短編小説 | ナノ


シズ→イザ




 窓からの陽の光がとても暖かかった。
 13時というお昼の時間に、生徒達は弁当を広げながら他愛ない話を始める。今日の授業について、午後の授業について、放課後の予定。校内には放送委員会によって音楽が流されていた。

 ガヤガヤと心地好い騒音に耳を傾けながら、臨也は窓際の席に着き、向かい合う形で前で弁当を広げ箸を動かす門田の様子を眺めていた。時折空を眺めながら自分で作った弁当を箸でつつく。
 穏やかだなあ、暇すぎて死にそう。
 暢気にそんな事を考えながら箸をくわえた。


「こら、箸をくわえるな。行儀が悪い」
「ドタチン厳しいー」
「常識だ」


 ケラケラと笑いながら箸を離すと門田はまた弁当へと視線を戻した。ふぁ、と暖かい陽射しに誘われ欠伸を溢すとじわりと目尻に涙がたまる。
 ごしごしと目尻を擦っている臨也を見かねて門田はまた声をかけた。擦りすぎると目が赤くなるぞ、と母親のように諭し擦る手を止めた時、赤い瞳が見開かれた。


「――……あっ。」


 ぽつりと呟かれた言葉に、門田は、え、と返すと臨也は何度か瞳を瞬かせた。


「コンタクト落とした」
「…、なっ…!」


 ガタンッと門田は勢い良く立ち上がり、机をまさぐっていく。物を動かすのはマズイと必死に目を凝らし薄く小さなコンタクトを探す。だが見つからない。
 臨也は片目を瞑り自身の学ランをはたいた。


「大丈夫だよドタチン」
「大丈夫じゃないだろ、今日、これからどうすんだ」
「あー…、サボる」
「お前…」
「いいじゃない。ワンデイだから明日の分とかはちゃんとあるしさ」


 門田は苦虫を噛み潰したような顔をして、残っていたおかずを頬張り教室を出て行く臨也の背中を見つめた。

 さあどこでサボろうかと軽い足取りで廊下を歩く。
 片目だけ入っているコンタクトというのは気分が悪い、と慣れた手つきでコンタクトを外すと廊下にあるゴミ箱に投げた。
 保健室か屋上か…、どちらで午後を過ごそうか考えながら窓から覗く空の蒼に笑みを零した。








「あれ、まさかシズ、ちゃん?」


 ぬるりとした太陽の光で満たされる屋上で、臨也はフェンスに寄りかかって眠る静雄の姿を見つけ目を擦った。
 コンタクトが無い臨也には今1.0の視力も無い。目を細め見つめても髪の黄色と制服の鮮やかな青色の塊でしか捉えらなかった。
 だが昼休みも終わりに近づき授業がまだあるのにも関わらず屋上で寝ている黄色の頭など平和島静雄しか居ないだろう。


「シーズちゃん?」


 ドアを閉め、静雄の名前を呼んで近づいてみるが反応はない。足を投げ出し寝息を立てる静雄の顔を覗きこむ。
自身の視界がクリアになる距離まで顔を近づけると、その距離は鼻と鼻の先が付きそうなぐらいだった。


(あー、また目が悪くなってる気がする。嫌だなあ)


 静雄の寝顔というレアなものを目の前に臨也は的外れな考えにひたる。閉ざされた瞳にシズちゃんと呼ぶのをやめてしまった。ぱちくりと瞬きをひとつするとまじまじと静雄の顔を見つめる。
 あ。案外肌白いんだ、睫が結構あるなあ。こんな冷静に天敵の顔を覗いた事なんて無かった。
 今のうちに顔にラクガキでもしてやろうかと思い立った時、静雄の瞼が震えた。


「……あ、?」
「あーっと、おはよう?」


その距離、約3センチ。


「―――…〜ッん、で! 手前が居るんだッ!」


 ぶんっと振り払われる腕を咄嗟に避けた。重心が後ろに下がり尻餅をついてしまいそうになるのを後ろに手をつき食い止めた。ゆっくりと立ち上がり、静雄との距離をとる。
 静雄の顔がぼんやりと歪んでしまう。犬のように警戒する静雄にクスリと笑った。


「別に屋上なんだから誰が居てもいいじゃない」
「何かするつもりだったろ手前」
「何もしてないしねえ」
「結果論かよ…!」
「なに? 怒ってるの?」
「ああ? 見ればわかんだろ?」


 視界が霞む臨也は静雄がどんな表情をしているかがわからない。見えないから言ってるんだろ、と心の中で悪態をつきながら両手を挙げて敵意が無い事を示した。
 視界が悪い今の状況でいつものように喧嘩が出来るわけも無い。
 臨也は潔く手を上げたが静雄は逆にその態度に眉を寄せた。


「何考えてるんだ手前…、」
「だーかーら、俺はサボりに来ただけ。シズちゃんには興味ないの」
「なんで…顔、近づけた」
「はあ? あー、起きてたんだ? あれは、うんそう。…キスしようとしてた」


 ―――…なんてね。嘘だけど。
 静雄の表情はわからないが、面白いぐらいには怒声が響くだろうなあと内心ニヤニヤして静雄の反応を待つが、一向に反応が無い。見える黄色と青の歪んだ物体は微動だにしない。
 何だ? なにを企んでる?
 静雄の出方を伺うが得られる情報は聴覚しかないため、今静雄がどういった対応をするのかわからず嫌な汗が伝った。
 静雄が目を見開き、わなわなと口を震わせ顔を赤く染めている事に臨也は気付けない。


「シズ、ちゃん?」


 サア…、と生ぬるい風が吹いた。


「シズ、―――…、」


 無言で歩きだしたかと思うと、静雄は臨也の腕をとった。
 その距離1メートル。
 え、なに、と顔を上げるかやはり静雄の表情は歪んだままだった。


(殴られる? まさかこのまま腕とか―――)


 折られるかも、と一瞬歯を食いしばった瞬間、視界に入った静雄の顔が鮮明に映った。真剣な顔、真っ直ぐな瞳に、え、と紡がれるはずの言葉は静雄の口の中に消えた。
 唇に触れる生ぬるい感覚に目を見開くと、金色の髪の毛が鮮やかに舞う。

 その距離、ゼロ。



「好きだ」



おひるのきらめき




(20110315)

少しでもみなさまが笑顔になれますように!

学生時代の無自覚!
臨也が好きな静雄さん→臨也がキスしようとしてた!という嘘を鵜呑みにする→臨也も俺が好きなのか?→キスしちゃう→告白しちゃう
置いてきぼり臨也さん。
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