短編小説 | ナノ


※ほも×のんけ



「好きだ」
 
目の前に立つ喧嘩人形こと平和島静雄は言った。
 さんさんと照りつける陽気の中で仕事のために足を運んだ池袋。いつものバーテン服の静雄の姿を視界の端に捉えた瞬間、臨也は走りだした。自動販売機を投げつけれる前にここから退散しなければ、とコートを靡かせ急ぐが揺れる黒髪を見つけた静雄は臨也の予想よりも早くにその存在に気が付き追ってきたのだった。

 細い路地に潜り込み撒いてやろうと意気込んだ瞬間に右手首を掴まれ、気が付けば壁に押さえつけれていた。そして告げられた「好きだ」の一言。

「なにが」

 たっぷり三拍の間をとって臨也は答えた。静雄が真剣な顔をして言った言葉に対して三回した瞬きは、しっかりと静雄の言った意味を理解したうえで、本当にわからなかったからこそでたものだ。人を壁に押し付けながら言う言葉がなぜ「好きだ」になるのか臨也は心底理解できなかった。

「手前が」
「…なんの冗談かな?」
 
 血迷った事を言い出した、と臨也は眉を寄せ目の前の静雄を凝視する。特に変わった様子は無い。だが何が好きだって? 誰が好きだと言った?
 今まで、昨日までの静雄はいたって普通だった、と記憶をさかのぼる。未だ掴まれたままの腕を振り払い臨也は異様に静かな態度の静雄に今さらに気味悪く感じながらコートから携帯を取出しある人間へと電話をかけた。

「ああ、新羅? お前、シズちゃんに何かしただろ」

 目の前の静雄を横目で見ながら携帯の向こうにいる岸谷新羅にそう言う。だが新羅の答えは臨也の望んでいたものではなく、何もしてないよ、と溜息まじりに言われるだけに終わった。

「嘘をつくな。なんか変な薬、例えば…そうだな、惚れ薬とか面白がってつくったりしたんじゃないのか。それかシズちゃんの頭を解剖して洗ってあげてよ」

 何を素っ頓狂な事を言い出すんだと携帯の向こうで笑い声が洩れる。この態度では無関係なのは明白で、臨也は舌うちを零し通話を切ろうとした時だった。

「臨也」

 いつも怒声を響かせている声が優しく空気を揺らした。携帯を持つ手を握られ、反射的に顔をそちらに向けた時するりと顔の横に静雄の腕が通る。え、と臨也の声が洩れるか否かの短い時間だった。

「んっ…」

 唇に何かが押し当てられる感覚。目の前には静雄の茶色がかった瞳があった。

(可愛い)

 驚きのあまり硬直する臨也の身体。頭を後ろから固定して深く口づけようと柔らかな唇を舌でつついた。我に返ったのか静雄の肩を力強く押し返そうともがき始めたが静雄の力に敵うはずもない。侵入してくるぬるりとした舌に歯を立てて死ぬ物狂いで静雄のキスから逃れるに至る。

「なに、してくれてるの」
「好きっつったろ」
「ゃ、やだ! 無理だから!」

 掴まれた腕が振りほどけない。強い力で握られたそれは振り払う事もできずに未だ壁と静雄に挟まれたままの臨也は再度顔を近づけてくる静雄から顔を背けた。

「好きだ」

 そっと耳に囁かれる言葉。臨也、と痺れるほどの低い声で名前を呼ばれ静雄は本気なのだとぐっと目を瞑った。

(可愛いってのがわかんねえのかよ)

 向けられるサイドの髪から覗く左耳にそっと舌を這わす。臨也はビクッと大袈裟なほど肩を揺らし赤い目が見開かれた。

「し、シズちゃん冗談やめてよ、無理、むりだって、離して」

 耳たぶを甘噛みする静雄は臨也の両足の間に自身の足を挟み逃げられないようにと動きを制限していく。身の危険を感じたのか臨也は一層暴れだし、コートの裾からナイフを忍ばせ静雄の背中に突き刺す。だが効果は無かった。

「ホント、可愛いな手前」
「なに言って、んっ、や、だって! やめろ!」

 握ったナイフで臨也は静雄の頬目がけて一閃する。さすがの静雄も身を引き漸く静雄と臨也の間に空間ができた。キッと鋭い目つきで臨也は静雄を睨み付ける。ナイフを構え殺気を纏う臨也に引く事なく静雄はふっと表情を緩めた。

「もう、我慢しねえって決めたからよ」

――――…覚悟しろよ、臨也クン?
 な、と小さく臨也の悲鳴が洩れる。いつもなら文句の言葉のひとつぐらい吐き出してやるところだが、珍しく臨也は静雄の行動に混乱していた。
 ぐしぐしと唇を強く擦り臨也は吐き捨てる。

「俺は絶対にシズちゃんなんて好きにならない」

 どうだろうな、と静雄は笑う。俺は手前の歪んだ顔も好きだ。続けられる告白に臨也は顔を歪ませると、笑みを深くする静雄に遊ばれている感覚に舌打ちをうった。




(20110702)

ツイッタの方でお話ししていて萌えたネタです…!
私の文才では…表現できなかった…!
ほもなシズちゃんに押されてたじたじする臨也さん…な感じでした

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