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 漸く風が暖かくなってきた。少し前までは刺すような冷気だった空気が春の匂いを連れてきている。
 臨也は部活動に励む生徒逹の声を聞きながら、教室内を眺めた。
 ガラリとした教室内は綺麗な夕日が射し込み茜色に染まっている。臨也は机に足をかけ、椅子が傾きながらもそこを動かなかった。

 卒業式は、もう明日に迫ってきていた。
 卒業旅行も大阪に二泊すると決まり、日程も定まった。あとは卒業を待つのみだった。
 今日は予行で一日の授業が潰れ、細かくタイミングを見ている教師逹の姿が明日の卒業式への実感を強めた。


(まだ実感湧かないなあ)


 ギシギシとしなる椅子を楽しむように揺らし、校庭を眺める。そこには多くの不良の相手をする静雄の姿があった。

 もう、この遊びも終わりかあ。
 窓枠に頬杖をつきながら、不良を投げ飛ばしていく静雄を眺め臨也は息をついた。
 明日には怒声を上げてあの不良共は手前のせいかと殴りかかりにくる。だがそれも明日で、終わり。


(三年ってこんなに短いもんなんだなあ。気付かなかった。シズちゃんと喧嘩ばっかりしてた気がする。それをいつもドタチンに怒られて、新羅ごときに呆れられて、シズちゃんは相変わらずで)


 派手に土煙が舞った。静雄が最後の不良を投げ飛ばしたようだ。
 肩で息をしながら、放り出した鞄を持つと静雄はズンズンと校門を目指していく。


「相変わらずカッコイイね、シズちゃん」


 くしゃりと顔を歪ませ、臨也は笑う。
 人間を愛して、愛してそして見つけた化け物に恋をした。
 おかしいとわかっていた。人間が好き。人間を愛してやまない。それなのに立ちはだかる化け物は、あんなにも不器用で、純粋な心を持ち、力強く生きている。


「もっと早く出逢ってたかったなあ…!」


 そうしたら、この関係も自分自身の考えや生き方も変わっていたかもしれない。
 今更ながら事ばかりが溢れて止まらなかった。

 校門をくぐる静雄を涙で歪む視界の中で、見つめた。
 会うのは明日。卒業式。そうしたら卒業旅行に行って人生の中で、唯一無二の思い出をつくるのだ。それで、最後。


(また、あした)


 小さくなる青の制服。大きくなる感情に蓋をして、その背中を見送った、つもりだった。

 静雄がふと、振り返る。

 離れた距離にも関わらず、静雄ははっきりと臨也の姿を捉え目を見開いていた。
 え、と小さく声が洩れる。いや、実際は声など出ていなかったかもしれない。
 臨也が我に返った時にはすでに、静雄は校舎に引き返すように走り出していた。


(20110327)



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