短編小説 | ナノ



ひまわりのように綺麗で、暖かいあの金色を想う。
笑った顔が、胸をくすぐる。あの茶色がかった瞳がこちらを見る度に息が詰まった。

この感情は、




君に逢ってが咲く





辺鄙な場所にオシャレな花屋が出来て、数週間が過ぎようとしていた。臨也は学校終わりに通るその花屋の様子を伺う事が日課となっている。多くの来神生徒がこの道を通るのもあり、学校では「かっこいい店員が居る花屋」としてちょっとした噂となっているのだ。

そのかっこいい店員との名前は平和島静雄。臨也は初めてその人に花を貰った次の日にはその名を知っていた。

学校の帰り道。よお。と軽く声をかけられ返答に困っていると、なあ、と続けざまに声をかけられる。はあ、とデジャブのように曖昧な答えをすると、その金髪の花屋は臨也を指差した。

「…来神?」


ただそうとだけ言う。


「まあ、そう、ですが。」
「だよな! 懐かしいな学ラン…。あ、俺。来良大学な。」


なんつーの? OBってやつだな。と笑うその人に臨也は対応に困り果てた。だが、ああこの人は大学生なのか、とぼんやりと臨也は考える。
気づけば、貴方は大学生なんですか、と口にしていた。


「ああ、今2年だ。手前は?」
「今。3年、です。」
「受験生じゃねえか。」
「…まあ。」
「っ呼び止めて悪かったな。」


最後にああ、俺は平和島静雄だ。また店、来てくれよ。とだけ言うと手を振る。臨也は何度か目を瞬かせた。へいわじま、しずお。臨也は確かめるように口にすると、静雄は小さく返事をした。

返事をされるとは思っていなかった臨也は、静雄の返事に肩をビクリと揺らし咄嗟に自身の名前を明かしていた。
折原、臨也。いつものように面白い名前だなと目を丸くされるのも何故だか悪い気がしない。どんな漢字を書くんだ? いつの間にか会話が弾んでいた。

それから、毎日のように臨也は花屋を覗きに訪れ静雄もまた臨也を見つければ声をかけていた。








(すごい、繁盛してる…。)


少し肌寒い今日に臨也は花屋をこっそりと遠目に眺めていると、数人の女性が花屋の前に佇み接客に出た静雄に身を寄せていた。かっこいい店員が居る、という噂は臨也の学校だけでないようだった。
臨也はスクールバックを肩に掛けなおし、違う道を行こうと考える。だがどうして花屋が繁盛してるだけで通学路を変更しなければならない? 臨也は方向を変えた足を元に戻した。小さな人ごみだが、いつもと違う風景にあまりいい気分ではないのはどうしてだろう。

臨也は眉を寄せて花屋の様子を窺う。
いつもは、お帰りと声を掛け一輪の花をくれた。毎回花言葉を教えてくれた。

臨也の家は毎日綺麗な花が挿され、妹達は毎日違う花々を喜んでいた。


(今日は貰えないのか。)


残念だな、と臨也は目を細めた。少し早足で花屋の前を過ぎる。女性と静雄の会話を右耳にいれるがそのまま左に流した。



「臨也、」



その声に足が地面に縫い付けられたように動かなくなる。ゆっくりとした動作で振り向くといつもの金髪がそこにあった。
だがいつものように静雄の手にあるのは一輪の花ではなく小さな植木鉢。え、と声にならずに口を開く臨也に静雄はいつものようにそれをずいと差し出した。



「見たことあるだろ? パンジーだ。」
「え、いや。お客さんいいの?」
「ああ、花見てるだけだしな。」
「…いいんだ、それで…。で、パンジーの花言葉はなに?」

「“私を想って”」


一瞬呆けた後に、一気に顔に熱が集まるのを感じる。こちらを見て欲しいと思っていた事を、まさか心の内を読まれたのかと焦るがそんなわけがなかった。

この花を家に飾って妹達に花言葉を聞かれたらどうすればいいんだと、臨也は頭を振る。静雄もまた、まんざらでもなく、視線を流した。



(20110302)

好評を頂きましたので続いてみました。
両片思いというか、すでに両思いだろっていうね!
進展しないお話かつ乙女臨也さんすぎる…。
だが静雄、相手は中学生やぞ。
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