世界は僕を手放した | ナノ





 腰を支えるように腕を回せば、臨也は大きく肩を揺らした。視線を落とし、俯く臨也に大丈夫だと優しく声をかけ額同士を重ねれば赤い瞳がゆるゆると上を向いた。閉じた唇に触れるようなキスをして、瞳を見つめれば臨也はそっと目を閉じる。薄く開いた唇をちろりと舐めて舌を挿入した。静雄は臨也の頭を後ろから押さえ、深く口付ける。前の歯をなぞるように舌を這わして丹精に中を満たすと、そっと口を離し、潤んだ瞳を見据える。すぐにもう一度唇を貪り、温もりを確かめるように抱きしめた。


「キスは、されなかったんだよ」


 臨也は静雄の肩に額を押し付けながら呟いた。
 唇は守ったよ、なんてね。
 クスリと自嘲的に笑いながら臨也は静雄のトレーナーを握る。ばかやろう、裏返りそうになった声で返すと、シズちゃん、キスして。もっとしたい、もっとしたいよ。と切なく繰り返した。
 柔らかな唇に何度もキスを落として、息が荒くなるほどの長いキス、触れるだけのキス、舐めるようにキスをして。そっと押し倒せば臨也はぎゅと瞳を閉じた。


「優しく、するから」
「……ふふっ、なんか変なの。大丈夫だよシズちゃん、…ちゃんとシズちゃんが見えてる」
「ああ、ちゃんと見てろ」
「うん」
「俺も、もう逸らさねえから」


 臨也、と確かめるように耳元で囁いて首筋に静雄は顔を埋める。皮膚の薄い鎖骨の辺りを強く吸って赤い痕をつけた。チリッと走った痛みに臨也は息をつめたがそっと静雄の頭を抱いていた。大きく冷たい静雄の手が臨也の腹を弄る。すると大袈裟のように臨也の肩が震えた。胸の突起を触れる前に静雄は目を瞑ってしまった臨也に声をかける。閉じた瞼にキスを落とした。


「目、ちゃんと開けろ、臨也」
「わか、ってる」
「ここ、触られたのか」


 怯えるような反応の臨也に静雄は確かめるように聞くと、臨也は消え入りそうなか細い声でうん、と答えた。


「しずちゃん、早く、して」


 あの時、静雄に助けを必死に乞うばかりだった。洩れる喘ぎ声に紛れ必死に静雄の名を呼んでいた。
 叶わなかった願いだったが、今、自分に触れているのはあの男ではないのだと臨也はホッと胸を撫で下ろす反面、トラウマのようなあの行為が脳裏に過ぎり体を強張らせた。
 赤い瞳を細め、今にも泣き出しそうな臨也を見かね静雄は動きを再開する。ここでとめては臨也もつらいのだ。自身を抱けるかと問うた臨也の声は至極真剣なものだったのだから。
 黒のVネックを脱がせるように裾を持ち上げていく。露になったそこにそっと舌を這わせ小さな突起を口にふくんだ。


「ひ、ぅ…んっ、うう、ゃ」
「嫌、か」
「いや、じゃ、無いっ…!」


 反射的に嫌だと口にしてしまうのか、臨也は嫌じゃない大丈夫だからと訴えた。
 静雄も行為が怖いのはわかっていた。はじめに腕に触れようとしただけで悲痛な叫び声を上げていた、絶望したような光を失った瞳をしていた、気持ち悪いと自分を拒絶していた、それほどまでの記憶に臨也は今乗り越えようと必死なのだ。


「下も脱がすから、腰、あげろ」


 バックルに手をかけて、慣れた手つきでベルトを外していく。臨也は深呼吸をひとつすると腰を浮かせた。下着ごと静雄はズボンを下ろすと露になる臨也の性器は緩く立ち上がっていた。
 未だ胸を少し愛撫しただけで感じてくれている事に少し安堵しながら、静雄は躊躇いも無く臨也のそれを口にふくむ。嫌だっと臨也は叫びながら身を起こし、静雄の頭を掴んだ。引き剥がすように臨也は抵抗するが、静雄が強く性器を吸えば握られた手は髪と髪の間をすり抜ける。


「ゃ、やだっ、シズちゃ、…そこっ汚い、から!やだぁッ!」


 身を捩り拒絶を繰り返す臨也に静雄は性器から口を離した。零れてしまいそうなほどに濡れた瞳が上から不安そうに揺れる。嫌か? 二度目の問いかけに臨也は表情を歪ませるだけだった。


「臨也が嫌ならやめる。けど、俺は言ったよな、手前を抱きたいって。」
「…っ…」
「手前も、抱いてくれるかって言っただろ」
「言っ、た」
「腹ァくくれよ、臨也。逃げて隠れて、嫌だって言っても何も変われねえ。手前が一番良くわかってるだろ?」

「俺だって、嫌だって言ったさ。もうやめてくれって、もうイきたくないって…! しずちゃんの名前も何度だって呼んだよ、だから、しずちゃん、」
「助けられなくて、ごめんな。」
「俺も、戻りたいから。シて、よ」
「あの野郎に触られたところ全部、俺が上書きしてやるから。それで臨也が救われるなら、俺はそうする。そうしたい」

「…ふふっ、しずちゃん、かっこいーんだぁ」


 臨也はシーツを握りしめ、顔に寄せる。大丈夫だといわんばかりに深呼吸をすると、臨也は静雄の瞳を見据えた。
 唇を奪いながら性器を上下に扱き、快楽を煽ると当てた足によってシーツに波ができる。甘い喘ぎ声はすべて静雄の口の中へと吸い込まれてしまった。漸く唇が離れ、欲していた酸素が肺に入り込み息をつく暇もなく力を込められ性器を扱かれれば耐えられない。静雄の胸板を押しながら臨也は声を漏らした。


「ぅ、あっ…イ、ちゃう! しず、ちゃ」
「一回イっとけよ、臨也。つらいだろ」
「はぅ、あ、あっ! ぅ、あっイく―――…!!」


 臨也は背を弓なりにしならせぱたたっと精液を吐き出すと、くたりとシーツの中にもたれ熱い息をつく。臨也は息を整えながらシーツをたぐり寄せ顔を埋めると、嗚咽を零し始めた。


「…いざ、や?」


 嫌だったのだろうか、やはりまだ早かったのだろうか。
 泣き出した臨也の姿に罪悪感が湧き上がり全身をめぐった。静雄はとっさに抱きしめようと手を伸ばしたとき、くぐもりながらも臨也はしっかりと言葉を紡いでいた。
 それは、心から静雄が安堵する言葉であり臨也自身もまた喜びに満ち溢れていたものだった。


「よかっ、た…ちゃんと、しずちゃんの方が気持ち、よかった…!」





(20110421)

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