。ちゃんと目、開けとけ。ちゃんと見ろ。手前を抱いてるのは、俺だから」




 まっすぐなその声に、臨也はうんとしか言えなかった。溢れそうになる涙を止めようと必死になり、声が上づいてしまった事を笑う者は誰もいない。












「も、もう大丈夫だから、もう、はやく、挿れて…!」


 ぐちゅぐちゅと卑猥な水音を奏でるのは臨也の秘部。静雄は優しくすると宣言したあと、丹念に、丁寧に秘部を解していった。
太ももの裏に手をかけ、まんぐり返しのように足を持ち上げる。舌を這わせ吸い付き、軽くノックするように叩くとひくつくそこに舌を挿れる。ふあっ! と甘い声が洩れるのを聞きながら、静雄は舌の挿入をやめなかった。
それからも指を挿入し丹念に解していく。静雄の唾液と腸液で濡れたそこは簡単に静雄の指を受け入れ、一本、二本、三本と増えていく指に痛みなど感じる事はなかった。

どんなに柔らかくなろうと静雄は自身の性器を挿入しようという気が無いのか、指で前立腺を責め立て臨也はすでに二度絶頂に達していた。入れて欲しいのだと臨也が耐えきれず訴えると、静雄は漸く自身のバックルに手をかけ、甘いキスを臨也に贈った。


「もう、いいからぁ…シズちゃん、が、欲しいよ」


 ちゃんと見ろ、と言われてから臨也は必死に静雄を見つめ続けた。大きな快楽の波に目を瞑ってしまっても潤んだ瞳は静雄を薄く見つけた。濡れたワインレッドの瞳に誘われ、静雄も愛しいものを見るように目を細める。顔が見えるようにと正常位のままに。反り立った性器を濡れた秘部に当てた。ぴくりと反応をするそこ。火照った臨也の顔に再度静雄はキスをした。


「入れるぞ、」
「ぅ、ん…うぁ、ふぅう、ああ、んっ」


 固くしっかりとしたものが中に侵入してくる感覚。熱いそれに臨也は背を弓なりに撓らせ開いた口からは反射的に甘い声が洩れた。今までとは違い、ゆっくり、ゆっくりと挿入していく。震える臨也は時折中を締め付け静雄の性器の形を離すまいと食いついた。


「いざ、や。力、抜け…!」
「いや、だ…!」


 ぽろり、とまた臨也の瞳から涙があふれる。きゅうきゅうと締め付ける臨也の中に静雄は顔をしかめながらも挿入をやめなかった。最後まで挿入し終わると、静雄は息を吐き臨也はうっすらと目を開ける。はいった…? と小声で言う臨也に自分で見てみろよと静雄は返した。


「ふ、んっ、…あっ!」
「こら、勝手に動くな」
「早く、しろ、よ」
「急かさなくてもちゃんと気持ちよく、してやるから」


 静雄がそうほほ笑むと、臨也はまたうんとだけ呟いた。嬉しい、という言葉を口にはしない。中に感じる静雄自身の熱に火傷してしまいそうだった。
 あの時は、無我夢中で何も覚えていないのに等しい。気持ちが良くて、気持ち悪かった。自分が自分でないような、どこか欠けてしまっているような――――。
 だが今は違う。ここには愛がある。この満足感は誰にも真似できないものだろう。
 好き、好き、好きなんだ。
 溢れる思いに、臨也は腕を広げただ一言、シズちゃん、とだけ呟いた。



「いっぱい気持ちよく、シて、ほしい…!」




(20110515)


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