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※いまさらなサイケ誕


 オートロックなその家の玄関に入ると、突然どすんっと脇腹に大きな塊が追突してきた衝撃で津軽は軽くふらつきながらもその塊――サイケをそっと抱きしめた。


「いらっしゃい! 津軽!」
「こら、サイケ。飛びつくのはやめなさいって言ったでしょ」


玄関前の柱が一定の距離を開けて、たてつけされている隙間から黒髪が揺れ凛とした声が響いた。デスクに向かい今の今まで仕事をしていたような臨也は椅子にもたれながら、玄関の方を見ていた。呆れたようなその声に津軽は苦笑いを零して笑う。そうしていると腕の中の黒髪が動いて、ピンク色の瞳が現れた。大きなその瞳は津軽を見据え、口角を上げ満面の笑みを浮かべていた。
 サイケは何も言わずに笑みだけを浮かべている。津軽はわからずに瞬きを繰り返すと、カタンッと音が部屋に響き臨也が席を立っていた。


「津軽が来た事だし、俺は少し仮眠でもしようかな」


 よいしょ、と声を洩らしながら臨也は二階へと上がっていく。ゆっくりしていきなよと赤い瞳が細まる。そのままパタン、と寝室のドアが閉まる音が続きリビング兼事務所のこの部屋に静寂が訪れた。


「あのね! つがる!」


 臨也よりも甘い旋律を奏でるサイケの声にどうしたんだと優しい声で津軽は返し、頭を撫でる。サイケは気持ちよさそうに目を細めて手に擦りよいながら、あのね、と続けた。その口から紡がれた事は―――。


「きょう、サイケの誕生日、なんだって!」


 きらきらとした瞳で見つめられながら聞かされた事実。
津軽は誕生日があるという事など、何も知らなかった。むしろ自分たちは人型PCであり、人間ではない。誕生日などというものが存在している事すら知らなかった。えへへ、と恥ずかしそうにサイケは肩をすくめる。誕生日、と津軽は繰り返すように呟きそこでハッと気が付いた。
 静雄に聞いた事があった。誕生日は祝われるものなのだと。


「おめでとう、サイケ」
「…ふぇ? なんで?」


 心底サイケは不思議そうに首を傾げ、そう言うと、あのね、と言いまた津軽の腰に腕を回し強く抱きしめた。


「臨也くんにね、きょう聞いたの。今日は、サイケの誕生日だよって」


 サイケはいつものようにテレビを見ながら笑い、津軽に会いたいなあとこぼしていた時だった。時々サイケから振られる話に付き合いながら臨也は仕事をこなしていると、ふと臨也が言った。今日ってもしかしてサイケの誕生日じゃないの? と。誕生日ってなに? とサイケが聞くと臨也は生まれた日だよ、サイケが生まれた日。まあ俺にプログラミングされて作られた日ってのが正確だけどね。さらりと答えて、おめでとう、と笑みを浮かべ、容量は悪いけど、いつも助かってるよ。と続けると、サイケは目を瞬かせうーんと首を捻った。


「サイケがおめでとう、じゃなくて、臨也くんにありがとうの日だとおもうの。だってね、サイケは臨也くんがいなかったらここにいなかったんだよ? それってすごいこと、だよね?」
「そうだな。けど、俺はサイケが生まれてきてくれた事が嬉しいよ」
「サイケは津軽に会えたことがうれしい! シズちゃんにも感謝しなくちゃだね! だってそれもサイケやつがるを生んでくれた臨也くんやシズちゃんのおかげだもん。だからね。おめでとう、じゃなくてありがとうの日だよって臨也くんにいったの。サイケをつくってくれてありがとうって。そしたらね。臨也くんのきれいな目がぱちぱちしてね、ありがとうって返してくれてすごくうれしかった!」


 だからね、とサイケは続ける。津軽はサイケの言う言葉に耳を傾け、サイケの考えにひたすら驚きを隠せないでいた。
やはり臨也がプログラミングした人型PCである。
サイケは馬鹿なのではなく、言葉を知らないだけなのだ。今まで誕生日など考えたことがなかった津軽にとって、サイケの考えはとても新鮮で、それ以上にありがとうと言われるたび胸のあたりがくるしくなっていた。


 「津軽がサイケを好きになってくれて、ありがとう」


 誕生日は人が人を祝う。それはその人が生まれてきてくれた事を、成長してきた事を祝う日なのだ。祝われた人は、祝ってくれた人にありがとうと伝えようとするだろう。だがよく考えてみてみれば、自分がここにいるのは、自分ではない誰かだ生んでくれたからなのだ。その人に感謝の言葉を口にするべき日は、自身の誕生日なのではないだろうか。ありがとう、生んでくれてありがとう、育ててくれてありがとう、と伝える日。祝われるだけではなく、感謝の気持ちを返す日なのだ。


「俺も、臨也さんに伝えていいんだろうか」
「ありがとう?」
「ああ。サイケを作ってくれて、生んでくれてありがとうって」
「うん! 臨也くんよろこぶ!」
「サイケも俺と出会ってくれてありがとう」
「うん。うれしい、すっごく嬉しいの。誕生日ってすてきだね」


 出会えた事を噛みしめるようにサイケは津軽をぎゅうぎゅうと抱きしめ、額を羽織りにこすりつける。頭を撫でると、柔らかな髪の毛が指に絡んだ。この感情はなんだろうか。うれしい、幸せで、でも、泣きそうなこの感覚は一体なんと呼ぶのだろうか。
 ふとサイケが顔をあげるとピンクの瞳も薄く涙の膜を張っていた。ちゅ、と小さく音を立てて瞼にキスをするとサイケは爪先立ちをして腰に回した腕を肩に回し、津軽も答えるように腰に手を添え、頭を抱えた。
 静かな場所に心音は無い。だが、二つの灯がそこにあった。



溢れる星屑




(20110530)

ずっと玄関に居たなんて言えないのです…!
いまさらながらサイケ誕生日おめでとうーーー!!
今まで書いてきたサイケと津軽とが設定がちょっと違う気がするけど津サイ。





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