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※来神時代 卒業・完結




 静雄が校舎に向けて駆ける。
 臨也は上からその光景を眺め、息を詰まらせた。咄嗟に鞄を手に取り教室から出るがそこで足がぴたりと止まる。
 静雄は昇降口から来る。靴を履くには昇降口に行かなくてはならない。
 臨也はぐるぐると考えながら窓に手をかける。三階。ここから飛び降り静雄をやり過ごした後に昇降口に回り靴をとって逃げる。
 ひとつの策が浮かんだところで、実行に移そうと身構えた時ある言葉が引っかかった。


「逃げんじゃねえ臨也!!」


 心の中を読まれたかのような台詞にカッと熱くなる。振り向けば、そこには荒い息を吐く静雄の姿があった。
 階段すら全速力だったのか、膝に手をつき肩で息をしている。
 逃げる。どうして、逃げる? 臨也がちょうどひっかかっていた言葉だった。


「別に逃げてない。どうしたのシズちゃん息上がってるよ」
「うっせえよ、」
「全速力でくるほど急いでたの?」

「忘れもんだよ!」


 声を上げて我武者羅に叫ぶ静雄は、勢いよく顔を上げる。
 その顔は微かに赤く染まっていた。
 空けた窓から穏やかな風が吹く。その空気を吸い込むように静雄は大きく深呼吸をすると、すっと臨也の瞳を見据えた。
 真剣な眼差しに、なに、と言うために動かした口からは何の音も紡がれる事はなかった。




「―――…好きだ。」



 春の匂い。校庭にある木々は薄くピンク色に色づき始めている。
 卒業式は、明日。
 目の前の男はなんと言った?

 え、と臨也が声を出たとき、静雄の告白から数秒の時間が経っていた。
 え、とまた同じ音を紡ぐ。え、え、え?
 困惑する頭で視線を泳がしていると、静雄は距離を縮めさらりと臨也の黒髪に触れた。


「目、赤いぞ」
「…寝てた、んだよ」
「嘘だな」
「シズちゃん、忘れ物はいいの」


 ああ、やっぱり目があった気がしたのは気のせいじゃなかったのか。
 臨也は嫌な事ところを突っ込まれ、話題を変えようとするが静雄は髪に触れる手を引っ込めることは無かった。
 近い。柄にもなく静雄との距離に胸を高鳴らせているのは、先ほどの告白のせいなのか。
 何度も髪を撫でる静雄に何も言えずにいると、ふとその手が離れた。



「手前を、持って帰る。」



 忘れもん、だから。
 気がつけば臨也は静雄の腕の中だった。
 臨也が頭が真っ白になる中で、静雄は再度好きだと告げた。
 卒業しても、一緒に居て欲しいと。だから、泣くなと。


「泣いてないって言ってんじゃん」


 微かに震える声でそう言うと、嘘つくなとまた同じように返される。
 卒業式は、明日。

 だが、別れの時はずっとずっと、ずっと先。


 俺も好き、そう言って抱きしめ返せば当たり前だろと強気な口調が降って来た。


(20110330)

完結です!
お付きあい頂きありがとうございました!
ラブラブ卒業旅行編は20万打企画のほうで書かせていただきます。



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