世界は僕を手放した | ナノ




長い時計の針が13の数字を通過していく。随分とゆっくりしてしまったものだ、と静雄は身支度に立った。随分と前にベッドへと投げた携帯を手にとり、再度臨也への携帯へと電話をかける。無断で行くと部屋にあげてはくれるが後が面倒なのだ。
少し前の静雄だったならば気の回らなかった些細な事だが、これは臨也と静雄の付き合いの長さ故にといえるだろう。


「………でねえし。」


リダイアルから臨也の名前を選択し、携帯を耳にあてるが聞こえてきたのは機械地味た女性のアナウンスだった。お掛けになった電話番号は現在使われていないか、電波の届かない――…、ピッと通話を切って舌を打つ。


「連絡つかねえんだから、突然行っても文句はねえよなァ?」


前までかかっていた電話がかからなくなっている。電源を切ったのだろう、と静雄は思った。必要最低限の物を持って、静雄は部屋を出た。








暫く臨也は膝を抱え、流れるままに涙をこぼしていた。着ていたはずの服は、最中に脱がされ散乱している。その時の記憶は最早無い。手錠もいつのまにか外されていた。手首についた白い肌に似つかわしくない赤くなった痣。それが男との行為の激しさを物語っていた。

ゆるゆると頭を上げて、部屋に散らばる写真に吐き気を覚えつつも痛む身体を引きずりベッドから出る。ふと見るとサイドテーブルには山ずみの写真と男が始めに取り出したカセットプレイヤーが置かれていた。約束、は守られているのか。だが、と臨也は思う。身体を売ったのと対して変わらぬ事をしたのだ。


「……ぁ、携帯…、」


男が投げ飛ばし、バッテリーが飛び出してしまい機能を失った携帯。だるい身体と痛む腰をおさえ、携帯を拾い上げてバッテリーをつめる。起動してすぐに目がついたのは着信履歴だった。

平和島静雄。
表示される名前に臨也は強く携帯を握りしめた。


「……ごめん、しず、ちゃん、」


連続で二つ並ぶその名前に感情が渦巻いた。抱かれてしまったこと、助けを呼べなかったこと。ただごめんと掠れた声で呟く。着信履歴から静雄の名前を押す事はできなかった。こんな姿を見られたら、どう思われるだろうか。

臨也は部屋をでる。汗ばんだ身体と内股に伝うものを早く消し去ってしまいたかった。



鏡に映る自身の姿は、酷い有り様だった。無数に散りばめられた鬱血痕。赤く腫れ、死んだような、瞳。これが折原臨也なのかと自らが思う程だった。軽い音を立てシャワーを浴びて、男の感触を消すかのようにゴシゴシと強く擦る。後孔に指を這わせ、緩くなったそこに突き入れる。ぐちゅぐちゅと反響する音が耳障りだった。


「ひ、…ぁ、」


精液を掻き出すように指を動かすと、膝が震え鏡に手をついてしまう。自分で後処理をするなど、惨め以外のなにものでもなかった。











「いねえのか?」

臨也の住む高級マンションのエントランスに、静雄は居た。インターフォンを鳴らすも何の反応もない。また携帯に電話をかけてみると、アナウンスの声は聞こえないが相変わらず繋がる事は無かった。

その時、静雄の中は小さな違和感が生まれた。

さっきまで切られていた携帯が復活しても尚、どうして繋がらない? 仕事が終わって電源をつけたのなら電話に出てもいいのではないか? 暫く静雄は考え込み、立ちすくむ。だが連絡がつかない以上、どうすることもできないのは事実だ。


(ンで朝っぱらから変な感じがするんだ…?)


拭えない感覚に舌打ちをしつつエントランスを出る、振り向き際に臨也の住む階を見やるがそこには空が映しだされいるだけで、中を覗くことは叶わなかった。
ここで臨也の帰りを待つのも手だと考えた静雄だったが、未だ14時になってもいない。こんな時間からいつ帰ってくるかわからない相手を待つのは無謀だと溜め息をついた。

電話が繋がらないのならメールだけでも、とメール画面を立ち上げ苦手なメールを送る。


『家に行ったが居なかったから帰る。連絡つかねえの、やめろ。』


心配すんだよ。そう打ち込み送信ボタンを押した。



想い人がすぐ近くにいるとは知らず、静雄は背を向けたのだった。





(20101121)

すれ違いが始まります。

20110121→加筆修正

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -